▼ さくらんぼってアレ桜の木になるの?
「ぶェくしょん!」
「はくしょん!」
『まいけるじゃくそん!!』
「オイ風香お前まいけるじゃくそんはねーだろィ。それはお前くしゃみじゃ…じゃねっとじゃくそん!!」
『まえだたいそん!!』
「おめーら二人うるせーよ普通にしろ!」
今、屯所中は大変なことになっている。それは…、
「はっくしょい!」
「ぶぇっくしょん!」
「ブヒー!!」
そう、花粉である。どうやら今年は例年にもましてヒドイようで、花粉症でない人も花粉症みたくなってしまっているらしい。
「街中花粉症でヤバイらしいですよ。どーなってんでィ」
「あー?今年はスギ花粉じゃねーんだとよ。なんだかどこだかの星の植物らしくてタチの悪いらし、」
そこで言葉を途切れさせ土方さんはくしゃみをする。
「こりゃ当分見廻りも行かねー方がいいですねィ」
『あ、ティッシュ切れた。ザキ買ってこいよ』
「話きいてた!?」
第三十三訓
さくらんぼってアレ桜の木になるの?
『チックショー アイツらあたしをあごで使いやがって…』
ぶつぶつと呟きながら出る店は大江戸スーパー。ありがとうございました、というお決まりの店員の声を背にスーパーを出る。
屯所に向かって歩を進めていると電話がかかってきた。
〈あ、風香?悪ィけどトイレットペーパーあったわ〉
『は?』
〈それだけでさァ。じゃーな〉
ブツッと切られる電話。ふざけんなよコノヤロウ。総悟が大江戸スーパーのティッシュじゃなきゃ嫌だとかわがまま言いやがるからわざわざここまで来たのに何この仕打ち。キレていいかな?キレていいかな?
万事屋で休もうかと思い、そちらに歩みを進めるとあるものを見てUターンした。
それは【ヘドロの森】という所だった。いつのまにやら万事屋の前に立っていたヘドロの森。どうやら件の花粉の原因はこれのようだ。成程そうなのかと納得し再び屯所に戻ろうとすると立ちふさがる三つの影。言わずもがな、万事屋三人だった。
「風香、ちょっと待て」
『断る』
「風香、ちょっと止まれ」
『断る』
「風香、ちょっとストップ」
『断る』
なんてやりとりを銀時としてる間に神楽に電柱の陰に無理矢理押し込まれた。痛いんだけど。
『……で?何やってんのこんな電柱に隠れて』
「いやあの…屁怒絽さんに回覧板を届けに…」
『頑張れ』
「「「ちょっと待てェェい!!」」」
ガシッと隊服をつかまれる。やだコレ泣きたい。
『何。何なのアンタら。あたし関係ないでしょ万事屋じゃないんだから』
「そんなこと言うなよ〜、俺とお前の仲だろ〜」
『何コイツウザい殺したい』
「この子物騒!!」
こんなに騒いでいるが、視線は常に屁怒絽さんに向けている。気づかれて消し炭にされたら恐いからね。
『ふむふむ、ジャンケンで負けた新八が回覧板を届けると』
「はい、そうなんです」
『そうか…じゃあ頑張れ』
「待て、お前も協力しろ」
隊服を放さないところを見ると、どうやら協力しなければ屯所に戻れないようだ。
「新八、さっきも言ったが直接渡す必要はねェ。通行人Aのふりをして通り過ぎざまに回覧板を置き去ってこい」
「通行人Aって、BもCもDもいないじゃないスか。恐がって誰も歩いてねーよ、明らかにAが浮くよ」
「心配するな、通行人ならいる」
神楽は大次郎役。銀時は父親役。あたしは姉役を演じる。
「ちゃーん」
ガラガラとベビーカーを押し、ヘドロの森の前で立ち止まる。
「ちゃーん、ちゃーん」
「ああ、なんてことでござる」
『母が死んでからというもの弟が…「ちゃーん」しかしゃべらなくなってしまった』
『ちゃーん』とは父もしくは姉の意を指す。
「母を失って拙者か姉の風香しか頼るもののない今これは仕方なきことだがこのまま直らなかったらどうしよう。例えば…
「ちゃーん。ちゃんちゃんこちゃん借してちゃん」
「え?何?何?もっかい言って」
…このままじゃ生活もままならないぞ。でも直すのもなァ…ちゃんちゃん呼ばれるのもなんか尊敬されてるみたいで気分いいし」
【父と姉はしらなかった。大次郎の口癖「ちゃーん」とは「父もしくは姉」の意ではなく、母がよく父に言っていた「あんたさァ、ホントちゃんと働いて!マジ家計キツいんだけど。風香はちゃんと働いてくれてんのに何やってんのあんたは!」の「ちゃん」であることを。大次郎は別に父が好きとかそーゆーのは全然なかった。ただ姉には好意を抱きなついていた】
ちらりとヘドロを見ると泣いていた。新八ィィ 今だいけェェ!!
新八は回覧板を持って勢いよく走り出す。そして…鼻緒が切れ回覧板は勢いよくヘドロの顔面に直撃した。
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