それから、はやてはみんなの隙を見て、屋根裏部屋に、リインフォースに会いにいきました。
 リインフォースはいつでも部屋にいました。はじめはずっと黙りこくっていた少女は、はやての透明な笑顔に次第に心を開き、笑顔を零しはじめていました。
 その笑う顔が、宝石のような瞳と白い肌に綺麗にあっていて、はやてはそれが大好きになりました。だから、彼女はまた会いに行き、話して、リインフォースの笑顔をのぞき見していました。
「な、リインフォースはなんか好きなもんあるんかっ?」
「え、と……そうです、ね。何でしょうか……」
 そのまま、リインフォースはごにょごにょ。言葉を濁してしまいます。
「すみません……あまり、最近のことはよくわかっておりませんので」
 小さな声で告げられた声に、はやては首をかしげます。しかし、間にある沈黙が嫌になって、はやては慌てて次の話題をさがします。
 そして、はやてはそう言えば、と前から思っていた質問をなげかけました。
「な。リインフォース」
「はい、何ですか?」
「リインフォースは、なんでずっとここにいるんや?」
 その瞬間、びくり、と身体を震わせたリインフォース。
「屋根裏部屋なんて……こんなにほこりいっぱいあるんに、そもそもヴィータとかみんなリインフォースがここにいるの知っとるんか?なんで――」
 そのときです。思わずはやては息を飲みこみました。
 なぜなら、リインフォースの表情がなくなったからです。彼女の持つ綺麗な朱い目からは、より光が失われ――そういえば、彼女は元々目の光が小さかったような……気のせいでしょうか?――縮みこまった肩はこれまで以上ガタガタ震え、
「……あ、…あのな、リイン………」
 そう言いかけて、ぐっと息を飲み、
「――そ、そやった!今日はリインフォースにお菓子作ったんや!」
「……え?」
「シャマルとなぁ、スコーン作ったん。どや?」
「…………あ、の。“すこーん”とは?」
「あ?……あー…えとな、スコーンってな――」
 それから、はやてはその話題をださなかったのです。

 ――そして、季節が巡り、再び梅雨の手前がやってきました。
 はやては今もまたリインフォースに会いに屋根裏部屋に行きます。はじめて屋根裏部屋に行ったときよりはやては随分大きくなりました。一方リインフォースはあまり変わっていませんでした。あまり、というより、全く。
 それでも、はやてはみんなに内緒にしながらも通い続けました。だって、リインフォースが大好きで、大好きで。
 今日も、みんなそれぞれ出かけていき、はやてはにかっと笑いました。またリインフォースの元に行こう。
 そう思って、立ちあがり、
「――はやて」
「っ!?シグナム!?」
 なんで家にいるんや!?という慌てた声に、静かな声が返されました。ちょっと最近気になることがありまして、と。
「“気になること”?」
「はい。……はやて」
「な、なんや?」
「私に、……私達に、隠し事してませんか?」
 その言葉にぎょっとするはやて。してへん!とすぐに返事をしようと思いましたが、凛とした声が先に飛び出しました。
「最近、私達が家に帰ると、階段に随分黒い色になったほこりが舞ってるんですよ。そして、」
 落ち着いた接続詞に、はやては息を飲んで。
「――屋根裏返事の扉のノブが、綺麗になってました」
 それは、誰がノブを握ったということ。
「はやて。約束したでしょう?屋根裏部屋に行っちゃいけないって」
「なっ、……じゃあ!なんで屋根裏部屋に入っちゃいけないんや!?」
 悔しさを隠すように、ストレートに思いをぶつけました。
 逆に向かいはなぜか顔を歪めました。それが、はやてには気にくわなくて、はやては声をあげました。
「やったら!理由が言えないんやったら!私を止めることなんてできないやろ!!」
 そこをどいてや、シグナム!
 はやての切羽詰まる声に、シグナムは一瞬また表情を曇らせて、けれどしっかりとはやてを見つめた。
「………わかりました。話します」
 そして、口を開いた。

 ――屋根裏部屋には、霊がいるんです。ここに住んでいた、孤児の少女の。
 昔、一回この施設は焼けたんです。そのとき、入居していた一人の少女が逃げ遅れて。それから、屋根裏部屋にその霊が住み着いているとか。
 その少女は、銀色の髪を流す、朱い瞳を持つ――

「リインフォースッ!!」
 バン!と大きな音をたてて、古き扉は開かれました。
「はやて!駄目です、はやて!」
「シグナム、離してや!リインフォース!リインフォースぅ!!」
 はやては制止を振り切って中に入ります。走るように、リインフォースを、リインフォース!
「リインフォースぅっ!!」
「……ゃ、て………」
「っ!リインフォース!!」
 かすれていて、もう消えてなくなってしまいそうな声。それを、はやては探り当てました。
 小さく端っこにあった身体。うずくまるそれを、はやてはぎゅっと抱きしめました。
「リインっ、フォース……!」
 リインフォースはちゃんとここにいる。それを感じたくて、はやては強く彼女の身体を抱きしめました。そのときです。はやては気付きました。彼女の身体が、ずっと変化がなかったはずなのに、その身体が、やけに軽く感じました。いや、軽いんじゃない、感じるんじゃない、
「嘘やっ!リインフォースがゆうれいなんて嘘やぁ!なぁっ、んなわけないよなっ、リインフォースっ!」
 そう言いきるとはやてはリインフォースの長い銀色に顔をうめました。
 けれど、リインフォースの顔は暗いまま。
「嫌や……嘘って言ってやぁ……嫌やぁ……ややぁああ……」
 そのまま、リインフォースの空に近い体温にしがみつきながら、いやいやと首を降り続けます。
 リインフォースは、その温もりに表情を曇らせながらも一瞬、ほんの一瞬、笑いました。
 そして。
「……――はや、て」
 その、今にも壊れそうな呼びかけに、はやては勢いよくリインフォースの顔を見つめました。
 そのぐしゃぐしゃになった顔を見て、また顔を歪めながらも、リインフォースは口を開きました。
「はやて、今日は……あなたの誕生日、ですよね」
「…………ぇ?」
「それから、あなたが私にはじめて接触したとき。あの日も、あなたの誕生日でした」
 違いますか?
 弱々しい笑みをうかべながら小首をかしげた彼女に、はやては困惑しました。
 なんでや、なんでそんなこと今言うん?
 それを言いたい。けれど、もうはやてからは声はでませんでした。
 その、ぱくぱくと動くかわいらしい口を見つめ、リインフォースは笑って……。
「お誕生日……おめでとうございます。――大好きです、はやて……」
 そして、はかない朱い光はそう言って、静かに消えていきました。
「あ、あぁぁ……リイン……リインフォースぅ……ぅ、うぁぁぁぁあ!!」
 はやての泣き声は、小さな屋根裏部屋にはかなくこだましました――。

 ―――そして、あれから三年。
 はやては随分と大きくなりました。

 今日は、はやての誕生日。そして、彼女の消えた日でも、あります。
 はやては読んでいた本を置き、外に出ました。
 そこに、広がっていたのは、青空。
 雲一つないそこは澄んでいて、もうすぐ来る初夏を予感させるもの。
「……あぁ、そやな。……もしかしたら、あんたが私にくれたんかもな」
 ぼそり、とつぶやく言葉。何が、とか、誰へ、とかは考えないで。
「な?……――リインフォース」

 ――彼女の誕生日を祝福するために、銀色の風は吹いた……のかもしれませんね。





〜あとがき〜
 ということで、はやてさんお誕生日おめでとうございます!
 今回は小説にてお祝い〜。
 ……祝ってる感ないなぁ。かなりシリアスだし。はじめはアインスさんは病のはやてさんのお姉ちゃんだったのに、なんか霊に(汗)
 個人的には、最後の「――彼女の〜」は、何がなんでも入れたかった文です。パラレルでも、notパラレルでも。(リアルじゃないもんなぁ・笑)
 本当はもっと書きたいことがあるんですが、長くなったのでやめました。ので、また書きます。多分。来年になるかもしれませんが←
 ぐだぐたになっちゃいましたが…… A HAPPY BIRTHDAY!はやてさん!!





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