■42
青子さんの口から聞かされた事実。
あぁ、やはり、という思い。
そうだろう、という思い。
それらの思いと同時に強く思ったこと。
「また彼ですか」
そして…。
「彼のようなタイプは、そういう面には疎いんです」
「…」
「青子さんがどうとかではないと思います」
今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めている青子さん。
「青子さんの良さに気づいていないだけですよ」
だからそんな男早く忘れてしまえばいい、と。
誰よりも青子さんを見ているのは、青子さんをわかっているのは自分だ、と、本当は言いたかった。
だが、
「もし、」
「はい?」
「もし、青子が名前だったら…。…それでも快斗は名前を好きになったのかな?」
青子さんは今そんな言葉を望んでいない。
それは今のタイミングで言うべき言葉ではない。
青子さんは僕の知らない長い時を彼と過ごし、僕の知らない長い時の中で彼を好きになった。
「青子さんは青子さんだから良いんですよ」
「…」
「青子さんが名前さんになる必要なんて全く無い」
その言葉に青子さんの瞳からポロリ、と一筋の涙が流れ落ちた。
…神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。
その奇術まがいの早業で次々と「欲しい物」を手にする現代の大怪盗。
…僕の思考を狂わせる、本当に目障りな人物。
青子さんの話を聞いた瞬間こそ、頭は真っ白になりましたが…。
深く息を吸い込んで、強く思ったこと。
「また彼ですか」
そして…「彼にだけは絶対に譲らない。たとえどんな手段を使っても」
目の前で俯き押し黙る青子さんの頭を撫でながら、自分の頭が徐々にクリアになっていくのを感じた。
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bkm