同棲中の彼女と夜の公園で将来を考えてみたの続き





同棲中の彼女と指輪を買いに行った





「起きろ馬鹿!」

「っ!?」

ハンジの頭を思いっきり叩く。

ハンジが眼鏡を探すのも無視してお互い真っ裸のままベッドから出て、浴室に連れ込む。

「え…え、なまえ、何、何で朝から怒ってるの」

「寝坊したの!
ハンジが遠慮なしに昨日…ああもう!」

思い出すだけで恥ずかしい。

結局、お風呂にも入らないままハンジにネット購入したらしい双頭バイブとやらで、ほとんど明け方まで抱かれていたのだ。

途中、珍しく服を脱いだハンジを責めてやったりもできたが、まあ結局それも無駄な抵抗だった。

「えー、なまえだって相当気持ちよさそ…ぶっ!」

「黙って」

シャワーの温度を確認してから、顔に掛けてやる。

冷たいままかけなかっただけ、優しさを感じてほしい。

「ハンジ、頭洗うからそこ座って」

「え、まだいいよ」

「まだって何。
だめ、今日は指輪を買いに行くんだから。
…もう予定より一時間遅れてるんだけど」

「まあいいじゃない、集合してるわけじゃないんだから、一時間起きるのが遅れたなら、一時間デート時間が伸びると思ってさ」

「昨日ディナーの予約とかしてたくせに」

「ヤる前にやっといてよかったよ、あんな疲れるとは思わなかった」

「ハンジががっつくから悪いんでしょ」

「ごめんよ!」

「…まあ、もういいけど。
はい、じゃあ髪洗うから、濡らすよ」

そういって遠慮なしに彼女の髪を濡らして、シャンプーを大量に手につけて、髪を洗い出す。

まあ、一回じゃ泡立たないだろうことは予想していたので、一回目はすぐに流して、二回目に念入りに洗う。

次にシャンプーを流してから、トリートメントを手にしたときに、ハンジが「いいよ、それ面倒くさい」といったときは、本当に彼女は女なのだろうかと思ったけれど、長年の付き合いだと気にならなくなる。

トリートメントも念入りにしてから、髪を流すと、水をきって、髪をまとめてから、洗顔料を手にとる。

「え、いいよ。水で十分だって」

「あなたはよくても私は嫌なの、かわいい彼女のわがままでしょ、聞いてよ」

「婚約者、ね」

「…かわいい婚約者のわがまま、聞いて」

「えー」

「もういい、明日からベッドは私一人で使うから」

「えっ、嫌だよ!
うん、我慢するよ、それ我慢する!」

「じゃあ遠慮なく」

「ぶふっ」

泡立てた泡をハンジの顔にぶつけてやる。

もちろん、目には入らないように。

そのまま彼女に目を瞑らせて、顔を洗ってやる。

なぜ、彼女は洗顔料を使わずに、これだけ綺麗な肌でいられるのだろうか。

少し嫉妬を覚えつつも、こちらも念入りに洗って、今度は優しくお湯をかけて流してやる。

軽くタオルで拭いて、そのままそのタオルを手渡す。

「身体は自分で洗ってね」

「えー、ここまでやってくれたなら最後まで面倒みてよ」

「私も頭洗わなきゃだから」

「ちぇー」

ぶつくさ文句を言う彼女を放置して、自分もさっきハンジにしてやった作業をする。

そのうちハンジが身体を洗い終わって、暇そうに私の身体で遊んでくるが、軽くあしらって自分も全身を洗い終えてから、二人で浴室から出てきた。

バスローブを羽織って、髪を乾かす。

生乾きのまま服を適当に選んで服を着出すハンジを横目に自分はきちんと乾かしてから服を着る。

「ハンジ、こっち着て。
もう一回ちゃんと髪乾かすから」

「え、大丈夫だよ。
なんだか今日、なまえこういうことにうるさいね、どうしたの」

「いいから、そこ座って」

「はーい、お母さん」

「…婚約者でしょ」

「ふふっ」

生乾き…というか、髪から水分が垂れなくなっただけの髪を、きちんと櫛を通しながら乾かす。

普段のぼさぼさの髪からは想像できないくらいさらさらになったハンジの髪に感動して、思わず変な声が出た。

とりあえず、いつも通りのポニーテールにしてから、彼女から離れると、ハンジはもの珍しそうに自分の髪を触った。

「すげえ、私の髪ってこんなになるんだ」

「そうだよ、もったいない」

「あんまりそういうのに興味がないからなあ…。
ところで、結局服はそっちを選んだんだね」

「え?」

「いや、二種類昨日服出してたからさ」

「…ああ、こっちは、ハンジの分」

「……は?」

「大丈夫、サイズは平気そうなの選んだから」

「……はい?」

「…こっちに着替えて。
嫌かもしれないけど、これは私の意地なの」

「ええと…」

ハンジに服を押し付ける。

最初から嫌そうな顔をしていたが、畳んでおいた服を広げてより嫌そうな顔をした。

そりゃそうだろう、長さはそこそこあるとはいえ、膝上のスカートなのだから。

「私嫌だよ、スカートは」

「わかってるけど、お願い。
私はハンジの、その男だか女だかわからない服装も好きだけど、今日だけは誰がどうみても女の子でいてほしいの」

「…うーん」

「今度、ハンジの大好物作るよ」

「……うーん…っ」

「……今夜、ペニバンで騎乗位とかしてあげてもいいけど」

「…着る」

「自分で言っておいてなんだけど、ペニバンってハンジに何の得があるの?」

「私の腰使いでなまえが気持ちよくなってるっていう快感が…」

「ふーん…。
まあ、いいや、じゃあ、それ着てよ」

「いややっぱり…」

「シてあげないよ」

「…わかったよ、着る」

……まあ、今夜の私の命はなくなったとして、これでハンジに私の"女の子らしい"服を着せることに成功した。

ハンジの着替えを待つ間に、さっさとメイクを済ませる。

適当というわけじゃないけれど、もう時短メイクも慣れたものだ。

しばらくして、わざわざ別室まで行ってしまったハンジが、ものすごく居心地悪そうな顔をしながら戻ってきた。

フレアのスカートを下にひっぱる彼女がいとおしくなる。

「なんか、すごいひらひらしてるんだけど…」

「……かわいい」

「…いつもと立場が逆で、私どうすればいいか、わからないんだけど」

「私はいつも、そういう気持ちなんだよ」

「…そっか」

「ハンジ、そこ座って、鏡の前」

「まだ何かするの」

「メイク」

「スカート履いてれば嫌でも女に見えるって」

「わかってるよ、今のハンジすごい綺麗だもん」

「……居心地悪いなあ、もう」

「ね、いいでしょ」

「今夜すっげえ激しくしてやる」

「それでもいいから」

「え、マジで」

「いい?」

「……あんま厚化粧にはしないでね」

「しないよ、私ナチュラルメイクが好きだから」

「そっか、じゃあおまかせするよ…」

ハンジが目を瞑ったのを見て、ファンデーションやらマスカラやらで彼女を彩っていく。

メイクっていっても、本当に最低限のもの。

だから、正直そんなに顔は変わっていないのだけれど、やっぱり何かしら手を加えた、というのは違うみたいで、元々綺麗な整った彼女の顔が、こう…一段前に出てきた、というか……。

うん、いい意味で目立って、思わずうっとりしそうになる。

「いいよ、ハンジ」

「ん」

合図とともにハンジが目をあける。

「…なんか私じゃないみたい」

「そう?」

「そうだな…顔色がよくなった」

「あはは、他に言うことあるでしょ」

「っと…眼鏡どこにやったかな」

「あ、眼鏡はしないで」

「……それも、あなたの意地?」

「そう。どうせ眼鏡しなくても見えるんだからいいでしょ。
細かい字とか見るときは、かけていいから」

「わかったよ、お姫様」

ハンジが椅子から立って、見つけた眼鏡をケースにしまってバッグに入れる。

「あ、ハンジ。
バッグはこっち。入れ換えて」

「…"意地"ね、わかったよ。
この分だと、靴も指定されているのかな」

「うん、ヒールのパンプス」

「…まあ、たまにはヒールも履くから、エスコートはできるだろう」

「あと、髪は…」

「お願い、髪は勘弁してよ。
これでアイロンとかかけられたら、私死んじゃうよ」

「えー…まあ、いいか。
髪はポニーテールがよく似合ってるし」

「…はあ」

私がわがままを言って、ハンジがあきれるというのは珍しいかもしれない。

いつもは逆だから、少し不思議だけど、これも結構楽しい。

とりあえずハンジにバッグを変えさせて、靴も指定したものを履かせると、二人で部屋を出た。

そして鍵をかけて気がついた。

朝食、食べてない。



結局三食外食になっちゃうね、なんて笑いながら駅の近くのカフェに寄って、朝のセットみたいなのを時間ぎりぎりで頼んで食べた。

いつもよりハンジが目線を集めている…特に男性の。

とはいえ、見た目が若干変わろうがハンジはハンジなので、それを気にもせず、結構えぐい自分の研究の話をし始めて、慣れているはずの私まで戻しそうになった。

そのあと、電車に乗って、指輪を見に行く。

「随分迷いなく向かうね」

「うん、結婚指輪買うならそこだと思うんだよね」

「へえ、お気に入りなの?」

「それもあるけど…。
実は、私そこの結構常連でさ、私の給料でも無理なく買えるようなのも売ってるから、よく行くんだけど。
結構前の、ハンジに誕生日プレゼントにあげたネックレス買うときぽろっ、と言っちゃったんだよね。
……彼女にって」

「へえ」

「ごめん、嫌だった?」

「いや、別に隠しているわけじゃないからね。
ただ、むやみに言うと混乱を招くから、わざわざ言わないだけで。
それで?」

「…応援してますって。
常連になったきっかけ、半分がそれだよ。
その店員さんというか店長さんかも、その人がいい人でさ、商売上手なんだよ」

「そっか、じゃあ私が一緒でこんなふうに手を繋いで指輪を選んでも、驚かれないね」

「うん、一応、こういうのは理解してくれる人のところで買った方が色々楽だしね。
あ、ここ」

「そう、じゃあ入ろうか」

「うん」

ぐいっと扉を押して入ると、いつもの店員さんがいらっしゃいませ、迎えてくれる。

「こんにちは」

私が挨拶をすると、ハンジも「こんにちは」と続く。

店員さんが、「彼女が?」と声をかけてくれたので、はい、と答えた。

ハンジがなぜか妙に自信げに頷く。

「今日は何をお探しですか?」

いつも何"か"と聞いてくるのに、何"を"と聞いてくるあたりに、彼女の商売上手ぶりをまた垣間見る。

私が答えるより先に、ハンジが「婚約指輪です!」と嬉しそうに答えるから、なんだか私も一気に嬉しさが込み上げた。

すると、一瞬びっくりしたような顔をした店員さんが「おめでとうございます!」 と言って拍手をしてくれた。

それを皮切りに、他の店員さんやちょうどその場にいたお客さんが、次々と拍手をしてくれて、ちょっと泣きそうになった。

あんまり派手なのもね、なんて言いながら店長さん(聞いてみたら、やっぱり店長さんだった)に手伝ってもらいながら、指輪を選ぶ。

「婚約指輪ですと、こちらなどが定番ですね」

「うーん…。
値段で価値が決まるわけじゃないのはわかっているんだけれど、やっぱり給料三ヶ月分はかけたいなあ…通過儀礼的に」

「……?」

店長さんがきょとん、とした顔をしている。

彼女は全く金がないか余るほどあるかどちらかの両極端な生活しかしていなかったせいか、すっかり一般的な金銭感覚…というより、平均月収がわかっていないようなので、とりあえず私は「高給取りなんです…」とだけ言っておいた。

「ねえ、なまえ!
これはどう?シンプルだけど、かわいいし。
細かい細工が私は気に入ったんだけど」

「…ハンジ、これあなたの給料三ヶ月分なの?」

「うん、三ヶ月分弱かな」

「……今までは同棲だったからあんまり言わなかったし聞かなかったけど、これからは一応夫婦、っていうくくりになるわけだから、言っておくけど。
……これ、私の給料十二ヶ月分」

「え?」

「年収」

「え!?そんなブラック企業、今すぐやめなよ!」

「これが普通なの!
いや、私はうちのこととかやるために勤務時間短い仕事にしてるから、平均よりは低いけど……」

「嘘」

「嘘言ってどうすんの」

「……知らなかった、私って結構稼いでる方だとは思ってたけど、そんな稼いでたんだね…」

「そうだよ…」

はあ、とため息がもれる。

そうそう、本来はこうやってため息をつくのは私の方。

「まあ、でもいいや。これにしようよ」

「話聞いてた?」

「うん、だって指輪は私が買えばいいんだし。
なまえだって、高いの買わせてやるって言ったじゃない」

「言ったけど…でも私もハンジに婚約指輪買いたいよ」

「うーん、でもなあ。
あ、そうだ、なまえ知ってる?
ドイツでは、結婚指輪って左手じゃなくて右手にするんだよ」

「そうなの」

「うん、たしかロシアとかポーランドとかもだけど。
だからさ、どんなのでもいいから、右手につけるやつ買ってよ。
本当に、どんなものでもいいよ。
なまえが選んでくれるなら」

「……ハンジからすれば、安いのしか買えないよ」

「いいよ、問題は値段なんかじゃなく気持ちだから」

「自分は値段に括ってたくせに」

「それは通過儀礼だからだよ、これも一種の気持ちの問題」

「まあ、いいけど…。
どんなの選んでも、文句言わないでよ」

「言わないよ」

その言葉忘れるなよ、そう心のなかで思いながら、ハンジの右手薬指の号数だけ聞いて、私は指輪を選び出す。

びっくりするくらいかわいいの選んでやる。

まあ、さっきも言ったように、私はあんまり高級なすごい指輪は買えないけれど、まあ相手は私が一年必死で稼いだお金をたった三ヶ月趣味に没頭しただけで稼ぐ女なのだ。

そういう土俵で戦おうとする方が間違っている。

その代わり、すさまじくかわいくて女の子らしくて、それでいて普段のハンジにも似合うような指輪を見つけてやろうと、意気込んだ。

奥の方から出てきた別の店員さんと一緒に選ぶ。

色々考えた上で、どうにかお目当てのものを選んで、何やらうーんと唸っているハンジのもとに向かう。

「ハンジ、どうかした」

「んー、こう見ると色々迷っちゃって…。
でも一番最初に見たこれが一番だと思うんだよね」

「うん、私も色々見るけど、最初のはいいよね。
値段がネックだったから微妙な反応しちゃったけど」

結局ああだこうだと悩んだのちに、最初に選んだ指輪になった。

「名前を彫ったりもできますが…」

「なにそれやりてえ!」

「私の意見は?」

「嫌なの?」

「ううん、すごいやりたい」

婚約指輪の方は名前を入れてもらったりする関係で、後でまたとりにくることになった。

「はい、ハンジ。これ」

自分が買った指輪をハンジの右手につけてやる。

「わ、なんかかわいい」

「でしょ?気に入った」

「気に入ったけど、私に似合うかどうかが心配かな」

「似合うに決まってるじゃん」

「そうかな、ありがとう。
じゃあ、これなまえに」

「え?」

右手を引っ張られて、薬指にこれまた私の趣味にぴったりな指輪がはめられる。

「え?」

「私からもプレゼント」

「いくら」

「お礼は今夜身体で払ってくれればいいよ!」

「馬鹿じゃないの!?」

「痛ぇ!」

遠慮なしにハンジの頭を叩いてやる。

店長さんや店員さんがくすくすと笑っているけれど、聞こえないくらい恥ずかしかった。

ツボに入ったらしく最後まで吹き出しそうになるのをこらえている店長さんに頭を下げられながら、私たちは店を出て、ふらふらと歩き出した

「なんで人前でそういうこと言うの…!」

「照れたり怒ったりしてるなまえがかわいくてさ」

「馬鹿!」

「いってぇ!
いってぇよなまえ、毎回痛いって」

「当たり前だよ、思いっきり叩いてるんだから」

「ちょっとは手加減してよ。
私はこの頭で食ってるんだから」

「私に叩かれたくらいで馬鹿になる頭じゃ、そもそも食べていけてないよ」

「それ褒められてるのかなあ」

「褒めてる。
…ところで、お昼どうする?
意外と時間たっちゃったから、軽めにしておいた方がいいと思うんだけど」

「そうだね…なまえ、何か食べたいものある?」

「そうだなあ、だったら……。
……ハンジ?」

ハンジが立ち止まって、ぎゅっと繋いでいた私の手を握りしめてくる。

いかにも「げっ」 とでも言いそうな顔をしながら、ハンジが私を引っ張って前に進む。

ふと、ちらっとハンジが前からくる男性二人を見た。

彼らちらちらとこちらを見ているような気がして、苦手な知り合いか何かなのかと思って、ちょうど彼らとすれ違ったころに、聞いてみた。

「ハンジ、もしかして」

「ばっ!なまえ!」

「……ハンジか?」

「…冗談だろ」

「……馬鹿、なまえの馬鹿」

こちらを振り返って面食らったような表情でいる二人の男性と、私にしがみついてしゃがみこんでしまったハンジ、

……どういうこと。



「…で、流れで着いてきちゃったけど、なんで二人とご飯食べてるわけ、私たち。
私はなまえと二人がよかったのに…」

「いいじゃないか、色々聞きたいこともあるしね」

「…エルヴィンに話すことなんてこれ以上ないよ」

「……おい、ハンジ、お前…その格好はどうしたんだ、気持ち悪い」

「ひどいなあ、私のお姫様が選んでくれた服だよ」

「…ハンジ、あの」

「何、なまえ」

「この人たちは…?」

「ああ、同僚。
こっちの金髪がエルヴィンで、こっちの目付き悪いのがリヴァイ」

「よろしく」

「…チッ」

「よ、よろしくお願いします…」

二人とも、ハンジがよく二人について話すから知っていたけれど、直接会うのは初めてだった。

「君がハンジの恋人かな」

エルヴィンさんに微笑まれる。

「え、はい…」

「結婚するのか」

「えっ!?」

リヴァイさんがいきなりそう言って、私は思わず変な声をあげた。

よく見ると、リヴァイさんが私の右手をみている。

「そうなのか、ハンジ」

「そうなんだよ、エルヴィン。
まあ、今私たちがしているのは仮の指輪なんだけどね、昨日婚約したんだ。
まあ、書類とかが出せるわけじゃあないんだけど」

「いいじゃないか、だが、なぜ私たちにすぐ伝えてくれなかったんだい」

「明日、言うつもりだったんだよ」

「そうか。とにかくおめでとう、二人とも」

「ありがとうございます…」

「ありがとう、エルヴィン。
ご祝儀は高くていいよ」

「書類をあげようか」

「いらねえ!」

あはは、と笑い合う二人に対し、リヴァイさんは無表情のままだった。

正直、居ずらい。

「おい、ハンジ。
お前、式とかあげるのか」

「ああ、あげるつもりだよ。
まだ会場とか何も決めてないけどね、何せ昨日の夜プロポーズしたんだから」

「だが、女同士で式をあげてもいいなんていう会社は、少ないんじゃないのか」

「どうにか探すよ。
もし見つからなかったら、そうだな…。
リヴァイ、君が手配してよ!」

「まあ、構わないが…」

「え、嘘。君本当にリヴァイかい?」

「あいにく俺の生徒は皆優秀でな、伝はある。
確か、ペトラ辺りがブライダル系の会社と繋がりが…」

「ペトラ?」

思わず聞き覚えのある名前に、話を遮ってしまった。

「ペトラって、ペトラ・ラルですか?
あの、髪が短くて……」

「ああ、そうだが。知り合いか

「はい、同僚で…っていっても、彼女とは部署も役職も違うので、あまり会社内では会わないんですけど、気が合って…」

「そうか…。
確か、同じ会社にオルオがいたはずだ。
あと、グンタと、エルドと…」

「はい、いますよ。
四人とも若いのに、エリート街道まっしぐらというか…。
でも、どうして?」

「四人とも俺の生徒だ」

「えっ!?」

「リヴァイ班だねー」

ハンジが茶化すように言う。

あっ!と思わず声をあげる。

「リヴァイ兵長!」

「ぶふぁっ!」

ハンジが吹き出して爆笑し出す。

がたん!と机の下で音が鳴ったと同時に、ハンジが呻く。

たぶん、足を蹴られたんだろう。

「どこで聞いた」

「ペトラが…リヴァイ兵長に全てを捧げる!って」

「ああ、ペトラは昔からリヴァイのこと大好きだったね!」

「うるせえハンジ」

ああこの人なんだ…と何となく感動しながらリヴァイさんを見つめる。

まあ、確かにかっこいいし…でも、それだけで頭のいいペトラがそれだけで心酔するわけないだろうから、他にも何か魅力があるんだろう。

「っなまえ!」

「えっ?」

ハンジがぐいっと私の顔を自分に向けさせた。

「何、リヴァイのこと見つめてんの!」

「え、えっ…別に変な意味はないよ。
ただ、この人がペトラの尊敬するあの兵長か…って思ってただけ。
……なんで"兵長"なんだろうとは思ったけど」

「嫉妬してんじゃねえよ、見苦しい」

「まあまあ、いいじゃないかリヴァイ。
ハンジは本当に彼女が好きなんだろう。
ちなみに、私は団長だ」

「私は分隊長だよ!」

「は、はあ…」

よくわからないが、なんかすごい外国人の教授の集団がいる、という話から、いつのまにかその教授たちと生徒たちがなぜか兵団扱いされたんだとか。

…意味がわからない。

その後、色々ハンジが常日頃お世話になっている二人だというのもあり、私たちのことを色々話して、結局一番年上だし上司(ハンジは同僚と言っていたが)だし、そもそも一番稼いでいるし…ということで、エルヴィンさんにごちそうになって、別れた。

「いい人たちだね」

「私に付き合ってくれるくらいだからね。
あとで、あと何人か私の仕事仲間を紹介するよ。
とりあえず、まずはミケとモブリットかな」

「…ねえ、どうしてハンジの周りって男ばっかりなの」

「嫉妬?」

「別に…。まあ、不安は不安だよ。
いつか男に靡いちゃうんじゃないかって」

「……私は、今のところ女の子しか好きになったことないけど」

「えっ!?」

「…なまえだけ」

「あ、そう…」

「照れてる?」

「照れてないよ!」

「あはは」

「ねえ、夕飯まで時間あるけど、どこか行く?」

「…じゃあさ、ちょっとぶらぶら散歩しようよ。
ウィンドウショッピングでもしながら」

「いいよ、行こうか」



「ハンジね、本当に綺麗なの」

「あなたには敵わないよ」

「…何で私なの」

「何が?」

「……今日、こんなに私が意地はって、ハンジに女の子っぽい格好させたのはね、ハンジを男扱いされるのが、嫌だったからなの」

「ふーん…。別に、私はいいけど」

「普段は、そんなに私だって気にしないよ。
中性的なのは、ハンジの魅力だし。
…でも、ハンジは女の子じゃない。
私は別にハンジが男でも女でも好きになったと思う」

「……うん」

「けど、ハンジは女の子なの。
何も知らない人に、普通の男女のカップルみたいに、見られるのは、嫌」

「…そっか」

「わからないの、何でそんなに嫌なのか」

「……気持ちは、わからなくはないよ。
私も、なまえが男扱いされたら嫌だよ。
たぶん、自分の好きな人を、誤解されたくないんじゃないかな。
上手く言えないけど、私たちがこうやって社会的にマイノリティなのに、恋をして、一緒に暮らして、結婚まで考えて…それって、私が私で、君が君だから、そうだったんだよ。
そのうちには、性別だって含まれてて、きっと他にも色々理由はあると思うんだけど、とにかく、私たちは、他でもない私たちだから、結ばれたんだよ」

「…難しいよ、ハンジ。
だめ、私わからない、…頭悪いから」

「だから悪くっても好きだって」

「…ねえ、ハンジは、何で私を選んだの」

「たぶんなまえがなまえだからだろうね」

「キザなセリフ言わないでよ」

「…まず最初は何となくかわいいなって思った。
次に、話が合って、一緒にいるのが楽しいなって思って、惚れた。
それで、付き合って…そしたら身体がすっげえエロくて惚れ直した!」

「ねえ、ハンジはどうして最後かっこよく終われないの…」

「いや、だってすげえエロいじゃん!
私がちょっと触るだけで声あげるし、すげえ濡れ…ぃってえ!
叩かないでよ!」

「馬鹿、相手がハンジだからそうなってるの」

「…あ、うん。今のぐっときた」

「……ハンジ、そろそろ時間じゃない?」

「ああ、そうだね、そろそろ向かおうか」



それから、ディナーに向かって、コース料理を食べて。

次にデザートだ、っていうときにウェイターさんが「婚約おめでとうございます」なんて言ってケーキを持ってきてくれて。

ああ、ハンジやりやがったな、なんて思って彼女を見やると、何と涙をぼろぼろ流していて。

「え、何泣いてるのっ!」

「わかんない…何これ……!」

「彼女と婚約した記念に、と電話口で言ってらしたので」

「…ウェイターさん、結婚しましょう」

「何、なまえ堂々不倫しようとしてるの!」

「…そっか。
結婚するんだから浮気じゃなくて不倫かあ…」

「感動しないでよ…っ」

「ハンジ、好き」

「私だって愛してるよ!!」

ウェイターさんがくすくす笑ってから拍手をしてくれて、そのあと他のお客さんまで拍手をしてくれて、私も一気に号泣してしまった。



二人で泣いてひどい顔のまま電車に乗り込んで、家に帰って、ハンジが鍵を開けて、ドアに手をかけたところで、私を見た。

「……なまえ」

「なあに」

「今日は、いい人にばっかりあった」

「…そうだね」

「でも、絶対こんなのもうないよ。
世界は残酷だ、絶対に今後、私たちが夫婦として暮らしていくなかで、たくさん困難があるよ」

「……うん」

「心ないことを言ってくる人もいるだろう」

「…うん」

「でも、私は君を離さないからね」

「……もちろん、私も、離れない」

「…よし!」

ハンジが一気にドアを開ける。

「ただいま、なまえ!」

「ただいま、ハンジ」

今、私はとても幸せだ。

もうこんな運のいい日は二度とないだろう。

けど、私は大好きな人と一緒にいられて、幸せです。

「なまえ、ペニバンどっちがいい!?」

「…今、幸せ壊れたわ」



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