※現パロinやーぱん
※大学教授ハンジさん
※大体みんなドイツ人設定





「なまえ、ただいま!
酒呑もう、酒!」

「……は?
まだ夕方なんだけど。
っていうか、帰り早いね…」

「うん、今日文化祭準備で、5時完全撤収なんだって」

「教授も?」

「うん、完全に校内無人にするらしいよ。
もうちょっと研究してたかったんだけど……」

「っていうか、準備って金曜日じゃないの、普通。
今日、土曜日だけど」

「日曜日だけなんだって」

「不思議な大学だね…。
…で、何でお酒なの?」

「いや、なんとなく。
いいから、お酒呑もうよ。
公園行って、…ほら、ベンチとテーブルが一緒になったみたいなやつ!
あそこで呑もうよ!」

「……私、今夕飯作ってる最中なんだけど」

「何?」

「唐揚げ」

「ならちょうどいい!
タッパーにそれ詰めてさ、外で食べようよ。
たまには楽しいって」

「……まあ、いいけど。
じゃあ、はい。
これタッパーね、唐揚げもう揚がってるから、詰めてきて」

「はいよー」





同棲中の彼女と夜の公園で生と死を考えてみた







「たくさん買っちゃった」

「ハンジ、見た?あのコンビニの店員さんの顔。
すごい引いてたよ」

「えー、なんで」

「ハンジがお酒買いすぎるから」

「いいじゃない、お金はあるんだから」

「……まあ、ハンジのお金だから、どう使おうと文句言わないけどね」

ちょっと歩いて誰もいない公園まで来て、買い漁ったたくさんのお酒を木のテーブルに広げる。

ちょこんと唐揚げと、あと申し訳程度に買ったおつまみも一緒に置いて。

「なまえ、かんぱーい」

「乾杯、ハンジ」

適当にお酒をとって、こつんと缶をぶつけて、一気に飲み干す。

ぷはぁ、なんて二人で言って、思わず顔を合わせて笑った。

「……なんかさあ、なまえ」

「何?」

「死にたくなったんだ」

「…はあ?」

「あはは、心底意味わからない、って感じの顔してるね!」

「わかんないよ、ハンジはそんなことそうそう言うタイプじゃないし」

「うん、私も柄じゃないなあって思ったよ。
それに、別に本当に命を捨てたいわけじゃない。
けど、あの気持ちを一番表してくれる言葉は…やっぱり死にたくなる、だった」

「…意味わからない」

ちびちびと親父みたいにお酒を呑んで、唐揚げを口にするハンジの横顔が、なんとなく青白く頼りなく見えた。

「私たちの関係って、何」

「……恋人」

「夫婦じゃないの」

「まあ、結婚してるも同然だと思ってるけど」

「……でも、恋人」

「日本でもドイツでも、同性婚はできないからね」

「いや、ドイツはできるよ」

「え?嘘、確か認められてないよ」

「うん、一応同性婚はできないんだけど、それに準ずるような権利というかがもらえるんだよね、確か」

「確かって…自分の国のことじゃない」

「法律はよくわからないよ。
私、日本が長いし」

「そうだね…」

「そもそも、私は日本に骨を埋めるくらいの気持ちできたんだ。
この若さでこんな破格の扱いをしてくれる大学、ここ以外にはないから。
かなり珍しいパターンみたいだけど」

「確かに、そうだよね。給料すごいし」

「というか、研究費全部大学持ちってのがありがたい」

「…ハンジは有り金全部研究に使っちゃうもんね」

「給料これだけもらえても、研究費もらえないんじゃあ、今頃私は貧乏生活だよ」

「なら、確かに今の大学で働いてるのがいいかもね」

「……なまえのことも養えるし」

「いざとなれば貧乏生活でもいいよ?ハンジがいれば」

「言うね。久々に照れた」

「真顔で何言ってんの」

夕空というか夜空というかを見ながら、二人でお酒をちびちびと飲む。

どちらともなく寄り添って……なんとなく空を見上げる。

「もしさ」

「ん…?」

ハンジがぐいっと私の肩を引き寄せてきた。

私もろくに抵抗もせずに引っ張られて、彼女の肩に頭を乗せる。

「一緒にドイツ来てよ、って言ったら、来てくれる?」

「……」

一瞬、考える。

「行く、よ」

「……無理してない?」

「してる。親にも反対されるだろうし、仕事もやめなきゃだろうし。
でもハンジと離れる方がもっと無理」

「そっか」

「ホームシックにでもなった?」

「いや…本当は、あんまり祖国に帰りたくはない」

「国が嫌いなの?」

「いや、ドイツ自体はすごくいい国だよ。
けど…要は日本好きの日本人が実家に帰りたくない、って言ってるのと同じだよ。
私はちょうど、そんな感じの帰りたくない理由を持ってる」

「ふーん」

「興味なさげだね」

「ハンジが言いたくなさそうだから」

「うん…そうだね。
またあとで、言うよ」

「うん」

「……なまえ、私もあなたとは離れられない」

「何、いきなり」

「…学生にさ、聞かれたんだ。
実直で、喧嘩っ早いけどいい子でね、その子に教授は結婚しないんですかって」

「…はあ」

「なんでそんなこと聞くのか聞いたらさ、この前女の人と歩いてるの見た、あれは絶対恋人だと思った、って。
……鈍感すぎるって有名なくせに、何気付いてるんだよって思ったけど」

「鈍感なんだ、漫画の主人公みたい」

「まあ、正義感は異常に強いね。
そんな彼にさ、私女だけどって言ったら、知ってますけど、だって。
さすがに参ったよ」

「…すごい子だね。
なんか、さすがハンジの生徒って感じ」

「ん?いや、彼は生物学科じゃないよ、理学部でもない」

「え?じゃあ何学部なの?」

「医学部」

「え、すごい!」

「しかもイケメン、お父様も医者、背も…うん、リヴァイよりは高いよ!」

「何それ、今度合コンセッティングしてよ。
友達連れていくから」

「残念、彼にはかわいい幼なじみが二人もくっついてるから」

「……二股?」

「いや、一人は男。
もう一人には片想いされてるけど、気付いてないね」

「ああ、鈍感…」

「まあ、とにかくそんな彼になぜ結婚しないのか、ってまっすぐに聞かれたんだ。
そのときは、同性婚は無理だし、私たちは幸せだからいいんだって、言ったんだけど……」

「……うん、幸せだよ」

「…私も、幸せだけど。
なんだけど、今日帰りにさ、こことは別の公園で、こんなふうにさ、お酒飲んで幸せそうに笑ってる、40代から50代くらいの夫婦がいてね、その二人を見ていたら……」

「……死にたくなった?」

「そう、死にたくなった」

ぎゅうっと肩を抱き締められる。

ハンジが寄りかかってる私の頭に頭を乗せてきた。

「ハンジ、昨日頭洗った?」

「…忘れた」

「汚いー」

ぐいぐいと下から彼女の頭を押す。

痛い痛いなんて言ってるけど気にしない、不潔なあなたが悪い。

「お風呂にろくに入らない女の子でもいい、なんて言うの、私くらいだよ」

「いてもname#以外選ばないよ」

「…やめてよ、照れる」

「照れてもかわいいよ。
……っと、まあ、そんな二人を見ていたら、色々考えちゃったんだ。
今きっと、やっと子供が手を離れて、老後のことでも考えてるのかなあ、とか」

「ふーん…なんか、いいね」

「でしょう。
……だから、私もやりたくなった」

「意外と影響受けやすい?」

「どうだろう。
でも、選んで影響を受けているつもりだよ」

「…そうだね、私と違ってハンジは頭いいし」

「頭悪くても好きだって」

「いや、それでもはっきり悪いって言わないでよ」

「ごめんごめん。
…ねえ、なまえ」

「何?」

「結婚しよう」

「……は?」

ばっ、と起き上がる。

その際に乗せられていたハンジの頭も投げ飛ばすようになってしまったけれど、やはり気にしない。

「いってぇ!」

「…何、いきなり何」

「だからさ、結婚しようよ」

「……え、え?」

「まあ、法的には無理だけど、もっと働いて、最悪働かなくてもいいくらい稼げたら、ドイツに移住して、本当に結婚してもいいかも」

「…ハンジっ!」

「嫌?」

「まさか…!」

幸せすぎるの。

私が涙を溢したのと同時に、ハンジに抱き締められる。

「明日、指輪買いにいこう」

「……すっごい高いの買わせてやる」

「いいよ、給料三年分とかでも」

「嘘、安くていい。
その代わり老後に備えよう」

「うん、そうしよう。
でも、給料三ヶ月分は最低でもかけたいな、記念の指輪だし。
……部屋も見に行こうよ、子供ができたときのために」

「……子供?
嫌だよ、私精子提供で妊娠とかは」

「え?そう?
まあ、私もそれはやる気ないけど」

「そうなの?じゃあ養子?」

「うん、それがいいかなって」

「なら、部屋の前に孤児院とかじゃないかな」

「そうだね。
二人の子、として役場に提出できないのは悲しいけど、二人で一人ずつ引き取ろうよ。
……私たちのこと、理解してくれる子を」

「どういうこと?」

「まだそういうことよくわからない年齢の子を引き取ったらさ、将来いじめとかに合うかもしれないし、何だか…エゴな気がする」

「……いじめる社会のが悪いよ」

「そりゃその通りだ。
でも、子供は残酷だよ、イレギュラーは排除される。
まあ、エゴだなんだといってしまったら、極論としては子供がほしいと思うことがエゴになってしまうから、突き詰めるのはやめておくけど。
だから、せめて私たちを理解して、それでもいい、一緒に戦ってやる!って思ってくれる子が、いいかなって」

「…そうだね、そんな子がいたらいいね。
ちょっと理想論な気もするけど」

「理想は高くないとね」

「そうだね」

もうすっかり冷えてしまった唐揚げを口に放り込んで、酒を煽る。

「そんな子がいなかったら、そのときはそれが運命だったんだよ。
私たちには子供ができない運命だった。
それはそれでいいかもね、ずっとなまえを独占していられる」

「…そうだね、それもいいかも。
私もハンジを独占したいし」

「なまえ、キスして」

「ん」

ちゅっと唇を合わせる。

「…好きだなあ、ハンジのこと」

「私もなまえのこと好きだけど、いきなりどうしたの」

「……月が綺麗」

「え、嫌だよ風流だけどさ、はっきり言ってほしい」

「え?…あ、そ、そんな意味で言ったんじゃないよ。
ただ単純に、綺麗だなって」

「もう、結構暗くなっちゃったね」

「…ハンジ、月が綺麗だね」

「……もう死んでもいい、って?」

「うん。
……なんで愛してて死にたいのって思ってたけど、こういう気分なのかも」

「うん、別に本当に死にたいわけじゃないっていうかさ、まあ、昔の偉い人が何を考えてこんな言葉を残したのかは、わからないけどさあ」

「…ハンジがわからないなら、私はもっとわからないよ。
頭悪いから」

「…拗ねてるの?根に持ってるでしょ」

「別にー?」

「愛してるよ、なまえ」

「彼氏できたての女子高生じゃないんだから、そんなのでほだされないよ」

「私のこと、愛してないの?」

「……愛してるよ」

「あは、ありがとう」

ぐいぐいとハンジがお酒を飲み進める。

顔に赤みがさしてきた気がする。

「飲みすぎじゃない?」

「大丈夫、二日酔いでも指輪は見に行くから。
ただ、移動は電車がいいかな」

「私が運転してもいいけど」

「なまえだってそこそこ飲んでるから、危ないって」

「そっか」

「……なまえ」

「なあに」

「結婚式、どうしようか」

「探せば、あるんじゃない?
同性でもやってくれる式場」

「なまえのウェディングドレスかあ…。
普段使わないお金が飛んでいくね」

「あと、ハンジのドレスもね」

「…え、私は着ないよ。
タキシードでいいって」

「え、何馬鹿言ってるの、ハンジもドレスだよ。
女の子なんだから」

「…似合わないって」

「ねえ、顔赤いけど照れてる?」

「……酔ってるんだよ」

「かーわいい!」

「からかわないで…」

珍しく女の子らしいハンジを見ると、いとおしさが込み上げてきた。

「私はハンジの男らしいところは好きだけど、別に男であってほしいとは思ってないし、やっぱり女性としての喜びみたいなのも、享受してほしいな、なんて…」

「なまえ、大好き!」

ハンジがぎゅうっと抱きついてくる。

いつもとは逆で、ちょっと楽しい。

「……なまえ、あのね」

「なあに」

ハンジの頭を撫でながら、首を傾げる。

「この前ネットで双頭バイブ買ったんだよね」

「は…?
…っえ、何でこのタイミングで言ったの、馬鹿!」

「痛ぇ!」

ばしん、と抱きつく彼女の頭を叩いてやる。

痛い?自業自得だよ。

「たぶん今日辺り着いたと思うんだよね。
今頃宅配ボックスで私たちを待ってるんじゃないかな」

「馬鹿じゃないの!」

「何でそんなに怒るのさ」

「せっかくいい感じの雰囲気だったのに…」

「いや、なまえが私にも女としての喜びを…とかいうから」

「そういうことを言ったんじゃない!」

「いいじゃん、シようよセッーー」

「大声で言うな!」

「ふがっ」

ハンジの口を手で塞いでやる。

当たり前だ、そんな言わせてたまるか。

「…でもさ、いいじゃん。
シようよ、ねえ。
早く唐揚げ食べちゃってさ、残ったお酒は持って帰って、……シよ」

「…いい、けど」

「やった!」

たぶん、私の顔は真っ赤だったと思う。

さっきまでふざけていたくせに、いきなり真剣な顔してくるから。

……まあ、言ってることは一緒なんだけど。

なまえとヤるぞ〜♪なんてデリカシーの欠片もない歌を歌いながら口の開いた缶を空けていくハンジにいらっとして、彼女の口に唐揚げを無理やり突っ込んでやった。

ふがふがと苦しそうにしているハンジを横目に、やっぱり明日はびっくりするほど高い指輪を買わせてやろうと思った。






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