「一緒になろう」
優しい緑の瞳。
「…ユーノ、君……」
その瞳が見つめるのは、紫の瞳。
「結婚しよう、なのは」
「……うん」
そして、二人は抱きしめあった――。
これからも
あげられた長い髪。
桜とクロスのイヤリング。
唇にひかれたピンクのルージュ。
ふわふわのベール。
胸元にはイヤリングと同じデザインのモチーフがついたネックレス。
薄い桃色のシルクのように優しいドレス。
そして……、高まる鼓動と紅色に染まる頬。
「いかかでしょうか?」
そう言われ、ゆっくりとつぶっていた目を開ける。その瞳は透き通るような紫。
紫の瞳には鏡にうつった自分の姿に目を見開く。
「わぁ……」
そして、右、左と首をふる。髪型も、メイクも、アクセサリーも、いつもとは全く違う。
「綺麗……。私じゃないみたい……っ」
「そんなことないですよ」
歓喜の言葉を漏らすと、ここまで支度してくれた女性が微笑む。
「私は、なのは様の綺麗なところをよりひぎだすお手伝いをしただけですわ。なのは様はもともと、綺麗で素敵な方ですわよ」
少し沈黙した後「……ありがとうございます」と、また微笑んだ。
そしてもう一度鏡を見つめる。綺麗な輝きに包まれた、自分の姿を。
「なのはちゃーんっ!」
と、いきなりドアが開く。
「は、はやてちゃんっ!?」
「おぉーっ!綺麗なドレスやなぁ!」
と言うなり茶色のボブに紫の瞳の女性は、ドレスを身にまとったなのはを見るとつかぬま、づかづかと大胆に入って来る。
「は、はやて!……大丈夫?なのは」
にこにこ笑う女性の後ろから、少し心配げな金色の長い髪の女性が現れる。
「フェイトちゃん。うん、今終わったところだから、大丈夫」
「うん。わかった。入るね――」
金色の女性は入り、なのはを見るやり感嘆の声をあげてしまった。
「――うわぁ……」
「にゃはは……綺麗かな?フェイトちゃん」
「うんっ!すっごく綺麗だよ!なのは!」
「ありがと、フェイトちゃん」
返答をするフェイトの赤い瞳はきらきらとしていて、そんなフェイトの反応に苦笑しながらふと隣を見ると、はやてがやけににやにやと怪しく微笑んでいる。
なのははその瞳に少し冷や汗をかく。
「は、はやてちゃん……?」
「いやぁ、ほんま綺麗やなぁなのはちゃん。いいなぁ。ユーノ君になのはちゃん渡すのがもったいないくらいやよ。……このまま私がお持ち帰りしてしまおうかなぁ」
「は、はやてちゃん!?」
「はやて!?」
いきなりのはやての発言に思わずなのはとフェイトが一斉に叫ぶ。しかし、さすがにはやても「じょーだんやよ!じょーだん!」と苦笑いして手を振る。
「もう、はやて……」
「あはは……ほんまごめんなぁ、なのはちゃん」
「ううん」
フェイトが苦笑し、はやては苦笑い。なのははいつもの雰囲気な二人に微笑んだ。
そのとき。
「なのは!」
「わっ!?」
また、バタン!と扉が大きく開かれた。
「なのは!遅いわよ!何しているの!?」
「なのはちゃん、用意はできてる?」
扉の先から見えるのは、金色の短髪に緑色の瞳の女性と、女性に寄り添う紫の長い髪の女性。
「アリサちゃん!すずかちゃん!」
二人――アリサとすずかも、なのはを見るなり「わぁ」と声をあげる。
「さすがね!やっぱり綺麗にまとまるわね、なのはは」
「にゃはは……ありがと、アリサちゃん」
堂々と力強く言いはるアリサ。
「うん。綺麗だよ。花嫁さんって雰囲気でてる……というか、花嫁さんなんだよね」
「……うん」
おとしやかで、でも言うことが大胆なすずか。
「――みんな、ありがとう。今日、来てくれて」
なのはそう言うと、フェイト達――なのはの大切な親友達に、頭を下げた。
「んな改まってないのなのは!」
「そうや、アリサちゃんの言うとうりや」
「だって私達はなのはちゃんの」
「友達――なんだから」
その言葉になのはは顔をあげ……、再び、微笑んだ。
「さ!行くよ、なのは!」
フェイトにぐっと腕を引っ張られてなのははいつもより重くなった自分の体をあげられる。
「花嫁様が遅刻なんて許されないんだからね!」
「そうだよ」
「そうやそうや!」
まわりには、大切な親友。
「……うん!」
綺麗に着飾った花嫁は駆け出す。
大切で大好きな男性(ひと)のところに向かうために……。
* * *
「……はぁ」
また一つ、ため息が零れた。
ここは婿待機場所。先程からため息をつく男性は長い髪をいつものように一つにくくり、いつものように愛用の眼鏡をかけていた。――違うとしたら、いつもは緑などのカラーの衣服が、今日は純白に包まれているということ。
「また、ため息をついているのか?ユーノ」
「――クロノ」
こつ、という音に振り向くと、その本人の髪と同じくらいに漆黒のジャケットに身を包んだ男性が立っていた。
その青い瞳は、まっすぐに緑の瞳をとらえていた。
「今日という日は、普通、人生で一度しかない日なんだ。……それなのに、なぜそこまで考えこむ?」
その言葉は空間に響き――、数秒かかって、金の髪の――ユーノは口を開いた。
「――クロノは、さ」
「……なんだ?」
「クロノは、エイミィさんと結婚するとき、怖くなかった?」
「………はぁ!?」
思わず、黒の男性――クロノは、自分が言わないような間の抜けた声がでてしまった。
「な、何言ってんだ、ユーノ!?」
「答えろよ、クロノ。――怖くなかったのか?」
しかし、ユーノの真剣な瞳にクロノは何度か咳ばらいして、真っ赤になりながら口を開いた。
「――……怖くはなかった」
「……え?」
その返答に、ユーノは目を見開いた。
「な……なんでだよ?だって、」
「エイミィはさ」
困惑する言葉を切らせたのは、クロノの声。
「僕を呼ぶエイミィの声は……、僕のこと、愛してくれているって、わかるから、な」
――クロノ君っ
そんな、明るく、愛しい声が、クロノの心の中で聞こえた。
「なのはだって、そうだろう?おまえの名前を呼ぶとき、なのははどう呼んでくれるんだ?」
――ユーノ君っ!
ユーノの心に響くなのはの声。久しぶりに会ったときのうれしそうな彼女。自分を気遣う優しい彼女。気遣いすぎて泣く彼女。思いを伝えあって頬を染めながらも微笑む彼女。
彼女は――たくさん『ユーノ君のことが好き』と、伝えてくれた。教えてくれた。
「――……」
ユーノはただ、言葉がでない。
クロノは、ユーノを見つめながら、口を開いた。
「怖い、のか?」
「……怖いに決まってる」
震えるような声。
「なのはの、これからの人生を、僕が背負うんだ。幸せにしなきゃいけない。僕は、なのはを、幸せにできるのか、わからな、」
「違うな」
強くなったユーノの言葉。それを断ち切ったのは、またしてもクロノ。
「違う。ユーノ。それは、間違った考え方だ」
「……え?」
「結婚っていうのは、一緒になるってことだ。一緒になるってことは、一緒にいて、一緒に支えあって、励ましあって、泣きあって、笑いあう。互いに思いあうものだ。……そんな風な考え方は、フェレットにしては似合わないな」
そうして、クロノは微笑んだ。
「そう……、そうだな。ありがとう。クロノ」
そして、クロノの顔をみると、ユーノも微笑んだ。
「――って!僕はフェレットじゃないって!何度言ったらわかる!クロノ!!」
「はは。悪かったな」
「絶対『悪かった』なんて考えてないだろ!?」
どう考えてもその笑みの裏には何かあるだろ!
ユーノは怒鳴るが、クロノはいつものように平然としている。
「だって、今認めただろう?フェレット」
「認めてないっ!!そっちは僕は認めてない!!」
噛み付くようにユーノが叫んでいると――ふっとクロノは微笑んだ。
「な、何だよ。気持ち悪いな」
「いや、な。やっと、おまえからため息でなくなったと思ってな」
「………あ」
そういえば、そうだ。
口をおさえ、思考が停止してしまうユーノ。
「……ま、なんだ。あんまり、考えこまないほうがいいってことだ」
「…そうだな」
返答は短い。それは、もうわかっていることだから。
「それじゃあ、行くか。ユーノ」
くるり、とクロノが周り、ドアノブを握る。
「なのはを――花嫁を待っているのは、おまえの役目だろう」
その言葉にユーノは。
「当たり前だ」
微笑んで、立ち上がる。
クロノがドアをあけ、二人は向かう――。
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