銀色ジャスティス | ナノ


▼ メニューが多いラーメン屋はたいてい流行ってない

『幾松さーん!』


ガラリとラーメン屋…北斗心軒の扉をあける。非番ではないが仕事帰りに立ち寄りたくなったのさ。


『ラーメン一杯…ん?』

「おお、久しぶりじゃないかい」

『幾松さん幾松さん、アイツ誰?』


そこにはなぜか長髪バカがいた。なんで変装もせずこんなトコいんの。バカなの?死ぬの?


「人の道を間違えた奴」

『オイ ヅラァ、お前幾松さんに何吹き込んだ。殺すぞコルァ』

「風香貴様なぜこんなところにいるんだ!?」

『そりゃこっちの台詞だよバカヤロー。外に真選組アイツらいんのに。捕まっても知らないから』

「そりゃないよ風香〜。かくまってよ〜」

『お前ホントウザい』


またガラリと開く扉。真選組かと思ったが違った。ガラの悪い奴が三人入ってきた。


「い〜くまっちゃん、げ〜んき?」





第二十六訓
メニューが多いラーメン屋はたいてい流行ってない





幾松さんは静かにため息をもらす。


「なんだよつれねーな、かわいい弟が遊びに来てやったんだぜ」


か、かわいい弟…だと…!?お前ゴツいじゃねーかどこがかわいいんだよ!!


「ハン 弟だ?冗談よしてくれ。大吾が死んでアンタと私はもう何のつながりもありゃしないよ」

「つれねーこというなよ。一人残された兄嫁を心配してこうしてちょくちょく見に来てやってるってのによォ。ここは元々兄貴の店だぜ。奴が死んで俺がこの店もらうはずだったところをお前がどーしてもっていうからゆずってやったんだ。ちょっとくらい分け前もらってもバチはあたらんだろ」

「また金かィ?いい加減に…」

『いらっしゃいまっせー』

「メニューの方はお決まりですか?」

「おいィィィ 勝手に何やってんだ。ってか何料理屋!?」


あたしとヅラは着替えてゴツい三人にメニューをきいていた。そして幾松さんにツッコまれた。


「オイオイ いつからバイトなんて雇ったんだ?」

「バイトじゃない桂だ」

『メニューは?あっ 三人ともチャーハンで?』

「いやチャーハンなんて一言も言ってないから」

「別に俺達ゃメシ食いに来たわけじゃねーんだよ。去ね去ね」

「では当店お勧めのコースはいかがでしょう、Bコース?」

「ああもうBコースでもオフコースでもいいから少し黙っててくれ。俺は幾松と大事な話があんの」

『よしわかった。幾松さーん、チャーハン三つ』

「「「結局チャーハンかィィィ!!」」」


おお、見事にハモってるね。


『チャーハンは前菜だよ。Bコースは他にメインディッシュとデザートがありまーす』

「きいたことねーよこんな充実した前菜!」

「つーか何この嬢ちゃん、店員なのに客の前で携帯いじってんだけど」

『え?鼻くそほじってる?誰がほじってんだコノヤロー!!』


ドカッと殴る。客?誰それ。


「いや誰もそんな事言ってねーし!……それより幾松、早く金よこせ。困ってんだよ」

「………金はこないだ渡したので最後だって言ったろ。それに私きいたんだから。アンタら攘夷だなんだとウソぶいて明里屋の金蔵襲撃したらしいじゃないか」

「国を救うという大事の前では強盗なんざ小事よ。俺達攘夷志士には金が必要なんだよ!ぶぼ」

「何が攘夷志士だァ!?金がほしいだけのゴロツキがカッコつけてんじゃないよ!!外で屯してる真選組もアンタらなんか相手にもしてないだろーよ、小物が!!だから嫌いなんだよ、あんたらみたいな連中!あんたらみたいなのがいなければ大吾も…」


幾松さんは思い切り義弟の頬を殴った。その瞳には涙がたまっていた。


「んだァァ このアマッ!」

「メインディッシュお持ちしました」

「うるせーんだよあっち行っ…ってまたチャーハンんんん!?メインディッシュもチャーハン!?」

『エビチャーハンだよ間違えんな。ちなみにデザートは冷えたボソボソのチャーハンっす』

「チャーハン三昧じゃねーか!!何ィ!?そのチャーハンへのあくなき執念は!?どこから湧いてくるの!?」


その時、男達が腹が痛いと言い出した。


「はうっ!!なんだ!?急に腹が!!」

「俺も」

「ヤベッ これ…便意を通りこして殺意だ!!」

「か…厠!!」

「入ってまーす」

「てめェェ」


厠にいこうとした義弟。だがヅラが入っていてそれは叶わなかった。チャーハンに仕込んだアレがようやくきいてきたらしい。三人は帰っていった。

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