novel | ナノ


幸せのカテゴリー


 ベルトルトがトイレから戻ると、なぜか兄妹喧嘩が始まっていた。
 テレビの音はそのままに、ライナーの大きな声がリビングに響き渡る。

「アニ」
「………」
「アーニ!」
「うるさい。なに」
「…いい加減機嫌直せって」
「やだ」
「なんでだよ」
「ライナーが薄情だから」
「…なっ?!違うぞ!俺はお前のためにだな…」
「黙れ馬鹿ゴリラ」
「………お、」
「話しかけないでこっち見ないで動物園に帰って」
「……………」

 やめてあげて!もうライナー全然反応できてないから!完全にKO負けしてるから!!
ベルトルトは心の中で叫ぶ。

 …それにしても。

 僕がいない数分間に何があったんだ…
この様子から察するにライナーがアニの機嫌を損ねたらしい。それは大変だ。

 アニは頑固で我が儘なところがあり、たまに手に負えなくなってしまう。
 まぁ、そんなところが可愛かったりするんだけど…って、こうやって僕たちが甘やかすのが一番の原因なんだよね。よくわかっている。
 だが、僕もライナーも可愛い妹分を甘やかすことに慣れてしまっていて、今更やめることなどできない。

 たとえ、

「今日忙しいからってアニにパシられたんだぞ!いつもライナーとベルトルトはやってくれるって脅されたんだからな。まぁちゃんと礼を言ってくれたからいいけどよ!それにしたってお前ら、ちょっと甘やかしすぎなんじゃねーの?」

 …と被害者@に言われても、

「アニは少し人使いが荒い時があるんですよ〜。私もコニーと一緒でたくさんパシられました!…え?そりゃあ、まぁ、報酬にパンはいただきましたけど…それとこれとは話が別です!2人は過保護すぎます!」

 …と被害者Aに言われても、やめられないのだ。(ていうかアニもこの2人だからパシってるんじゃないかな)

 この家のヒエラルキーは完全にアニ>>>ライナーと僕。ベルトルトは今回も手こずりそうだな…と眉を掻きつつ尋ねた。

「ちょっと2人とも、どうしたの?」

 ライナーが生気を取り戻し、2人同時に僕の方へ顔を向ける。
 こういうところが本当の兄妹みたいで微笑ましい。

「ライナーが酷いこと言うんだよ」
「酷いって?」
「俺はお前のためを思って言っただけだ」
「…なんて言ったの?」

「「もう一緒に風呂に入るのはやめようって」」

 あー…なるほど…そういうことか。

 つまり、

「アニはまだお風呂に一緒に入りたいのに、ライナーがそれをやめようって言うのね?」

 うん…とアニの顔が曇る。
その拗ねた顔はアニがまだ小さい時の顔によく似ていた。
 それにしたってなんでいきなり…

 僕達は、小さい頃からずっと一緒にお風呂に入ってきた。小学生になっても、中学生になっても、それこそ高校生になってもだ。
 アニは唯一の異性だが、今更アニの裸を見たってなにも気にならない。
 そのくらい僕らは同じ時間を共有してきた。

「ライナー、突然どうしたの?これまでずっと3人で入ってきたじゃないか」
「まぁそうなんだが…」

 ライナーは言いづらそうに言葉を続ける。

「今日の昼休みに、ついうっかり俺らの風呂事情をこぼしちまったんだ。そしたらジャンに言われたんだよ。お前ら、この歳まで一緒にお風呂とかおかしいぞ。男同士で入るっつーのも理解できねぇが、特にアニなんか女だろ?これからアニに彼氏ができた時とかどーすんだよ≠チて…」

 ーーーあの馬面…

 あの馬面、とアニが毒づく。同じことを思っていたらしい。

「ライナー…ジャンの言うことなんてきかなくていいよ…」
「うーん、まぁいつもだったらそうだが、今回ばかりはジャンの言うことも一理あると思ってなあ…そしたらふと、もうやめた方がいいんじゃねえかって」

 アニがこんなに嫌がるとは予想外だった、と言ってライナーはため息をつく。
 まぁ確かに、アニは率先してやめようとしそうだ。ベルトルトも少々意外に思ったのは否めない。

 すると、黙っていたアニが口を開いた。

「わたし…は、これからも一緒に入りたい。だって、もう習慣になってるし…楽しいし…それに、いつまでこうやって3人で暮らしていけるかわかんないから…それまでは一緒に入りたいなって…」

 ーーーその言葉に、ベルトルトはなぜだか感動してしまった。元々アニは自分の思いを語ることが少ない。
 感動したのは、ライナーも同じだったみたいだ。

「アニ…!!」

 ライナーがアニを抱きしめる。アニはすごく苦しそうだが、少し嬉しそうな顔をしていて。
 ベルトルトも後ろから2人まとめて抱きしめた。今はただただ、この幼馴染みたちが愛しい。

「僕達はこれからもずっと一緒だよ。だから今日も一緒にお風呂に入ろう。ね?」

 ベルトルトの問いかけに、3人は大きく頷いた。

−−−−−−−

 狭い浴室にぎゅうぎゅう詰めになりながら入る。
 ベルトルトがアニを抱き抱え、ライナーがその向かい側に座っていた。

「やっぱりお前らと入る風呂は最高だな」
「そうだねぇ」
「思ったんだがな、アニに彼氏ができた時が問題なら、まず彼氏を作らせなければいいんじゃないか?」
「あ!それ名案!」

 ちょっと、勘弁して!と怒鳴るアニを無視してベルトルトとライナーは笑う。
 この日から、アニへの過保護っぷりがひどくなったのは至極当然の事となった。


***

アニちゃんの方が嫌がるかなーとも思ったけど、逆でも萌える!と思ったので(笑)ジャンは多分この後シバかれます…3人の事を想って言ったはずなのに、勘違いされちゃうジャンは不憫可愛い。

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