「ラグナ、そこから七味持っていって」
「あっ、はーい!……もう、お兄ちゃんも手伝ってよぉっ!」
「へーい……あー…あったけー……」
 ぱたぱたというスリッパの音が部屋に響き、小さな瓶を持った少女はキッチンをぬけ、リビングを通り、その奥の部屋に入った。
 奥の部屋はリビングなどのイメージとは違う作りで、少しいぐさの匂いがする。真ん中には布団が内蔵された低めの机が一つ。
 そしてその中にも体を埋めているのが、一人。
 その一人こそが先程のゆるい声をあげた張本人。
 少女は布団から出ている部分――中の具合によって頭しかだしてない――に。
「あぁもぅ!お兄ちゃんっ!」
「――いてぇ!」
 コツン!と七味の瓶をぶつけた。もちろん、食べ物なので瓶には支障がないようにしたが。
「いってぇ!何すんだラグナぁ!」
「何すんだじゃないでしょお兄ちゃん!せっかくティアさんがそば作ってくれているんだから手伝いくらいしなよ!」
 ガラスの強度が響いたのか男は額を押さえ文句を呟く。が、さすが妹。正論をずばりと言ってのけた。
「わかっているんだけどよぉ……こたつあったけぇじゃん」
「……じゃん、って……もー」
「まあ、今日はいつもにまして寒いからね」
 ラグナがため息をついたところで、もう一つスリッパの音が聞こえた。
 オレンジ色の髪を後ろで一つの団子にしてエプロン姿の、ラグナより年上の女性。お椀が三つ乗ったお盆を持ち、器用にスリッパを脱いで部屋の中に入ってくる。
「ティアさん、でも」
「大丈夫よ。それに」
 ラグナが持っていた七味の瓶を机に置き、立ち上がろうとしたが、座っててという言葉に素直に従った。
「それに、ラグナがいたからすごく助かったから」
 話しながら一つずつお椀と箸を机に移すと、お盆を畳に置き、自身も座る。
「ありがとね、ラグナ」
 そして、頭を撫でてあげた。
 ラグナもその手の感触に大層うれしそうに「えへへ」と笑った。
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あったかいなか むかえよう



 一人おいてけぼりな男は自分の分のお椀と箸を自分側へ持っていきながら。
「なんだよ。俺が頭撫でてやると『子供扱いするな!』って言うくせに」
「んー、ティアさんは特別!」
「ふふ、ありがと」
 ぎゅーっとラグナがティアナに抱きつくとティアナは笑みを零して「ほら、寒いからこたつ入ろう」と言った。
 先に入っていた彼に向かい、ティアナは足を入れながら声をかける。
「こたつはどうです?ヴァイスさん」
「ん、あったかいし最高。にしてもすげぇなぁ、隊長達の世界の物はな」
 そう、今三人が入っているのは機動六課でお世話になった高町なのは隊長や八神はやて隊長、今でもティアナが世話になっているフェイト執務官の馴染み深い世界の物品“こたつ”というものだ。前になのは達から聞いていたティアナが興味を持って購入、ただいま試験運用中である。
「でもよかった。ヴァイスさんにも気にいって貰えて」
 そう言って微笑むティアナの顔はほんのり赤い。
「けどあそこまで動かないと効果ありすぎですよーティアさん」
「そうかも」
「おいおーい」
 顔を見合わして笑いあう女子二名を見て、ヴァイスは苦笑。
「……ま、ラグナもヴァイスさんいじりも止めてさ」
「お゙い」
 ヴァイスの短いツッコミも素通りし。
「年越しそば、食べましょう?」
「はーい!」
 ラグナの高い声が部屋に響いた。

「――おいしいーっ!めちゃくちゃおいしいです、ティアさんっ」
「よかった」
「んまいな。さすがティアナ」
 ちゅるちゅると箸で器用に麺をつまみ、ラグナは満点の笑顔でそばを食べていく。
 ヴァイスもかなり笑顔でそばをすすっていく。
 ティアナはそんな兄妹を見て「おかわりもありますから」と微笑んだ。
 そして、こたつにとそばというなのは達の世界の文化で年末を楽しむ三人。
 と、ふいにかわいらしいメロディが流れた。それはラグナの携帯で、ラグナは携帯の画面を見ると「あ」と言ってティアナを見た。
「もうすぐでおーちゃん達出るんだ。ティアさん、リビングのテレビ見てもいいですか?」
「別にいいけど……おーちゃん?」
「おい、だからそのおーとは十歳以上年齢差があんだからおーちゃんは、」
「みんなそう言ってるもーん。じゃ、ちょっと失礼しまーす」
 そう言うと笑顔でこたつから出るとリビングに向かった。
 ドアがしめられると、残った二人は沈黙してしまう。
「……あの、おーちゃんって……?」
「………ああ、最近かなり人気の男性アーティストグループのメンバーの一人。ラグナの親友達がそのグループ好きで、年末の歌番組に出るから見ろって言われてたんだと」
 親友から音楽聞いてラグナはそのおーちゃんが好きらしくてさ。おーちゃんはファンの中でのニックネームらしいんだが、そいつ、俺よりも年上なんだぜ?
「そうなんですか?」
「あぁ……」
 親友達に薦められたからってそりゃないよなぁ……。とずるずる残りのそばを食べるヴァイス。
 ティアナはリビングが少し気になったがそのままそばをすすった。
「あ、七味。取ってくれないか?そっち側にあるから」
「あ、はい」
 短い返事をすると、小瓶を取り、ヴァイスに……。
「……あ」
 そのとき、ヴァイスの手とティアナの手が触れあう。
 差し出された瓶とともにヴァイスの大きな手がティアナの白い手を包みこむ。
 しばらく、ヴァイスは白い手をじっと真剣な目で見て。
「………」
「……えっ、と。ヴァイスさん?」
「……あ、す、すまん」
 そう少し取り乱した声でティアナの手を離した。
 そのまま、受けとった七味をそばにかけて残りを駆け込み。
「………ヴァイス、さん?」
「なあティアナ」
「はい?…………ッ!」
 ティアナは顔をあげて目を見開く。

 ――ヴァイスに唇を重ねられていたから。

 先程までそばを食べていたはずなのに、その人は今目の前にいて、自分の力を入れていなかった唇を割ってきた。





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