例えば。
 誰かから、『自分』の恋愛について勝手に話されるとき。
 それが事実だとしても。風の噂ならなおさら。そのことに対して人に言われる筋合いはない。
 俺は、今、好きなヤツはたった一人しかいないから。
 誰かが勝手に作った『カノジョ』や過去は、いらない。そんなの関係ない。
 俺は、この瞬間に感じた、それだけで。それだけでいいんだ――――。



White Drink



「――ヴァイス陸曹!」
「おぅ、お疲れさん」
 ふ、と手をあげてやると、速度があった足音が遅まり、止まる。
 荒い息をつきながらもそれを静めるようにしながら、オレンジ色の頭が下がった。
「すみ、ませ……ちょっと、デスクワークに、足取られました」
「あー。あらかたスバルのせいだろ」
「ご最も」
 そう言うと、ついお互い笑ってしまった。
 そして、息をついて、顔をあげ。ふと、元々上がっていた視線と視線がかちあう。
「……――っ、」
 ――瞬間、俺は顔をふせる。
 ……びっくりした。下げた顔からの上目使い、少し赤くなった頬、いつもじゃ見られない自然ながら洒落た化粧……。
「――〜っ、えー…と」
 正直に言うと……、洒落た彼女は、――かわいい。
 なぜかテンパっている自分、泳ぐ目が言葉を見つけることが出来ず。
 らしくもなく顔を朱に染め、お互いに微妙な沈黙が発生する。
 と。不意に何か違う、と感づく。
 …………あぁ。
「……今日、」
「え?」
「珍しいな、おまえが、ツインテールじゃねぇなんて」
 そう言われ、ぴくんと動いた彼女とともに、その、結わかれずに解放されたオレンジ色が風に揺れた。
 いつも勤務中はずっと二つに結んだテールは、今日は、ストレート。
「あ、の……。……似合って、ませんか?」
 そう言って、太陽に当たってキラキラと輝く束をいじって横目で見てくる、彼女に。一瞬、胸が高鳴って。
「――いや、」
「ぇ、」
「すんげぇ、似合ってる。いつもやってねぇのが、もったいないくらい」
 ……ほんの少し、解いてくれたことに自惚れしたりして。
 にっ、と笑ってやると、向こうも通常のように反抗することなく、素直に微笑んで。
「……じゃあ、行くか」
「――はいっ!」
 明るい彼女の返事に笑みを隠せないまま、二人人ごみに入りこんだ。


* * *



 久しぶりの、休暇。
 俺と、彼女――ティアナ・ランスターは、その貴重な時間を使い、街に出てきた。
 理由は……、戦闘からの気休めという、出掛け。
 いうなる、デート。
 六課で知り合い、好意を持つようになって……付き合いだしたはいいものの、お互い、とくに彼女は仕事に没頭するタイプだから、初めてとなる今日。その今日も、今手にある紙がなければ実現もなかったのだろう。
「今日は、ラグナちゃんからのプレゼント、なんですよね」
「ああ。……ったく、はやて隊長はどこでラグナとコンタクトしたんだか」
 その例の紙をひらひらとしながら、ふぅとため息をつく。
 手本の紙、それは――二枚のパス。二人分の、チケット。
 チケットに書かれているのは、自分は知らないタイトルと、使用可能の場所の名前と、使用可能の月日。それは、ちょうど自分の休暇で。チケットはもちろん、二連番号。
 本来の持ち主である我が妹は、笑顔で、だが平然とこう言ってのけた。
『どこから調達したのかは気にしないでねっ。秘密のルートがわたしにはあるからっ』
 そのすばらしい笑顔に瞬間、思わず。
『“ティアナさん”もその日休暇なんだってね。二人で映画楽しんで見て来なよ、お兄ちゃんっ!』
 どこかで間違えただろうか、こいつの育て方を、たしかに一度自分のせいで別離していたけれども――久々の休暇に帰宅した兄貴にそんな笑顔で宣告する妹いるか!?……と、素で、思ってしまった。
 ……まぁ、もちろんすべての元凶が六課を出てくるときに見たあの自分の隊長でもある八神はやての深い深い笑顔であることは瞬時にわかったが。
「そういえば、その映画ってどんな映画なんです?」
「あ?あぁー……実はよくわかんねぇんだよ。ラグナ、あんまり説明してくんなかったし」
 そう言い、着いた大手映画館の建物を見上げながら苦笑する。
 チケットに書いてあったタイトルらしきものはものすごくシンプルなもので、シンプルすぎてどんなものなのかよくわからない。結局最後までラグナも教えてくれなかった。
 正直誘った側が内容を知らないなんていいのだろうか。まぁ、ラグナは知らないほうが楽しめると言っていたのでそれに従ったのみなのだが。
「あ、じゃあコレ、当日券に変えてくるな。今から一番はやい時間でいいだろ?」
「あ、はい。……いい席、お願いしますね?」
「おうっ」
 挑戦的な笑みに、ニィと笑って再び歩を進める。
 受け付けに持っていき、「引き換えお願いします」と二枚、ガラスの向こう側に差し出す。
 ……と、不意に違和感を思った。受け付けの女性が、ちょっと。笑っていた。
 そして、こう。
「後ろの彼女さんと見るんですか?」
 爆弾を落とした。
「…………え、」
 思わず開いた口が塞がらない。
 その自分の姿にガラスの向こう側の受け付け嬢はくすくす笑い。「カップルの方々に人気なんですよねぇ。ぜひ綺麗な彼女さんと楽しんで来てくださいねー」なんて一人勝手に言い放つと引き換えた紙二枚をこちらに差し出してきた。
 失礼すぎて、そして意味深すぎる展開にチケットを握りながら自分の時間が止まったような気分だった。





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