アルバイト探しています
大学生活にもひとり暮らしにも大分慣れて来た頃。大学のカフェテリアでカフェラテ片手に求人情報誌を読んでいると
「お、なまえちゃんバイト探してんの?」
情報誌の隙間からニッコリと素敵な笑顔を向ける慶次先輩
「あ、はい」
返事を聞く前に、慶次先輩は私の目の前に座り「ちょっと借りるね」と情報誌をパラパラ捲り出した
ぽかーんとその様子を黙って見ていると、先輩は雑誌をパチンと閉じて再び素敵な笑顔を私には向けた
「いいバイト先知ってんだけど、働いてみない?」
私が飲んでいたカフェラテのストローに口を付けた慶次先輩は「これ紹介手数料ってことで一口いただくね!」とか言いながらカップに半分以上入っていたカフェラテを全て飲み干してしまった
あれよあれよと話は勝手に進み、慶次先輩は目の前でどこかへ電話をかけ始めた
なんだか嫌な予感…はっきり言ってかなり不安
次の日―
慶次先輩のごり押しに負けて、大学の最寄り駅から二つ目で降りた。大雑把な地図を頼りに並木道を歩いていると、地図の端に書いてある名前と同じお洒落なお店を発見した
「トヨトミパスタ…ここだ!」
生まれて初めてのアルバイトの面接。慶次先輩は店長さんに話しておいてくれるって言ってくれたものの、すごく緊張する
「CLOSE」の立て札が掛かるドアを思いきって開けると、チャリンチャリーンと可愛い鈴の音がお店に響いた
誰もいないシーンと静まり返った店内は、あちらこちらに緑が飾ってあり外装と同じでとてもお洒落な雰囲気
「私、こんな素敵なお店でバイトするんだ…」なんてまだ受かってもいないのにワクワクしていると、お店の奥からとても大きな男の人が現れた
「はっはじめまして!前田先輩に紹介していただいたみょうじなまえです。今日は面接よろしくおねが…」
頭を下げて、言い終える前にガバッと顔を上げると目の前には、2メートルを遥かに越える巨体、揉み上げのすごい顔の濃いゴリラのような大男が立っていた
「ごっごめんなさい!間違えました」
「殺される…!」その大男の顔を見た途端、そう思った私はそのまま回れ右をしてドアまで行くと
「待て!」
「ヒィ!」
太く低い声で呼ばれて体が硬直した。恐くて動けないでいると
チャリンチャリーン
可愛い鈴の音に「助かる!」と希望の眼差しの先に、銀髪カールが美しい男の人が入ってきた
だめだ、キレイな男の人が殺される!…なんてハラハラしていると、大男は「おぉ、半兵衛」と手を上げた
「お疲れ、秀吉。あれ……お客様?あ!もしかして君は慶次君が紹介してくれた子かい?」
「あ…はい」
「すまんが、半兵衛も同席してくれ」
あれれ?もしかしてこの人達ってお店の人?
大男とはまるっきり正反対の小柄で超がつくほど美しくて優しそうな男の人は、「驚かせてしまって悪かったね」とお店の真ん中の広いテーブルに通してくれた。それに続き、大柄な男はテーブルに座った
「はじめまして、僕はここの店の副店長を務める竹中半兵衛だ。そんなに緊張しなくていいからね、なまえ君」
ニッコリと微笑んでくれた竹中副店長は、そりゃあもう…格好良すぎて逆に緊張してきてしまった
「ゴホン!我は店長の豊臣秀吉だ」
「ささささっきは失礼な態度を、ごめんなさい!みょうじなまえです、宜しくお願いします」
豊臣店長は腕組みして怖い顔をしているけれど、どこか少し照れたような困ったような顔をして私を見た。隣でふふっと笑った竹中副店長は「それじゃあこれからは僕が説明するね」と話し始めた
「慶次君に話しは聞いたと思うけど、この店のホールを担当してもらうつもりだ。なまえ君はアルバイトの経験は?」
「いえ、全くないです。あ、あのー…」
テーブルに両肘をついた竹中副店長は、可愛い小動物のような顔で首をかしげた。あああ、この人自分が美しすぎるってこと理解してるのかな?さっきからキュンキュンが止まらないよ!
「私、前田先輩に何も聞かずに紹介されたんですけど…」
私の発言に豊富店長も竹中副店長も目をまん丸にして驚いて、すぐに笑った
「フン、慶次らしい」
「本当だね、秀吉」
二人は顔を見合わせて一通り笑うと、再び小悪魔スマイルを私に向けて言った
「明日から店に来てくれるかな?」
この日から私の運命が変わった
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