トレインでGO! | ナノ
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「…私、育ちはカントー地方なんです。そこで生まれ、ポケモン達と触れ合って…育ってきました。」

「昔からポケモンが大好きだったんだね。」

「はい。勿論、その時は…ちゃんと、水タイプも好きだったんです。旅に出かけるときの最初のパートナーも、水タイプでした。」

「…差し支えなければ、ポケモンの名前を聞いても?」

「…、進化前を貰ったので、最初はゼニガメ。つまり、成長すれば…カメックス、ですね。」


語り出してから、ライラ様の表情は見えてきません。

時折、堪えるように…溢れる何かをせき止めるように、眉間に皺をお寄せになられています。

それにしても、最初のパートナーがゼニガメ…後の、カメックス。

最初に選ぶくらいなのですから、よほどお好きだったのでしょう。

しかし、ここで茶々を入れるわけには参りません。

クダリもわかっているようで、大人しく、真剣にライラ様をみつめております。


「…それからは、様々な出会いをして…旅をしながら、腕試しとしてジムにも入りました。

 私には幼馴染の男の子2人がいるのですが…この2人のバトルセンスは本当に凄くて。

 その2人とバトルをしていくうち、私も強くなって…ジムなんて、楽勝に等しかったですね。」

「その出会いの中で、今のポケモン達と出会ったの?」

「…ううん。この子達は…幼馴染の2人から貰った、ポケモンなの。ピカチュウと、ブラッキー…進化前だから、イーブイをね。

 カイリューは、リーグチャンピオンと偶然会った時に頂いたタマゴから…だから、ミニリュウだね。」

「じゃあ、サーナイトは?」

「本当はホウエン地方のポケモンなんだけど…旅の途中で、おろおろしてるのを見かけてね。

 多分、今思えば…ホウエン地方に連れて行けないからって、その場に置いていかれた子だったんだと思う。

 私は…進化前の、ラルトスを連れて行くことにしたの。」

「どこにでもいるんだね、そういう人!ここにいたらボクのデンチュラでビリビリだよ!」

「クダリ、横槍はそこまでになさいまし。」

「…許せないって思っただけだよ、ちゃんとお話聞くよ!」


ライラ様のお顔に、ほんの少しではございますが笑みが伺えました。

…多少は、クダリも役に立っているということでしょうか。

しかし、すぐにその笑みは消え、再び自嘲めいたようなお顔になられてしまいます。


「…そうして、色んなポケモンに出会って…私はついに最後のジムまでたどり着いたの。」


最後のジム、と言った時のお顔が、ワタクシにはとてもとても印象に残ります。

泣きたい、でも泣きたくない。そんな、耐えて耐えて無理をしようとしているような…守りたくなるような、お顔でした。


「…その前に少し。…皆は、ロケット団の存在はご存知でしょうか。」

「…世界征服を企む、ポケモンを道具としてみる連中だっけ?」

「平気で実験やっちゃうよーな奴っていうのは知ってる。」

「高く売れるものを持つポケモンならどんな手でも使って手に入れる、強欲の塊の集団と把握しております。」

「…やはり、知名度はあるみたいですね。…今でも、少し残党がいるのも事実なんです。」

「…どこの地方にも、そういう奴らはいるんだよね。…俺もプラズマ団を見かけた時は片っ端から倒してるけど。」

「…うん。ホウエンでも、シンオウでも、どこにでも…。

 で、話を戻すけど…。その、最後のジムのリーダーが、ロケット団のボスだったの。」

「…え?」

「え、どういうことなの?」


ワタクシも、トウヤ様とクダリと同様に目を丸くして質問を致しました。

…そんな、非道の限りを尽くす連中が、どうしてジムリーダーを勤められるのでしょう。

かなり計画的な感じは致しますが…果たして。


「詳細はわからないけれど…その前に、幼馴染の1人がね、1人でロケット団を壊滅まで追い詰めたの。

 だから、ジムを拠点に立て直そうとしたのかもしれない。…万が一を考えてのことだったのかも、しれない。

 とにかく、そこに奴はいたの。」


段々話す速度が速くなっていくライラ様に、ワタクシは胸が締め付けられる思いでございます。

…おそらく、水タイプが苦手になったのは…


「私は、幼馴染の誰よりも早く、最後のジムにたどり着いた。

 …私は特別、ボスと会ったことはなかったから、最初はそいつがそう、だなんて思いもしなかった。

 今思えば、トレーナーは普通だったのに、リーダーだけは何かが違うって思うよ。

 何も知らない私は普通に、最善を尽くして挑んだ。

 とても強かった。だけど、私だって負けるつもりはなかった。

 …でも。奴は容赦なく、動けなくなった私のポケモン達に攻撃を続けた。

 とどめを刺される前に、ボールに戻したけど…1匹だけ。間に合わなかった。

 私の、最初のパートナー…カメックス。彼は、パルシェンのトゲが、甲羅ではなく、胸に、指した。

 刺さってしまったんじゃない。あれは、始めから殺すつもりだった。…ボールは間に合わなくて…何とか試合を終わらせて、

 急いでポケモンセンターにいった、けど…、っ」

「…お辛い話を、させました。」


トウヤ様も、クダリも。

何の一言もかけられない状態でございました。

ワタクシも、過去に一度もそのような形で亡くしたパートナーはおりません。

…それが、どれほどの悲しみを与えてしまうのか、なんて…お気持ちを把握することなど、おこがましい程に。

それは、とても悲しく、辛い、心に深く刺さるお話でした。

ワタクシは、顔を伏せるライラ様のお背中をそっと撫でました。

これで気持ちが少しでも落ち着けば、と。


「…、すいません、ノボリさん。」

「いえ。ワタクシたちが聞いたのです、これくらいはさせてくださいまし。

 …ライラ様は…それ以来、水タイプが苦手になってしまわれたのですね。」

「…はい。」


睫毛を震わせ、泣くことを耐えるように俯くライラ様。

ワタクシは、それが見てはいられなくなりました。


「ライラ様、申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」

「…え?」


きっと、幼馴染にはお話になられたのでしょう。

しかし、それだけでは足りなかった…だから、このような遠い地方にまで引越し、少しでも忘れようとなされたのでしょう。

もしかしたら、お話になられていないのかもしれませんね。

…だからこそ、ワタクシはライラ様を、優しく包み込みました。

いつものワタクシならば、それはそれは恥ずかしくてとてもできるものではありません。

ですが。お慕いしているライラ様が悲しみに暮れているというのに、ただ何もせずにはいられません。


「…ノボリがノボリじゃないみたい。」

「レアすぎて俺も思わずガン見しましたよ。」

「失礼ですね。…ライラ様、気持ちは落ち着かれましたでしょうか?」

「…、ありがとう、ございます。ノボリさん。」


先程よりも大分落ち着かれたようだったので、ワタクシはライラ様から離れます。

…それでも、お顔は優れませんが…自分自身のトラウマを話されたのです、そう簡単に気持ちの切り替えは出来ませんでしょう。


「…そっか、それでライラはこっちにきたんだね。…確かに、こっちはあんまり水タイプ、いないもんね。いるにはいるけど…」

「それでも、水辺に遠い場所ならあまり出会わないしね。」

「…ライラ様、話してくださり、ありがとうございます。…それはとてもお辛かったでしょう…。…ですが、その事実を知ったワタクシ達にも、何か出来るかもしれません。」

「え?」

「今回は突然見てしまったことによる発作でございましたが、誰かが、常にとはいきませんが一緒にいれば…少しは、気持ちを落ち着けて見ることも可能なのでは、と思ったのです。」

「確かに。そう簡単にそのトラウマが消えるわけないし、耐えることは難しい。この先も水タイプに出会う機会は、バトルサブウェイに行くならありうることだしね。

 だからこそ、事情を知ってる俺らがいれば、少しは落ち着いて見ることもできるんじゃない?」

「ボクらは仕事上モニターで見るしかないけど…それでも、色んなこと、見てあげられるし!」

「まぁ、ライラ様にとっては気休めでしかないかもしれませんが…どうか、ワタクシ達をお頼りくださいまし。」

「…皆…」


それだけ、ワタクシ達はライラ様のことを想っているということ。

それだけは、どうか理解なさってくださいまし、ライラ様。

皆、貴女様が大切なのでございます。

…出会ってから僅か1ヶ月足らずだとしても、ワタクシ達にとってはとても大切な友人であり、ワタクシにとってはとてもお慕いしている大切な方。

少しでもそのトラウマを、和らげることができるならば。


「…頼っても、いいですか。」

「勿論。じゃなかったら、ライラから話を聞こうとは思わないね。」

「そうそう!どんどん頼ってよ、ライラ!」

「ワタクシ達は、いつでもライラ様をお助け致しますよ。」

「…、ありが、と…ございます…!」


せき止められた涙は、今度こそ、頬を伝ってくれました。

この涙で、少しでも。

ほんの少しでも、心の負担を晴れさせることが出来たならと、ワタクシは思うのです。


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暗いですね。これが主人公の心の闇です。

どこかでありそうな設定ではございますが…すみません。

しかしここでシリアスは終了です。

次からはほんわかちょっぴりセクハラな展開もあるかも?


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