Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「では、これで失礼します」
「気をつけてね」
「工藤くん、また事件の時は頼むぞ!」
「…はい。失礼します」


まだ少し顔の赤い工藤くんを引き連れ警視庁を出る。
もう陽もだいぶ傾いた。


「…俺当分1課に顔出せねぇ」
「自業自得でしょ」


後先考えずに叫んだキミが悪い。
でも。
その後先考えずに叫ぶ勇気もない私には、ちょっと、羨ましいかも、しれない。


「…で?」
「え?」
「話、途中なんだけど」
「…まだ続けるんだ」
「続けるも何もねぇだろ!まだ話終わってねぇじゃねーか!」
「…わかった」
「あ?」
「うちに行こう。このままだとキミ、また叫ぶでしょ」
「…別に叫ばねぇし」
「どっちでもいいから、とにかくうちに着くまで黙ってて」
「…」


―嫉妬してるって、言った?―


さっきの美和子さんの言葉が頭を過る。
嫉妬も嫉妬。
かなり醜い部類に入る嫉妬だろう。
後先考えずになんか、言えるわけ、ない。


「げっ」
「あー…、ちょうど帰宅ラッシュか…」


真夏の満員電車って、拷問。
なんの罰ゲームだ。


「名前さん、こっち」


工藤くんに腕を引っ張られ引き寄せられた先には人1人分のスペースがあって、上手いこと他人と密着せずに済みそうだった。


―顔が見えないように抱き締めてたんですよ―


そんなこと言われても、覚えてないし。
でも。
あんな事件の直後でも、ひどく安心できたのは、覚えてる。


「名前さん?」
「…ちょっとだけ、ね」


それはきっと、耳に響くこの鼓動が大丈夫大丈夫って言ってるように聞こえたから。


―嫉妬してるって、言った?―


ごめんね、蘭ちゃん。
でも。
1度知ってしまったこの場所を、私からはもう、手放さない。
…誰にも、譲れないし、譲らない。


「あー、やっと着いた!」
「やっぱり満員電車は乗りたくないね」


無事に米花駅につき、私のマンションに向かう。
途中でスーパーで夕飯の食材を買うのも忘れずに。
工藤くんと一緒に買い出しなんて、ここのマンションに引っ越した時は思いもしなかった。


「どうぞ」
「お邪魔します」


工藤くんの言う話し合いがどのくらいかかるかわからないけど、とりあえず先に夕飯の支度をすることにした。
…食いっぱぐれたら、直る怪我も直らない。


「いただきます」
「どーぞ。…いただきます」


今じゃすっかり、工藤くん専用茶碗やカップまで揃ってるんだから不思議だ。
ほんと、ここに入居した時には思いもしなかった。


「で?」
「え?」
「いつまで黙ってる気だよ」
「…いつまで、って別に私は」
「だいたい何に対して怒ってんだよ」
「…別に怒ってるわけじゃない」
「あれで怒ってないとかよく言うぜ。蘭も驚いてたし」
「…はぁぁ」
「何ため息吐いてんだよ」


ポンコツだポンコツだと思っていたけど、ここまでポンコツだったとは…。
普通今ここで蘭ちゃんの名前出すか?


―嫉妬してるって、言った?―


言わなきゃ気づかないのか、このポンコツ探偵。


「…つまで、」
「え?」
「いつまでキミは、蘭ちゃんの名前を出すの?」


言った言葉は取り消せない。
自分でも心臓がばくばく言ってるのがわかる。
…この子に会ってから、自分でも驚くくらい、怖がりな私が顔を出す。
我ながら情けない。


「…え?蘭?」


工藤くんは心底驚いてる顔をしている。
それはそうだろう。
キミからしてみれば、寝耳に水なんだろうから。


「キミ、自覚ないの?」
「え?」
「私が蘭ちゃんの名前を出してるんじゃなく、キミが蘭ちゃん蘭ちゃん会話に出してるんだけど」
「…え?いや、俺は別に」
「出してないとか言うなよ、ポンコツ探偵」
「…ポンコツ探偵って」
「口を開けば蘭ちゃん蘭ちゃん。だから私言ったよね?蘭ちゃんのところに戻りなって。でもキミはそうしなかった。なんで?」
「え!?なん、でっ、て…」
「…キミ、自分のことは自分がよくわかってるみたいなこと言ってたけど、キミ自身が1番わかってないじゃない」
「…」
「いくら幼馴染みだからって、いつまで蘭ちゃん蘭ちゃん言うつもり?」


わかってる。
18年という歳月。
その中で共に過ごした彼女を消すことなんて出来るわけ、ない。
でも、それでも…。


「ち、ちょっと待ってくんねぇ」
「え?」
「俺の気のせいかもしれねーけど」
「…なに?」
「名前さん、もしかして嫉妬してる…?」


…ポンコツもポンコツ。
スクラップ間近なポンコツだ。


「普通それ確認しなくてもわかるでしょ」


なに言ってんだ、このポンコツは。
そう思った直後それまで持っていた箸をかちゃっとテーブルの上に置いて、工藤くんは口元を手で覆った。


「やべぇ、俺今すげー嬉しい」
「…はあ?」
「いやだってまさか名前さんが嫉妬って!」
「…私も人並みに嫉妬くらいしますが」
「やべぇ!」


口元を隠してそう叫ぶ工藤くんの手で隠しきれない部分は、真っ赤になっていて。
彼がほんとに興奮してるらしいことはわかった。


「なん、つーか、俺だけムキになってて、名前さんいっつも飄々としてるし」
「…うん」
「なんか俺だけが必死みたいで、なんつーか…」
「うん」
「でも今すげー嬉しい」


ああ、くらくらする。
きっと今日の話し合いはこれで終了。
工藤くんは私の言葉にご満悦。
私は工藤くんのこの表情にくらくらくらくら。
この子はほんと、一緒にいて飽きない。


「キミ、」
「はい?」
「今日、泊まってく?」
「………えっ!?」


さらに顔を赤くした工藤くんに、笑みが漏れた。

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