本丸の近くで、薬研藤四郎と宗三左文字が、
何者かに襲われたのが1週間前。
幸いにも、二人とも無傷ですんだのだが、
敵はついにこの本丸を突き止めたというのだろうか?
そんな不安が、この刀剣男士たちの間で広がっていた。
一番怖いのは、自分たちが折れることではない。
主である審神者を失うことだ・・・。

この件に関して、主である美奈から、
もう少し詳しく調査をすることを伝えられた。
そんな悠長なこと言ってられないと、長谷部や光忠は抗議したが、
相手の正体も知らずに動くのは、得策ではない・・・
彼女はそう言った。

この本丸に長くいる鶴丸国永、小狐丸、石切丸、三日月宗近の三条勢や、
初期刀である加州清光までが美奈に賛成したため、本丸はこのままとなった。

* * *

鶴丸たち第一部隊が調査に乗り出して1ヶ月。
ある夜、本丸にいる刀剣男士たち全員が、大広間に集められた。
美奈抜きで。それはつまり、第一部隊の面々が皆に号令をかけたのだった。

「よし、集まったな。今回集まってもらったのは他でもない。
この前、薬研や宗三が襲われた件について・・・だ。」

鶴丸の冷たい声が大広間に響く。
みんなその場に座したまま、つばを飲み込んだ。

「俺たちがここに集められたということは、
第一部隊は何かを掴んだ・・・ということか?」

薬研の声が上がり、視線が第一部隊の面々・・・
鶴丸・石切丸・小狐丸・宗近・清光・一期一振に集まった。

「まぁ、簡単に言えばそういうことだな。
もったいぶっても仕方ないし、話すとしようか。
先に言っておくとこれはその、なんていうか・・・驚きの結果ってやつさ。」

「私たちはまず、この本丸自体を調べたんだ。
本丸の近くで二人が教われたということはつまり、
この本丸の中に内通者がいるのではないか・・・と疑ってね。
ここの場所のことは、敵が単独で掴むには難しいからね。
あまり仲間を疑いたくはなかったんだが・・・・一つ、分かったことがあった。」

口を開いた石切丸は、急に鋭く目を細めた。
携えていた大太刀をぐっと握り、低い声でつぶやく。

「内通者が、いたんだよ。それも、この本丸に結構な数の内通者が・・・。」

ざわっ・・・・と、刀剣たちの間に動揺が広まった。
しばらく石切丸は静かに目を閉じていたが、意を決したように鞘から大太刀を抜いた。
それを合図に一期が悲しそうに目を伏せ、宗近が鋭い視線をある一人に向けた。
そのまま彼が言い放つ。

「小狐よ、いつまで芝居を続けるつもりだ?」

ぴくっ・・・と小狐丸が反応する。

「嘘だろ?小狐丸・・・お前が長谷部たちを?」

兼定が声を荒げた。
フッ・・・と不敵な笑みを浮かべる小狐丸。
それを見て、鶴丸が苦しそうに言葉を紡ぐ。

「小狐丸だけじゃないさ。まず、本丸近くの奇襲自体が芝居だったんだ。
なぁ、そうだろ?長谷部、宗三・・・・!」

鶴丸の声が飛んだと同時に、長谷部と宗三も不敵な笑みを浮かべた。

「バレてしまいましたか・・・。それは残念ですね。」

「お前たちがそこまで頭の回転が早いとは、思ってもいなかった。」

二人は立ち上がり、小狐丸のそばに立つ。
他の刀剣たちは、三人から離れた。口々に驚きの声を上げている。
「でも・・・」と、静かに小狐丸が言う。

「私に同調したのは、この二人だけではないですよね?」

「なんだと!?」

岩融が小狐丸を睨みつける。彼の周りから、ちらほら離れて行く刀剣たちがいた。
今剣、山姥切国広、堀川国広、大和守安定・・・そして、薬研藤四郎。
彼らはみんな、敵方の歴史修正者たちについていた。
敵方に寝返ることを、刀剣たちの間では『闇落ち』と呼んでいる。

「こんなにまで、闇落ちした刀剣がいたとはな・・・。驚きだぜ!」

静かに、鶴丸は言った。

「今剣・・・まさかお前が・・・」

「堀川・・・!なんでだよっ!?」

「安定、あんたも向こう側についていただなんてね・・・。」

「国広兄弟よ。なぜ闇落ちなんか!」

「薬研・・・私はお前を信じていたかったよ・・・」

「俺はもう少し、お前と兄弟でいたかったな、小狐丸。」

親しかったものたちが、”なぜ?”を問う。
闇落ちした刀剣男子たちにも、各々の理由があった。

「僕は義元公の守り刀。だから・・・義経公を救いたいんです。
歴史を変えてでも・・・」

「だって兼さん・・・・僕はやっぱり・・・前の主を救いたい!」

「ごめんね、加州。僕も今剣や堀川と同じだよ。沖田君に・・・会いたい。
沖田君を救いたいんだ!」

「国広を殺せば、山姥切の写しである俺は生まれない。
写しとして生きていく苦しみが・・・なくなるんだ。
正当派のあんたには分からないだろうがな、兄弟。」

「・・・原因はあんただよ、一期。
藤四郎唯一の太刀だからって、いつも兄貴面しやがって。
そんなお前が気に入らないんだよ!俺はあんたを・・・殺す。」

「私も魔王を・・・織田信長を、この手で殺したい。
ただ、それだけのことです。自分の刀に殺されるなんて、笑えませんか?」

「私は歴史には興味なんてありませんよ。
ただ・・・ぬし様を独り占めしたいだけ。
私だけのぬし様にしたいだけです。
歴史が変わろうが変わらないだろうが、私には関係ない。」

「俺も同意見だ。主を守り抜くのが俺の使命。
ならば俺は主をお前たちから奪い、俺の目の届くところに置いておきたい。
俺だけの主にしたいだけだ。」

義元を
土方を
沖田を

救いたい。

国広を
一期を
信長を

殺したい。

美奈を

独り占めしたい。

それぞれの思惑が重なったとき、闇落ちした刀剣たちは刀を抜いた。

「まさかここが戦場になるなんてね。でもみんな、気をつけてよね。
主だけは絶対に、傷つけないでくれよ?
主を傷つける刀剣なんて、かっこ悪いだけだからねっ!」

光忠が刀を抜いたのを合図に、残った刀剣たちもそれぞれの刀を抜いていく。
最後までしぶっていた一期一振が、悲しそうな顔をして刀を抜いた時、鶴丸が叫ぶ。

「さあ・・・大舞台の始まりだ!」



俺たちの望む未来は?



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