▼ 親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ
逃げ惑う人々の悲鳴をBGMにあたし達は会話を続ける。
『やっぱ…来てたか』
「あたりめェだろ。俺がこんなでけぇ祭り見逃すと思うか?」
『思わないねェ』
銀時と晋助に近づき、銀時に向けている刀を素手で掴む。サクッと皮膚が切れ、血が地面に滴り落ちる。
晋助に覚えてるか、と問われる。
「俺が鬼兵隊って義勇軍を率いていたのをよォ。そこに三郎って男がいてな、剣はからっきしだったが機械には滅法強い男だった」
俺は戦しにきたんじゃねェ、親子喧嘩しにきたんだといつも親父さんの話ばかりしてるおかしな奴だったらしい。しかし三郎さんも親父さんの元へ帰ることもなく死んでしまった。
「全く酷い話だぜ。俺達は天人から国を護ろうと必死に戦ったってのに」
肝心の幕府はさっさと天人に迎合した。天人との関係を危惧してあっさり侍どもを見捨てたんだ。鬼兵隊も粛清の憂き目にあい壊滅。
「河原にさらされた息子の首見て親父が何を思ったかは想像にかたくねーよ」
「高杉、じーさんけしかけたのはお前か…」
「けしかける?バカいうな。立派な牙が見えたんで研いでやっただけの話よ」
『……』
「わかるんだよ、俺にも。あのじーさんの苦しみが。俺の中でも未だ黒い獣がのたうち回ってるもんでなァ。仲間の敵を…奴らに同じ苦しみを…殺せ殺せと耳元で四六時中騒ぎやがる」
殺せ殺せ…仲間の敵…同じ、苦しみを…。
「銀時、てめーにはきこえねーのか?いやきこえるわけねーよな。過去から目ェそらしてのうのうと生きてるてめーに、牙をなくした今のてめーに俺達の気持ちはわかるまいよ。だが」
晋助はあたしの方に視線を向ける。
「風香…お前にはきこえるだろ、獣のうめき声が。黒龍と謳われたお前には」
『黒、龍…』
ああ、随分と久しぶりにきいたな…その名前。
黒龍。それは攘夷時代のあたしの通り名。
確か…【漆黒の髪を尾のようになびかせ、獲物を刈る姿はまさに黒き龍】。そんな由来だったと思う。
「お前には黒い龍がまだ棲みついてる。そうだろ?」
『……さあ?どうだろうね』
「高杉よ、見くびってもらっちゃ困るぜ。獣くらい俺だって飼ってる。ただし黒くねェ。白い奴でな、え?名前?定春ってんだ」
第十九訓
親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ
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