百合乃様よりキリ番21000リクエストの「『大人すぎる〜』でハンジさんが中身を見る」です。
ハンジさんが悪い意味でリアル高校生です、すみませんでした。







私の初めて受け持ったクラスの卒業式から、早3ヶ月。

すでに入学式もあり、私自身も新たにクラスを持ち、教師二年目の生活にようやっと慣れてきたところだった。

ところで問題の生徒ハンジ・ゾエだが、彼女は有名私立高校に推薦で受かり、授業料全額免除というすばらしい成績を残しているらしい。

今度は共学で、彼女の話していたヅラだとか人類最強だとかの昔馴染みの子たちも一緒なようで、この前はその二人と、彼女曰くの匂いフェチとモブ顔さんを学校帰りに家に寄り、紹介をしてくれた。

そのときの安堵感は未だに忘れられない。

彼女から聞いていたとはいえ、私が見ていたのはクラスで孤立していた彼女ばかりだったからだ。

と、ここでお気づきの方もいるかもしれないが、ハンジさんは私の家にはちょくちょく来ていた。

卒業式の日、生徒が我慢している手前で教師のくせに号泣してしまったのだが、みんなが帰ったあと、涙が止まらないまま職員室に戻ろうとすると、彼女がいた。

それで、連絡先を教えてほしいと言われ、アドレスくらいなら、と教えたのだ。

そこから、上手いこと家まで押し掛ける用事を作られ、家を教えてしまった。

彼女は生徒だったとはいえ、レズビアン。

いや、レズビアンなのは構わないが、かつ、私を狙っている。

それをわかった上で、これは危機管理がなっていないと言われればそれまでだが、それでもやっぱり、彼女は私の生徒だった。

それに、何度も彼女はこの3ヶ月の間に遊びにきたが、ちょっとした悪さはすれど、その程度だったから、私は油断していた。

日曜の昼間、特にすることもなく、お昼どうしようかな、なんて考えていると、その彼女からメール。

今日遊びにいってもいい?なんていうので、じゃあうちでお昼食べる?と返せば、すぐによっしゃあ!と返信が返ってきて、思わず笑ってしまった。



「先生、料理美味いよね」

「…ハンジさんに比べればね」

「ひどいなあ」

家庭科の調理実習、ちょうど時間があいており家庭科の先生に誘われて見に行ったときの、ハンジさんの料理下手っぷりは未だに忘れられない。

さすがにお米を洗剤で洗ったりはしないが、卵を粉砕したときには不覚にも笑った。

「目分量は得意なんだけどなあ」

「確かにね」

塩10g、例えばそう指定されれば、ハンジさんはある程度10g前後の量を測らずに取れた。

問題は、そうきっちりレシピにあれば問題ないのに、少々やお好みで、などと書かれると、いきなりおかしな味になることだ。

「いいお嫁さんになるよ」

「……」

ふふ、と彼女が笑う。

高校生になって、彼女はまた一段と大人っぽくなったと思う。

こう、色気が出た。

「と、ところでハンジさん、今日は何しに来たの?」

どうにか話を帰る。

「え?ああ、先生を温泉に連れていってあげようと思って」

「…っえ?」

「先生、好きですよね?」

「好き、だけど…。ハンジさんは、嫌いでしょ?」

「別に?入るのが面倒で、入る時間があるなら他にやりたいことがあるから、あまりお風呂に入りたがらないだけだよ」

ぱくり、と一口彼女が昼食を口にする。

「でも、何でいきなり…?」

「一昨日、学校で友達と温泉の話になったんだよね。
二駅くらいのところに、日帰り温泉があるんだって。
それで、じゃあ今までありがとう、といつもお疲れ様、ってことで、先生を連れていこうかな、って」

「ハンジさん…」

不覚にも、感動する。

だから、一緒に温泉に行くということが、どんなことかなんて、私は考えていなかったのだ。







大人すぎる生徒が思春期だった







「ふふふ〜」

「だから、先入ってていいよ……?」

「いーや」

ご飯を食べ、じゃあ早速行こう、と言われ、昼間にも関わらず温泉まで来た私たちだったのだが、とうに服を脱いでいつでも入れるハンジさんに対して、私はどうにも脱げずにいた。

というのも、最初は気にせず脱いでいたのだが、下着姿になるやいなや、彼女の視線が一心に私に注がれるようになったのだ。

何でか聞けばただ一言、「裸見たい」。

もちろん、ホックにかかりかけていた手は止まった。

「私の身体なんて、見たって何も楽しくないよ」

「何で?私がどういう性癖か、知ってるくせに」

「それでも、まさか女の人なら誰でも言いわけじゃないでしょ…?」

「もちろん。それで、先生なんだよ」

「…やっぱり、先入ってて」

「えー」

「後から、ちゃんと行くから…」

「うーん。…ま、いいや!
じゃあ、先入ってるよ。早く来てね」

ハンジさんがぱたぱたと走って中に入っていく。

普段なら叱るところだが、まあ時間的にもちょうど誰もいなかったので、今回はお咎めなしとする。

そこでふと思い出す。

ハンジさんが、以前言っていた"中身"。

私は身体の中身だと思っていたが…。

「まさか服の"中身"…っ!?」

どうしよう、割と本当に私は彼女に狙われているのかもしれない。

そう思うと、一度覚悟しかけたにも関わらず下着を脱ぐ手は止まった。

問題は、心の奥底ではハンジさんに好かれているそのことを、どこか受け入れてしまいたい気持ちがあることなのだけれど、それに私は、まだ気づいていない。



「あは、先生いらっしゃい」

「あんまり見ないでっ」

一応タオルで隠しつつ、湯船にも浸からずに待っていたハンジさんにそう叫ぶ。

「ねえ、ハンジさん…」

ハンジさんの隣に座ってシャワーをとる。

それを見てか、彼女も同じようにする。

「何ですか?」

「ハンジさん、前、私の中身に興味があるって…」

「ああ、言ったね」

「それって、まさか…」

「あっはは!今気づいたの…?えいっ!」

「きゃあっ!」

ハンジさんが私の身体を隠していたタオルを奪う。

「か、返して…」

思わず、胸を隠す。

「うわあ…」

「な、何…っ?」

「鼻血出そう」

「やめてっ」

「うん、鼻血は冗談…でも、興奮する」

「ハンジさん…っ!」

「ごめん、身体洗おうか」

「え…?う、うん…」



身体を洗って、湯船につかる。

さっきまでふざけていたハンジさんがいきなり黙ってしまったから、なにかしてしまっただろうかと不安になる。

しばらくぼーっとした彼女の様子を見ていた。

「ハンジさん…?」

「なまえ先生…」

「な、何…?」

彼女が私の肩に寄り掛かってくる。

濡れた髪がくすぐったい。

「ごめん、だめだ、私、好きな人の身体見て冷静でいられるほど、大人じゃないよ」

「ハンジさん、えっと…」

つまり、それって。

何となく熱っぽい彼女の掠れた色っぽい声でそんなことを言われて、頬が熱くなる。

「先生ってさ、AV見る?」

「えっ?み、見ないよ…」

「だよね。
私は、サンプルとかスマホで見たりするけど。
レズ物とかさ、完全男性目線でできていたりして、萎えることもあるけど、やっぱ興奮した。
まだ子供で、男を知らないだけだって言う人もいるけど、やっぱり女の子が好きなんだ」

「…そっか」

「でも、誰でもいいわけじゃないよ。
私の嗜好とは別に、女子中学だったけど、どの同級生にも、先輩にも、後輩にも、恋しなかった。
一人だけだった、ねえ、先生…」

肩に置かれていた、彼女の顔が、耳に近付けられる。

彼女の唇から熱い息が漏れて、こそばゆい。

「私、先生のこといつまで先生って呼べばいいの…?」

「…ハンジさんは、ずっと、私の大事な、生徒だよ……?」

「わかってるくせに、なんでそんな意地悪なこと言うの?
ねえ、嫌なんだよ、もう先生のこと、先生って呼びたくない…なまえって呼びたい。
年下からの呼び捨てが嫌なら、なまえさん、って…そう呼びたいんだ」

「ハンジさん…」

彼女が私の肩を引き寄せる。

「待って…」

「やだ…だめだよ、私まだ子供なんだよ?
先生の身体見せられて、我慢できるわけない…。
いや、我慢するつもりだったけど、だめだったんだ。
嫌なら、突き飛ばしていいから、お願い。
私を受け入れてよ、愛してるんだ」

「…ハ、ンジさ、ん」

唇が近づいてくる。

「わ、たし…」

どうしよう、突き飛ばせない、そんなのできない。

拒否すべきだ、卒業生とはいえ、彼女は生徒。

若くて、将来有望で、私なんかには見合わない。

何より女性同士で、そんな重荷を、彼女に背負わせたくない。

彼女が自分自身をレズビアンだと認識していても、恋人を実際に持つのは、絶対に重荷だ。

それでも、私は、

「っ!?」

「えっ!?」

唇が触れそうになったそのとき、聞こえてきたばたばたという足音。

脱衣場に誰かが入ってきたようだった。

「…ふふ、誰か来ちゃった!キスはお預けだね」

「は、は…ハンジさん!」

「何?…なまえ」

「な、名前…っ!」

「え?だってそういうことでしょ?
さっき、なまえは私のことを拒否しなかったよ?」

「あれは…っ」

「人さえ来なければ、確実にちゅーしてたくせに、何か私間違ったこと言った?」

「だって…私……」

新たにお客さんが浴室に入ってくる。

「……ごめんね、蕀の道を歩かせちゃって」

「そんな、私はいいの。ハンジさんの方が…」

「いいんだよ、私はずっと自覚してた。
それこそ幼稚園のころくらいから恋愛対象は女の子で、今だって変わってない。
親も、友達もみんな知っていて、理解してくれてるんだ。
私は問題ない。だから、ノンケだった先生を巻き込んで、悪いことしたな、って思ってるよ。
でも、ガキはガキなりに本気なんだよ。
つらい思いもさせるかもしれないけど、それ以上に幸せにするから、だからなまえ、私を選んで」

「ハンジさん…」

「ハンジでいいよ」

「ハンジ……ちゃん」

「ちゃんってくすぐったいな」

はは、と笑う彼女を尻目に、私の目には涙が浮かんでいた。

そうだよ、私はあの日からずっと彼女に惹かれていて、それでもずっと気づかないふりをしていただけ。

教師と生徒だったのもあるし、彼女がどんなに大人でも事実子供だったのもあったから、からかわれてるんじゃないかとか、色々考えた。

けれど、彼女は彼女なりに葛藤していたんだろう、とにかく、今彼女の本音を私は聞けた、それが大事なのだ。

「ハン、ジ…で、いいのかな」

「いいよ、それがいい」

「これから、よろしく」

「えっ?」

「こんなおばさんだけど、ちゃんと、大事にしてね」

「……マジで!?いいの!?」

「うん…」

「やった…!」

ハンジにぎゅうっと抱きつかれる。

「ありがとう、なまえっ!
一年間も、片想いしたかいがあった…!」

「あはは…」

あくまで温泉内、抱擁もほどほどに、また端から見れば教師と生徒に見えるよう、距離を保つ。

「ねえ、なまえ」

「何?」

「今日、なまえのうち泊まっていい?」

「えっと、明日月曜日だけど…」

「大丈夫」

「…親御さんの許可が、取れればね」

「もちろん。ちゃんと取るよ。
親に隠れてこそこそする恋愛なんていいものじゃないから」

「恋愛かあ…」

「そうだよ、恋愛」

こう話を聞いていると、やっぱり私なんかよりハンジの方がよっぽど大人だ。

「で、さ…」

「何?」

ハンジがいきなり目を泳がせる。

「……帰ったら、抱いていい?」

「えっ!?」

「だめ、やっぱりなまえの裸なんか見ちゃうと、興奮して…」

「馬鹿!だめに決まってるでしょ!気が早いっ!」

「ええっ!?泊まるのはいいのにー!?
そんなの生殺しじゃないか、さすがにひでえよ!」

「それとこれは別!」

「ええー!」

騒ぐ(といっても、周りに迷惑じゃない程度の音量で)ハンジを尻目に、もう私上がるから!とさっさとお風呂から出る。

待ってよー!と追いかけてくる彼女も気にせず、私は身体を拭いて、すぐさま服を着始めた。




百合乃様、まさか二人が付き合うとは私も思わなかったので、実はものすごくびっくりしております。
リクエストありがとうございました。


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