リクエスト4.「『大人すぎる生徒を気にかけていたら唇奪われた』の続き」
「先生」
理科室、職員室で日直として日誌を持ってきた彼女が、教員全員に聞こえるくらいの声で「放課後相談に乗ってください」と言って、指定してきた場所。
ある意味では彼女のホームグラウンドのようなここだが、あんなふうにされては断れなかった。
「何言っても、結局来てくれますよね」
「教員全員に聞かれてるとこで、断れないよ…」
「そうやって言い訳できるような状況作ってあげたんだから、感謝してほしいなあ」
「ハンジさん、一応先生に向かってそういうこと言っちゃだめ」
「ごめんなさい、先生」
わざとらしく彼女が舌を出す。
「……で、相談って何?」
「…ああ、実は私、前服より中身の方が興味あるって言ったじゃないですか」
「うん、覚えてるよ」
「……先生の中身、気になるなあ」
さっ、と血の気が引く。
「や、やめて」
「ん?怯えてる?かわいいなあ」
「何、解剖でもしたいの…?」
「え」
ハンジさんが固まる。そして、腹を抱えて爆笑し始めた。
「違う、違うよあはははは!!
それじゃ服の中身じゃなくて皮の中身だよ!
いや、もちろんそれも興味あるけどね…っ!
ぶ、っはははは!!!」
「え、ええと…?」
「うん、いいや。
何かしてやろうと思ったんだけど、何か先生って思った以上に純粋っていうか、むしろ私を純粋に思ってくれてるみたいだから、やめとく!」
……聞き捨てならない言葉が聞こえた気もするが、とりあえずスルーする。
「せーんせ」
「!?」
ハンジさんが、私の首に手を回してくる。
「中学卒業したらさ、中身見せてよ。
みんな私を大人だとか天才だとか囃し立ててくれて、嬉しくないわけじゃないし、むしろありがたいけど、でも中学生だからね。
年相応に、そういうことに興味もあるよ」
「え…?」
「例えば、キスとかも」
「んっ」
ハンジさんの顔が近づいてきて、思わず目をぎゅっと瞑る。
でも唇に感覚は落ちてこなくて、聞こえてきたのは笑い声。
「、えっ」
「期待した?」
「違っ」
「これも、卒業するまでお預けね」
じゃ、と言って腕をとき、さっさと彼女は理科室を出ていってしまった。
残された私は、ただただ立ち尽くすだけ。
卒業式が少し待ち遠しくなった自分は、もちろん気づかないふりをした。