▼ どうでもいいことに限ってなかなか忘れない
それは、見廻りをしている最中だった。前から万事屋が歩いてきて、声をかけたらこのザマたァ笑えるね。
「君は…誰だ?」
『………………は?』
恐らくあたしの顔は今とんでもないことになっているだろう。いやいやいやいや…え?今なんつった?銀時今なんつった?
あたしはつかつかと銀時の前まで歩を進めると……そのままアイアンクローをかました。
『なぁに銀時、もっかい言って』
「君は…誰だ?」
─ミシミシッ…
「うわわー!銀ちゃんの顔が大変なことになってるアル!!」
「風香さん落ち着いてください!銀さんは記憶喪失になってしまったんです!!」
『は?』
銀時が…記憶喪失…?
『じゃああたしのことも忘れちゃったの?』
「スミマセン」
『…あたしのことは覚えてるよね』
「いやスミマセンって言ったじゃないですか」
『いや覚えてるよ戦友を忘れるなんて右腕を忘れるなんてふざけんなよコノヤロー』
新八にツッコまれるがそんなこと気にしてる暇はない。
「戦友…戦…?あなたは僕と戦っていたんですか?」
『右腕としてね』
「え?右腕?僕の右腕はここにありますけど」
『そっちの右腕じゃねェよ!!』
その時、やんわりと手を握られた。
「こんな可愛らしい女性を忘れてしまうなんて僕は愚かだ。けど、絶対に思い出します。必ず思い出しますのでそれまでしばしご辛抱を」
『なっ…!』
バッ…バックにキラキラが見えるだとォォォ!?
こんな銀時はアレ、攘夷戦争以来だよ。目と眉がちょっと近づいてるよ。黒目がいつもよりちょっとデカいよ。
少し頬が赤くなっていると携帯が震えた。土方さんからだ。
『もしもし土方さん?どーしたの。え?会議?今から?ハイハイわかったよ』
通話を切る。
『ごめん、会議があるらしいから今日はこれで失礼するね』
「わかったアル」
『次会ったとき、記憶戻ってるといいね』
そう呟き、その場を後にした。
あたしはこの先を予想していなかった。まさか銀時が万事屋を解散させるなんて、思ってもいなかったのだ。
第二十五訓
どうでもいいことに限ってなかなか忘れない
prev / next