「――あ、ヴァイス陸曹。引き換え出来ました?」
 戻ってきた俺を確認すると近寄り、首を傾げるティアナ。
 それに再び心臓が高鳴ると同時に「ほい」と彼女の分のチケットを手渡す。
 小さく礼を言い、小さな紙をぎゅ、と抱きしめ、微笑んで。
「久しぶりの映画かぁ、楽しみ……」
 その愛しい姿にこちらもあたたかくなり――もう一つ、気になるものを、知らないほうがいいとは言われてはいたが、その存在を一応確認しようと、なぜか意気込み。
 ぐるり、と映画館に貼られた一面のポスターから手の中にある一文を捜す。
 捜し、見つけ、その、ポスター、は、
「……」
「ヴァイス陸曹?」
「…………いや、なんでもねぇよ」
 じゃ、行くか。
 そう行って、先に足を向かわせる。
「あ、はい!」
 そんな高めの声とともに、彼女の足音が後ろから続いてくる。
 ……どうか俺の悪い予感があたりませんように。


* * *



 ……悪い予感、的中。
 幕に映し出された物語は、まぁお互いが沈黙したくなるような映像だった。
 最近流行っているらしい、携帯小説?っていうのが原作みたいなんだが。
『――**。……いいか?』
『……うん。●●、きて……っん、ぁ――』
 なんでこんなシーンがでてくんだよ、ラグナが、未成年も見れるやつだろ!? 全年齢だろ!?
 しかも、隣にいるのが、異性――しかも、少なからず特別な気持ちがあるヤツ――だなんて。……畜生。
 たまに正面を見られなくなってちらりと横見、というかティアナの顔を盗み見る。
 そのときの彼女の表情は――なんとも言えないくらいの、紅色だった。彼女は仕事熱心であまりこういうのは見ないんだろう。だけど、逆になんだかいつもの強気な彼女とは違って、なんだか……
 ……不意にティアナがこっちに振り向く。俺は気付かれないように慌てて視線を正面に戻し、……畜生、心臓に悪い場面をバッチリ見ちまったじゃねえか。
 ――結局、俺と彼女は気持ちの問題で、まったく話も出来ず仕舞いで、スクリーンの映像は終わった。


* * *



 ……それから。
 やたらとアツい映画館から出て、飯を食べるのにちょっと洒落た店に入った――が、話もままに出来ず――り、どことなく街を歩いた――が、次の目的地を見つけることも出来ず――りし、
 ――今、開けた空間に出た。
「……うわぁー……」
 そこは、街外れの山のふもと。すっかり日も暮れ、黒に染まる世界にうつる街の明かりがきらきらとまばゆいている。
 その光景に、街灯の光よりも目を輝かせる彼女の瞳に俺を笑みを隠せなかった。……よかった、ここに連れて来て。俺が一番最初に彼女と二人で来たかった場所だから。
 顔を綻ばす彼女の顔に少し安心する。あれからずっと、こちらが好意に向いてもまともに目をあわせてくれなかったから。
 二人して並んで小さくなった町並みを見下ろす。
「――あの、」
「……ん?」
「今日は、ありがとうございました」
「…………ん」
 ぽつ、と零した言葉に俺は手をのせた。くしゃくしゃと撫でてやると、珍しく、空気に染まったのか抵抗してこなった。
 手を動かすのをやめ、少し俯きがちの顔を覗いてみる。あたたかい形は暗闇でもわかるくらい、紅色で、とても愛しく、
 ――次には、抱きしめていた。
 短い彼女の息がした。しかし、それさえも、愛しくて。
 お互い無意識に無抵抗のまま、離れない。
 外野からの音もない静寂に包まれ。胸の中から、声が漏れた。
「――あの、」
「ん?」
「――――こんなシーン、今日の映画にもありましたね」
「…………っは!?」
 声にもならない声を思わず、彼女の頭の上で出してしまった。
 人もいない夜中、擦れ違いをしていた主人公とヒロインが再び告白しあい、抱擁し、――キスをする。……そういえば、確かにこんなシーンもあった気も、しなくも、ない。って、?
「――ティアナ、おまえ……」
 真相を、言葉を知りたくて下を向く。でも、温もりはその下を向き、胸に顔を埋めて表情が見えない。
 俺は、ふ、と、息をつき。
「……『――相変わらず素直じゃねぇなぁ、まったくよ』――」
 その言葉に、はっと彼女が顔をあげた。
「――『素直に言ってみろよ、その通りにしてやるからさ――』――」
 当たり前だ……今日見た、今連想した映画のシーンの主人公のセリフなのだから。
 次の言葉をはく、でも、違う。俺は、あの物語の主人公でなく。彼女は、あの物語のヒロインではない。だから。
「――『……な?』――――ティアナ」
 しなやかな体にまわす腕の力を緩めた。
 彼女は、ティアナは。じっと俺の顔を見つめ。
「……ヴァイス陸曹」
 そして。
「――キス、したいです」
 彼女の、我が儘を。そっとヴァイス・グランセニックに告白した。
 俺はつい、ふ、と笑みがこぼれた。
 心のすみでは今までの自分が制止をかけようとしていた。飾ろうとしていた、今まで飾っていた自分が。誰かから作られていた自分が。失敗したら嫌われるかもしれないのに、それならやめたほうがいいのに。
 でも、それでも。
 ――あのシーンなように、そっと。彼女の頬に手を寄せる。
「――おまえ、どうなっても知らないからな?嫌になっても止まんねぇぞ」
「………え……あ、の。ヴァイス陸曹、経験豊富だって、ウワサ、」
「……舌噛むぞ」
「えっ――っ、ん、ぁ――……」
 ――それから、しばらく。俺は周りなどないような、彼女だけを感じていた――……。


 初めての彼女とのキス、は。
 優しくて、あたたかい、不思議な――彼女の味がした。



White Drink





〜あとがき〜
 この作品はTKさんからのサイト2周年企画リクエストが原案です!
「では、ヴァイス×ティアナで、リクエストを。『デートで映画館に訪れたヴァイスとティアナ…だったが、ラグナお勧めという事で観た映画がベタベタの恋愛モノ(当然キスシーンあり。しかも濃厚な)で、観終わった後必要以上にヴァイスを意識してしまうティアナ。そしてデートの終わりにムードが高まった2人は映画のシーンを思い出して、ぎこちないながらも初めてのキスを…』というシチュエーションでお願いしてもよろしいでしょうか?」
 タイトルはカ〇ピスのイメージから。ほら、あれのキャッチコピーって「初恋の味」だった気がするから(笑)
 携帯小説は読みませんがね。正直苦手なので。でも全年齢で濃厚シーンがあるのはこのジャンルかな、と。内容は知りません!←
 遅くなってしまいましたが、TKさんリクエストありがとうございました!これからもよろしくお願いします!





(Back Text)





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