『まだ、来ちゃダメよ・・・?』

気付けば僕は、赤い花がたくさん咲く場所で、彼女の前に立っていた。
キミと最後にあったのは、もう何年も前で。
あの頃はまだ日本があって、僕もキミもまだ小さくて。

だけど今ここにいるキミと僕は成長している。
キミの豊かな長い真っ黒の髪はそのままだった。
優しい瞳もそのままで。
ただ、女の子らしさが抜けて、女性へと近づいていた。

とっても綺麗で。

僕はキミの白い肌に触れずにはいられなくて。

そっと手を伸ばす。
白い肌に触れる。
氷のようにとても冷たかった。生きているわけがない。
彼女は9年前、病気でなくなったから。
最後に紡いだ言葉が、僕の名前と、感謝の言葉だった。
それなのに、どうして僕は彼女・・・美奈と再び出会っているのだろう?

白い肌に触れていると、蒼音が悲しそうに目を伏せて口を開いた。

「スザク、あなたはまだ、ここに来てはだめ。
あなたは生きなければならないの。世界があなたを欲している。
まだ、こちら側の人間にはなってはだめよ?」

美奈の肌に触れる手を、静かに下ろす。

なんとなく分かっていたんだ。
僕は今、生きるべき世界と、死ぬべき世界の狭間にいるって。
ここより向こうに行ってしまえば、僕はもう・・・・。
それが分かっているから僕は、あの時言えなかった言葉を言う。

「美奈、好きだよ。昔も今も、ずっと。愛してる。」

ずっと言えなかった。
あの頃の僕は、『愛する』という本当の意味を理解できていなかった。
理解したときにはもう遅くて。
何度も何度も呟いても、返事がないことにただ涙した。
ずっと伝えたかったよ、キミに。僕がキミを、愛しているということを。

美奈が、元気だった頃の笑顔を浮かべて僕の名を呼ぶ。
それがひどく心地よくて、静かに目を閉じた。

「スザク、私もあなたを愛してる。あなたを守る存在でありたい。
これからは、私がちゃんとあなたを守るから・・・・」



私の分も、長く生きて。絶対に死なないで。
時が来るまで、こちらには来ないで・・・・・。



僕と彼女の唇が重なった。
美奈の唇はひんやりとしてたけど、初めての味は凄く甘かった。
もう、おとずれることのないたった1回の美奈とのキスだったけど、僕は不思議と悲しくなかった。

世界が揺れる。
美奈の唇の感触がゆっくりと消えていく。

『忘れないで。私はいつも、あなたのそばに・・・』

そして僕は、生きるべき世界へと帰っていく。
僕は生かされた・・・・・。



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