◆


「今日もすごく上手に演技できていたな、義樹。さすがだ、えらいぞ」
「ああ……つかさ……」

放課後の生徒会室。
誰もいない二人だけの空間。

つかさが俺の名前を『義樹』と呼び捨てで呼んで、俺を撫でながらまるで子供相手かのように褒める。

「お前のあの偉そうな態度も今では自然で凄みがあるな。今日のはさすがの俺もゾクゾクしたよ」
「ああ……つかさ、ごめん……。俺はつかさを守らないといけないのに、あんな態度、取って……」

俺の声が途切れ途切れになる。
これから行われることに対する、全身を突き抜けるような期待。

「いいんだよ。俺は今日やりすぎたお前を叱るためじゃなくて、褒美をやるために来たんだから」
「……ほうび?」
「お前、また俺に言い寄ってくるあの気持ち悪い奴、追い払っただろう」
「ああ……」

あの薄気味悪い一般男子生徒のことか。
言わずもがな、つかさの見目は素晴らしいものだ。
普段のつかさはわざとフレームが大きくダサい眼鏡をしているため、低能どもはつかさの美しさに気付けない。

ただ、稀にいるのだ。
つかさの容姿の良さに気づいてしまう奴が。

つかさは大人しい地味な生徒を演じている。
そのことに漬け込まれ、上手く抵抗できない“設定”のつかさはゾッとするような偏執的な愛情を向けられることが多々あった。

「あの男、見てるだけで俺の中が殺意で湧いた。つかさは少し楽しんでいたようだったけど、俺は我慢できなかった。ごめん、つかさの楽しみを奪うようなことして」
「……」
「ごめん、つかさ……。俺、つかさのこと好きだから、我慢できなくて……」

つかさ本人が隠しているため一般生徒は誰も知らないだろうが、つかさの家は由緒ある名家である。
おそらく、名前を聞けば誰もが恐縮してしまうほどの。

そして、俺の家はつかさの家に劣る。
なぜなら俺の家はつかさの家の分家なのだ。
俺の父──つかさの父の弟にあたる──が本家から独立し、妻を娶って俺が生まれた。

つまり、俺とつかさは従兄弟同士ということになる。

伝統ある古い家である。
たとえ同い年で従兄弟であろうが本家の人間に逆らうことは許されない。

俺は幼い頃からつかさを見てきた。
つかさのその頭の良さ、恵まれた容姿は周囲の人間をことごとく魅了した。
つかさは全てに恵まれている。
そんな俺もつかさに魅せられた一人だ。

伝統ある古い家である。
分家の人間は本家の人間に常に気を使わねばならない。

本家の人間として囲まれるつかさを、俺は遠目から見ていることしかできなかった。

初めて俺たちがまともに対面したのは、中学一年の時だ。
性格は確立され、ただの大人の玩具ではなくなり、物心も善悪の判断もつく年頃である。

その時のつかさの第一声を、俺は忘れることはない。

──すべてが上手くいき過ぎている。つまらない。

つかさは冷め切った目でそう漏らしたのだった。


つかさの本心を知った俺は、なぜだかつかさに気に入られた。
つかさに呼ばれて俺はいつも本家に通った。

やはりつかさはどんな時でも美しかった。
まだまだ子供の年齢であるというのに、つかさには沢山言い寄ってくる奴がいるらしい。
別々の中学に通っていることが悔しくて仕方がない。

そのことを知った伯父(つかさの父)は笑っていたし、それほど真剣味はなかった。
伯父はただの冗談のつもりだったのかも知れない。

けれども伯父──本家当主は俺に命じたのだった。
つかさを守る騎士になれ、とそう言ったのだ。

俺はその言いつけを守り、出来る範囲でつかさの側にいた。
つかさもその事に関しては満足気で、何も言わなかった。

そして俺は当然のように、つかさと同じ高等学園へと進学する。
俺はつかさが好きだった。


 ◆


「はぁっ……ぁ、つかさ……舐めさせて」
「ふっ、どこを?」
「足……足、舐めさせて……」

俺はつかさの返事を待たずに、そっと彼の足に手を添える。
眼鏡を外し、生徒会室の椅子に偉そうにしてふんぞり返っている下着姿のつかさは、ふっと俺を蔑むような笑いを零した。
今の自分はまるで、エサを前に『待て』をされた犬のようだと心の中で自嘲する。
でも、決して嫌ではない。

「お前は本当にこれが好きだな。……いいよ、今日はお前に褒美をやるために来たって言っただろ。好きにしろ」

俺は、愛してやまないつかさに虐げられることが、何よりもどんなことよりも気持ち良くて。

「ああ、好きだ。つかさの足は本当に綺麗だ……。白くて、細くて、柔らかくて……」

下着姿のつかさ。
肌が極限まで露出されて、どこもかしこも白く、甘そうで。

「思いっきり、噛み付きたくなる」
「ぁ……んや、馬鹿……そんなことしたら怒るぞ……」
「大丈夫、つかさにそんな酷いことしない……」

手を添えたつかさの足をそっと持ち上げて、爪先に口づける。

「はっ……義樹……」
「つかさ、可愛い、可愛い……」

次にその唇を彼の膝に這わせて、徐々にくるぶしまで滑らせてゆく。
もどかしいのか、つかさの細腰が少しずつ浮き上がってくる。

「や……ぁ……義樹……」
「……っ、んは……」

全身を舐め回して、つかさの方から『我慢できない』と、『もう挿れてほしい』とねだられたいと思っていたのだが、どうやら俺は辛抱するのが苦手らしい。
早く彼の足の付け根の中心を貪りたくて、甲高く響くいやらしい喘ぎ声が聞きたくて仕方なかった。

「義樹……?」
「……つかさ、ごめんッ……」

俺は我慢ならずに、唯一の堤防であったつかさの下着を剥ぎ取ると、そのまま中心にむさぼりついた。

「ひァッ、あぁんっ……義樹ぃ! そんな……いきなりっ……」
「は、ぁ……っ、つかさ……!」
「あ、やめっ……やめてっ……んんっ!」
「つかさのコレ、すごくおいしい。はぁっ──もう、ずっと、舐めていたいくらいに……」
「や、ん……ふふっ、ばか……」

つかさは呆れたような笑みを零すと、一生懸命フェラに没頭する俺の頭を子供をあやすような手つきで撫でてくる。
いい子いい子するように甘やかな手のひらは、まるで俺を優しく褒めてくれているみたいで死ぬほど嬉しかった。

溢れ出す愛しさに、俺は更に舌を使って絡めるようにつかさの陰茎をしゃぶった。

「やっ、んっ! んっ……! んんんーっ……!」
「つかさ、気持ちいいか? いいなら喘ぎ堪えないで、俺にもっと聞かせてほしい……」
「んやっ……犬のくせに、生意気っ……!」
「俺は馬鹿犬だから……褒められると調子に乗るからな……」
「……っ、そんな駄犬は……躾し直し、だなっ……ひぁ、んっ……!」

俺の頭を余裕気に撫でていたつかさの手が力み、たまに俺の髪を掴んでくる。
さすがに引っ張られはしないものの、少々頭皮に痛みを感じる。
この痛みはつかさが全身で感じてくれている証拠でもあるため、とても嬉しいし男冥利に尽きるのだが……禿げたらどうしてくれるつもりだろうか。

「やっ……いやっ、義樹ぃ……あぁんっ……」
「本当は嫌なんかじゃないよな? つかさはここ舐められるの大好きだもんな?」
「あ、ぁっ……んぅっ……すきぃ……!」
「ああ、知ってる……」

俺はつかさの顔を見上げて、妖しく笑う。

「つかさは他にどんなことが好きなんだ?」
「あ、あぁっ……!」

つかさは見た目通り生粋の女王様気質なのだが、屈服させられるのもまた堪らないらしかった。
恐らく、自らという完璧な存在が快楽に堕ちてしまったという屈辱が快感なのではないだろうか。
なんとも変態的だと思う。SとMは紙一重、とはよくいったものだ。

「あ、あとはっ……泣いても、許してもらえないくらい、激しくっ……ひんっ……先っぽグリグリされるの、好きっ……!」
「ああ、知ってるよ。そうするとつかさは気持よすぎて泣いちゃうもんな」
「うんっ……泣いちゃうっ……! 痛いのに気持ちよくて泣いちゃうっ……!」
「体も激しくクネクネさせて、ビクビク痙攣しちゃうもんな」
「だってっ……気持ち、よすぎるからぁ……」

そう言って、うっとりと瞼を細めたつかさの艶やかさに目が眩む。
甘えるように揺れるつかさの細腰が俺の理性を奪っていく。



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