「………よし」
 そして、その言葉によって振り向かされる。
 私の胸元で輝くのは……銀のクロスのペンダント。
「……やっぱり、似合うな。ティアナは。今日の服にも似合ってる」
 ――とくん。
「……あ、ありがとうございます……」
 その言葉に嘘なんてない。むしろ、すごくうれしい。そして、さっきからよりずっと、鼓動が高まってしかたない。
『デートなら、いつもと違う雰囲気でいっちゃえばいいよっ!ティアはいつもカジュアルだから、今日はふわふわのお姫様っぽくっ!』
 あの馬鹿スバル……っ!
 けれど、嫌じゃない。
「――かわいい……」
 それから、私はクロスに触り、愛おしそうに見つめてくる彼。
「よかったよ、気に入ってくれて……。好きな女性には、そんなふうなもの、贈ってみたかったからさ」
「そうなんですか?――え?」
 『好きな女性には』?
 私が少し顔を歪ましたことに気付いた彼はその瞬間「うわぁぁあ!?」とか叫びはじめた。
「あ!いや、その!……あー……その……」
 そして、だんだん真っ赤に顔をする、ヴァイス陸曹。
「その……なんだ。き、今日のお礼、つーことで……受け取って、くれ」
 できれば……日頃もつけてくれると、うれしいけど、よ。
 恥ずかしそうに目をそらす彼に、私は。
「そ、そうですね……そうさせて、いただきます……?」
 ――多分、私も真っ赤になっていたんだろうな。


* * *



 お店から出て、再び街中を歩く私達。いまだ減らない人込みは、私の視界を殺しかけている。
 妹さんの人形と――あのクロスのペンダントを貰ってから、私は、もう用が済んだので帰りましょう?と言った(恥ずかしかったということもあるのだけれど)。しかし、ヴァイス陸曹は断固拒否をして、もう一つだけ、と店をでたのだった。
 人と人との間を渡るしかないのだが、時折、その人と人の間にヴァイス陸曹が紛れてしまい、そのおりに私は人込みの中をかける。
 何故か、見えなくなると瞬間、人込みの中に消えてしまって、一人になる気がして。
「……あぅっ!?」
 かけてしまった瞬間、反対側から走ってきた人とぶつかってしまった。その衝撃で変な声をあげてよろけかけてしまう。しかし、その人は謝りもせずにどこかに消えてしまった。
「ティアナ!」
 と、私の変な声でか、ヴァイス陸曹が人込みの中、戻ってきてくれた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「……ったく、ぶつかってきたんだから、せめて謝れよな!」
 どこでもないところに半叫ぶ、陸曹。
「平気か?立てる?」
「はい、大丈夫で――あれ?」
 一人で立とうとして――かくん、と足がなった。よく見ると、スバルに履いていけと強く言われた白いハイヒールのヒールが片方かけていた。
「さっきのときか?」
「みたいです」
 苦笑して、変な体制になりながらも立ち上がる。
 それで、どこかで誰かに昔のように笑われたような気分になって、胸がひどく痛い。
 そのとき。ぐい、と手がひかれる。

 ヴァイス陸曹に、優しく、掴まれた。

「ヴァイス陸曹――っ?」
「も、もう、こけられたら、嫌だからな!こうすれば、は、離れられないだろ」
 そう言い切った彼の顔と声は恥ずかしそうな真っ赤で。
 その手を振り切ろうとしたが、その手の優しい温もりを感じて、止めた。


 数分歩いて、握られたままの手のあたたかさを感じながら、私達は裏路地に入る。
「こっちにティアナに行かしたい場所があるからさ」
 とかなんとか言って。
 ずっと振り向くことなんてしていない。やっぱり……この手と手の温もりが、気になっているんだろうか。
 そして、裏路地をすぎ、左に曲がると。
「……わ、ぁ………」
 一軒、おしゃれな喫茶店があった。
 レンガが所々そのまま残された、白い壁。ついている窓の枠は、綺麗にデザインされていて。
「結構、行きつけの場所なんだ。同僚とかと来たりとかする。中も落ち着いてるし、何より飯がうまいからな」
 それだけ言うと、先導してくれる。
 触るのに少し躊躇しちゃいそうな綺麗なデザインのドアを、彼は何ともなしに開けた。
 開けた先は――言われた通りに、すごく落ち着いた、綺麗な空間。
「おっ、グランセニックさん」
 そう言うのは、モノクロの服装をした、男性。
 その人が見えると、ヴァイス陸曹は「よ、マスター」と軽く手をあげた。この店のオーナーだろうな。
 ヴァイス陸曹を見るとオーナーは、彼に親しみのある笑みを浮かべた。しかし、この笑みは少し先程のとは違う。あれは――。
「へぇ。グランセニックさんにも恋人できたんですねぇ。あれですか?この前来てくれたとき言っていた同僚のガンナーさ、」
「うえぁっ!?」
 瞬間。声が響き、さっきまであったあたたかみが離された。
 その声を聞いて、オーナーは爆笑している。
 やっぱり。はやて部体長と同じ微笑みだ……。
 私はそう考えると、自然に苦笑がでてしまう。
 そして、そんなこんなで、笑むオーナーは私達を席に移動させてくれた。
「いつものパスタでいいかい?」
「あ、あぁ。頼む」
「お嬢さんは?」
 そう聞かれたが、はじめてのお店なので、一回ヴァイス陸曹の顔を見ると「同じもので」と、微笑んだ。
 その言葉にオーナーは礼すると、一回ヴァイス陸曹の耳元で何かはいて、メニューメモを持って去っていった。

「……ったく。マスターはぁあー……」
「……楽しそうなオーナーさんですね」
「マスターは仲のいい奴にはああなんだよ。ま、いい人なんだけどよぉ……」
 この人、絶対オーナーさんに弱み握られる……。というか、オーナーさんはやっぱり部隊長と同じタイプの人なんだ。
 座ったテーブルの上で潰れている弱みを握られた男性を見ながら、私はおとなしくしていた。
 と。
「あいよ。お待ちどうさま」
 大皿を両手に二枚持ち、オーナーがやってきた。
 お皿に乗っているのは、色鮮やかなシーフードの混ざったパスタ。匂いも、いい香り。
「おいしそう……」
「さすがマスター」
「そりゃ、ども」
 私達の言葉に、軽くおじきした。
「……あれ?」
 と、目についたのは、パスタの上にのせられた飾り。

 オレンジと緑の輪が、つながれていた。

「それは、パプリカを使ってやってみました」
 ふっと顔を上げると、オーナーさんの微笑みにぶつかる。
 しかし、いつも見ているはずの陸曹の顔も歪んでいる。
「マスター……これって、いつものっけてねぇよなぁ……?」
 そう言う声も歪んでいる。が、笑顔は崩れない。
「サービスですよ、お得意さまに」
「……何、たくらんでいる?」
 ぎろ、と睨む陸曹を跳ね返しながら、「ですから」とオーナーさんは口を開いた。

「グランセニックさんと、お嬢さんのパーソナルカラーを使って、お二人を表現してみました」

 先程、手をつながれあっていた雰囲気をとくにイメージして、
「マスターぁぁあ!!」
 さらりと平然に言うマスターに噛み付いたヴァイス陸曹。
 ぎゃいぎゃい怒鳴る声、でも顔は真っ赤で。
 そして、それをただ見つめるしかなくて。
 ……数分後。
「ほら、パスタが冷めちゃいますよ」
 とか言って、オーナーさんは去って。
「……いただきましょうか」
「………だ、な」
 私と彼は、口にシーフードのうまみのあるパスタを食べはじめた。
 パスタは見た目以上に味付けもおいしくて。
 でも、心は、とくんとくんと、少し違うことを思っていた。

 あのオレンジと緑のように、つながって、一緒になれればいいな、と、心の縁で思いながら。


* * *



 あの日から数日後。
 日々はいつもと変わっていないけど。

 私の胸には、オレンジと緑の宝石の煌めく、クロスのペンダントが、かかっている。





〜あとがき〜
 うわぁ……苦戦して時間かけてかいたら16KBかいていました。日々小説が長くなっておられます。
 今回は、TKさんのリクエスト小説でした。
「ズバリ、『ヴァイスとティアナの初めてのデート』でお願いします。
初めてのデートに戸惑うティアナを、自分も初めてだけど一生懸命リードするヴァイス…という感じで。
リンディさんのお茶が普通に感じるくらいの甘さでお願いします。
(それってどれだけ甘いんだ…(汗))」
 りんでぃちゃ無理でしたーっ!
 でも、初々しい二人を頑張ってみました……。少女マンガみたいなデートにはしてみましたが……(でもこんなシチュエーションのマンガは知らない……)
 そしてマスター(オーナー)がめちゃくちゃいいキャラクターになってしまった……。この調子だと、またマスター書いちゃうよっ!?
 ティアさんにクロスペンダントをつけられたのは幸せ。実は制服の下に隠していながら肌身離さずだとなお好きです。
 オレンジと緑のパプリカ――それは二人のえんげーじりんぐ!(←え!?)





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