「それじゃあ、行ってきます。みんな、本丸のこと頼んだからね。」

「任せてよ主様!」

「主、気をつけていってらっしゃいませ。」

「おみやげよろしゅう〜♪」

後ろを振り返り、手をふる美奈を、石切丸は目を細めてみていた。
その隣に、複雑な表情を浮かべた加州清光と山姥切国広。
美奈はこれから、本部に向かい、国宝・三日月宗近を預かってくる。
彼がわけありの刀であるということはすでに、この本丸の刀剣男士全員が知っていた。
それでも彼をこの本丸に迎え入れることになったのは、みんなの優しさのおかげだった。
ただ、不安をぬぐえないのも事実・・・。

「石切丸、本当に大丈夫なんだろうな。その、わけありの三日月宗近は・・・」

山姥切国広が、じろりと石切丸を見る。
まるで、「あんたみたいにならないだろうな?」と言っているようだった。
加州清光も、不安そうな眼差しをしている。

「大丈夫さ。もし緊急事態が起こったなら、私たちで止めればいい。
私の時とは違うんだしね。あの頃は、本丸には君たちと弱小の短刀たちしかいなかった。」

「言っとくけど、俺はあんたを完全に許したわけじゃないからね。
あんたが美奈の腕につけた傷は、今でも残ってんだ。
もし三日月宗近が、あんたと同じようなことになったら、俺は迷わずそいつを折るから。
天下五剣とかそんなの関係ない。美奈を傷つけるやつは、俺が倒す。」

鋭い眼差しで、そう言った加州清光。
山姥切国広と加州清光の、美奈に対する思いは強い。
彼らは美奈の初期刀なのだから・・・。

「分かってるさ・・・。私も私なりに、三日月宗近には話をしてみるつもりだよ。」

「・・・あんたがそう言うなら、少しは安心だ。よろしく頼む、石切丸。」

「承知した。」

他の刀剣たちがパラパラと散っていく中に、石切丸の姿もまぎれて行く。
山姥切国広と加州清光は、ただその大きく広い背中を見つめるだけだった。



「・・・ほぉ。これが国永の師匠である三条宗近が打った刀かぁ・・・」

「うわぁ〜・・・・綺麗だなぁ〜・・・」

「これまでいろんな刀を見てきたけれど、天下五剣を見たのは初めてだよ。」

持ち帰った三日月宗近を、鶴丸国永と五虎退、燭台切光忠が眺めている。
そこに別の短刀たちも混ざって行く。
その後ろで、薬研藤四郎と一期一振、審神者の美奈が苦笑していた。

「しかし私も三日月殿とは直接的なご縁はなかったものの、
秀吉様の正室・北の政所様のところで幾度かお目にかかったことがございます。
お姿はあの頃とあまり変わられておられませんね。」

「そりゃね、変わっちゃったらまずいでしょ、いち兄。」

「でも私は、再刃され少し背が縮んでいるよ、薬研。」

そりゃそうだけどさ・・・と薬研が呟く。
二人の会話を聞きながら、美奈はニコニコと笑った。
この本丸は、本当ににぎやかになった。
昔は初期刀の加州清光と、山姥切国広、短刀が何振かしかいなかった。
今では石切丸もいるし、太刀組も多い。
三日月宗近が、安心して心を開いてくれるといいなと思いながら、短刀たちに囲まれるそれを見た。

「三日月殿は、心を開かれるとよいですね、美奈殿。」

「そうだな。美奈の優しさはきっと、三日月の旦那に伝わると俺っちは思うよ。」

「本当に、そうだといいね。
さて、私は少し、宗近を静かなところで休ませてあげることにするね。
たぶん、時代を超えて疲れてるだろうし、あんなに刀剣たちに騒がれてるしね。」

美奈は、わーわーきゃーきゃー騒ぐ刀剣たちの間に入り、三日月宗近を抱える。
「今日はこれまでね。彼を休ませてあげるわ」と言う言葉に、「えー・・・」と短刀たちが不満の声をあげる。
ため息をついた一期一振が、自分の弟たちをなだめに入る。

「じゃあ今日は、いち兄と主様が一緒にご本を読んでよ!」

乱藤四郎の提案に、短刀たちみんなが頷く。
「仕方ないなぁ・・・」と言った美奈に、一期が謝る。

「すみません、美奈殿。弟たちがわがままを言って・・・」

「別にいいよ、一期。短刀たちは私の子供みたいなものでもあるしね。」

「じゃあ、いち兄は主様のお嫁さんだね。」

「こら秋田!美奈殿になんて事言うんだ!
私のお嫁さんだなんて、主殿に失礼なことを・・・・」

一期がそう言い、赤くなる。短刀たちはさらにそれをからかい始めた。
「いち兄は主様の事が好きなくせにー」と言う彼らの言葉を聞き、美奈もつられて赤くなる。
あきれかえった薬研がやれやれと首を振り、短刀たちをそのまま短刀部屋へと返す。
一期と二人きりになった美奈。

「ははっ。なんて言うか・・・本当にすみません、美奈殿。」

「ううん。いいのいいの。気にしてないし。」

「そうですか。でも・・・私は弟たちの言うように、美奈殿のことが好きです。
お慕い申し上げております。だからこそ、三日月殿に言いたいのです。」

そこで一期は、美奈が抱えてるその黄金の太刀に視線を向けた。
ぞくりとするほどの冷たい声で言い放つ。

「もしもあなたの気が変わり、顕現したとして、美奈殿を傷つけるようならば私はあなたを許さない。
きっとそれは、どの刀剣たちも同じだ。
特に初期刀である清光殿と国広殿は、あなたを本気で折りにかかると思います。
だから、それだけはないよう、私は願っております。三日月殿、よろしくお願い申し上げる。
・・・では美奈殿。私はこれにて・・・。」

そのまま部屋を出て行った。
あとに残された美奈は、瞳を細める。

「三日月宗近。この本丸には、いい刀剣男士しかいないのよ。
もしもあなたの気が変わらず、顕現されたくないと思うのなら、私はそれでもいいと思う。
その時は、責任持って私があなたを・・・折るわ。
辛い記憶を残したまま過ごすのは、あなたにとってあまりにも残酷なことでしょう?」

少し三日月宗近が何かを答えた気がした・・・・。



ーーーーーーー 続く ーーーーーーー



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