▼ みみずにおしっこかけると腫れるよ
銀時が何を思って神楽を星海坊主の元に返したのか、大体はわかってる。
あたしも銀時も捨て子で、親の暖かさなんて知らないから。
ホントウの親がどんな存在なのか、どんなものなのかなんて、わかりたくてもわからないから。
神楽は親の元に帰るべきだと。そう考えたんだ。
『気分転換に外にでも行こ…』
***
外に出たら銀時と定春が何かをやっていた。芝居だろうか。
「えいりあん?しらねーな。お菓子屋みたいな名前しやがって。栄利庵か?あん?いっとくけどよォー、地球はてめーらなんかに渡さねーから。地球はわしらやくざのもんじゃーい!!」
「ワン」
「なんだとう。お前そんな事を…あのアレ…ひどいぞー。お前アレだぞ、そんなことしたらあの…ダメだぞォォ!!」
どうやらえいりあんvsやくざの呼び込みをしているらしい。銀時はやくざのコスプレを、定春はえいりあんの着ぐるみを着ている。でも見ている者は一人もいない。
銀時と定春は「ダメだぞォォ!!」の言葉で殴りかかるポーズをとり一時停止する。
〈かくしてえいりあんとやくざの地球存亡を懸けた戦いが今始まるわけでございます。はたして地球の運命は?続きはぜひ劇場の方で…ってくるかァァァァ!!誰が来るかァァァ こんな呼び込みで!!何このグダグタ感!」
ナレーションをしていたのはマダオだった。だがマイクを捨てる。確かにこんなグダグタじゃ無理だよね。
……………つーかいつまで一時停止してんの。
「おーい風香、なんかいいアイディアあるならくれー」
『気づいてたのかよ』
「まーな」
銀時と話をしながら刀を鞘から抜く。そしてマダオの喉元に突きつける。
「ちょ、え!?何!?何してんの!?」
『ここで首飛ばしたら何だ何だと来るでしょ、人』
「それ野次馬!!」
ヤメテと叫ぶマダオを哀れに思ったあたしは刀をおろした。
『それより銀時さ、いいの?』
「何が」
『神楽のことだよ』
きかなくてもわかってるでしょうに。
「……いーんだよ。これでよかったんだ。俺には親子ってのがどーいうもんなのかなんてよくわからねーが……これでよかったのさ」
『…そ。ま、銀時が決めたことならとやかく言わないけどさ』
そんな時、マダオが館内からあたし達を呼んだ。なんだと思い中に入ってみるとテレビの前に人だかりができていた。
〈えー、みなさん見えますでしょうか?謎の生物によって現在一隻の船がターミナル内で事故を起こし機体の壁面からつき出た状態です。一体中はどうなっているのでしょう。上客の安否が気づかわれます!それにしてもあの禍々しい生物は一体何なのでしょう?ん…アレ ちょっ…人影?〉
カメラの映像がアップされ、人影が見える。
『あ…れって…神、楽……』
〈間違いない、人です!人が!えっ…女の子!?なっ…なんということでしょう、少女が!一人の少女が謎の生物相手に戦っているんですか!?信じられません、人間なんでしょうか!?〉
あたしと銀時は、放送を最後まで聞かずに走り出していた。
「何してやがんだ、風香」
『何って…決まってんでしょ。神楽助けにいく』
「俺一人で十分だ」
『えー、右腕置いてくの?』
定春に乗った銀時。その後ろに乗るあたし。
『あたしはアンタの右腕。それは今も昔も変わらないよ』
「ハッ 上等だ」
定春を出発させた。
第二十九訓
みみずにおしっこかけると腫れるよ
prev / next