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30万打企画


工藤探偵事務所・真夜中の事件簿


side S
どのくらい経ったのか、体が振動を感じて目が覚めた。


「…っ…」


ゆっくり目を開けると、寝る前は確か、名前が俺を抱き締めるように寝ていたはずだったが、今は名前は右腕こそ俺に腕枕をしていたが、体は天井を向いて寝ていた。


「…っ…」


目を開ける直前も聞こえた、嗚咽にも似た声。


「…名前?」
「…」


寝起きで掠れた声で名を呼んでみても反応がない。
だが…


「…っ…」


どこか苦しそうな表情で、声にならない吐息を漏らしていた。


「名前?どうした?名前」
「…え…?あ、れ…?」
「夢でも見てたのか?」
「ゆ、め…?」
「魘されてた」


体を少し起こして名前の顔を覗き込む。
…よく見りゃコイツ泣いてんじゃねぇか。


「米花町…」
「うん?」
「米花町に、いるんだけど、」
「うん」
「誰もいなくて…」
「え?」
「みんなどこに行ったのかなぁ?って捜しても誰もいなくて…」
「…」
「米花町にいるのに、誰もいなくて…」


そこまで言うと名前は目尻を拭った。


「バーロォ、夢くらいで泣いてんじゃねぇよ」
「う、うん。そうだね…。夢で良かっ」


−行く場所も帰る場所もなくて困ってるんちゃうの!?−


元々寂しがりなところはあった。
それによく泣くし…。
でもこうも追いつめたのは、他ならぬ俺自身。


side H
いつもの街並み、いつもの道。
でも走っても走っても誰もいなくて。
心細いとか、そういう言葉じゃ言い表せない不安が胸を覆った時


「名前?どうした?名前」


新ちゃんに起こされた。


「夢でも見てたのか?」
「ゆ、め…?」
「魘されてた」


すごく、リアルに感じた夢。
いつも見慣れた街並みなのに、誰もいない、無人の街。
怖いとか、寂しいとか。
いろんな感情がぐちゃぐちゃになってみんなを捜した。


「バーロォ、夢くらいで泣いてんじゃねぇよ」
「う、うん。そうだね…。夢で良かっ」


そこまで言うと、新ちゃんがぎゅっ、って腕に力を籠めて私に覆い被さってきた。


「し、新ちゃん?」
「…」


私の耳たぶに鼻をつけて、まるで耳の匂いを嗅いでる犬や猫みたいにぴったりくっついて離れない新ちゃん。
首にかかる息がちょっぴり擽ったい。


「…んっ…」
「…」


そのまま何度か耳たぶを甘噛みされた後、ちゅっ、て音を立てて耳にちゅうしてきた。


「新、ちゃ、」
「ここだぜ?」
「え?」
「オメーの居場所も、帰る場所もここだ。1人なわけねぇだろ」


少し体をあげて言う新ちゃん。
部屋が薄暗くて、よく見えないけど、新ちゃんが細めた目からは、綺麗な青い瞳が覗いていた。


side S
「オメーの居場所も、帰る場所もここだ。1人なわけねぇだろ」


その言葉に名前は、まだ少し、濡れている瞳を嬉しそうに細めて笑った。


「…ん…」


どちらからともなく、近づけたクチビルに、名前の吐息が漏れた。


「新ちゃんて、」
「うん?」


クチビルが離れた時、名前が口を開いた。


「よく甘噛みするよね。クチビルとか、鼻とか…。さっきも耳たぶにしてたし」


くすくす笑う名前の声が聞こえる。
…んなこと意識したことなかったんだが…。


「…嫌か?」
「ううん!新ちゃんに甘噛みされるの擽ったいけど好き!」


そう言って笑う名前。
あぁ、クソ。
今のでまた、寝不足決定だ。
明日午前に一コマあんのに…。
なんて思ってる俺に、私もしてあげる、と両手で俺の頬を包み込み鼻を


ガブッ


噛まれた…。


「いったーい!!」
「俺が痛ぇんだよっ!加減てもんしらねぇのかっ!?」


「甘」噛みじゃなく、ただ噛んだだけじゃねぇかよっ!!


side H
「だ、だだだってさ、あんまりわかりにくいのもどうかと思って、」
「噛めばいいってもんじゃねぇだろ!?」
「そうだけど…」
「せいぜい、」
「…ん…」
「…このくらいだ」


そう言って私の鼻からクチビルを離した新ちゃん。
…そりゃあ、私がいっくらバカでも加減くらいわかるよ。
でもさ、あのまま新ちゃんの鼻をかぷっ、て甘噛みするの、なんだか恥ずかしかったんだもん…(言い出したのは自分だけど)
そしたら無意識にがぶっと噛んでしまった、というか…。


「痛かった?」
「スゲェ痛かった!」
「…ごめんなさい…」


口を尖らせて言う新ちゃんの鼻にちゅうしたら、顔を離して一瞬目を見開いた新ちゃんに、今度はクチビルにちゅうされた。

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bkm

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