揺れている。
ああ、これはきっと、船の中だ。
霞んだ視界に優しく映るのは、桃色の袴姿の、彼女だった。
その姿は記憶に新しく、看病してくれていたのだろうと思った。
「ゆき、むら」
用もないのについ口にしてしまった名前。
「はい、何でしょうか」
「いや…、何も、」
じわりと伝わった温もりに、目を見開く。
彼女が俺の手を握る。
「はやく、元気になってくださいね」
駄目だな、俺は。
死ぬ覚悟などとうに決めた。
なのに彼女を見るだけで。
笑顔を向けられるだけで。
死にたくない、と思ってしまう。
握り返した手に、その想いが強くなる。
「雪村」
「はい」
「お前を、好いている」
あの時、君に触れようとした時に気付いた。
言うつもりなど無かった、
でも、
「私も、山崎さんが」
彼女の手を。
握る俺の手は、力が入らなくなっている。
すり抜けて、
俺の意識は、途切れた。
儚き夢が
叶ったのに、
1←
←