「ちっせぇなあ〜〜モブ!おま、もちっと鍛えろよ!」


「……毎日腹筋80回、腕立て伏せ50回、スクワット100回。やってます。」

「まじ?オーマイゴッド!」


仗助くんが小学生の頃のジャージ。それでも袖やズボンの裾が余る。鍛えろと言われてせめてもの抵抗で肉改部に入っていることを伝えたけれど、結局体に成果は現れていないので無駄な足掻きとなった。

ふとあの制服を脱いで、ジャージ姿の仗助くんを見上げると、高校二年生にしてずいぶん背が高いと改めて思った。180cmは軽く超えてる?体も鍛えてるようで、とてもスタイルがいい。



「…仗助くんは、背も高いし、お洒落だし、すごくいい奴だ。きっと友達も多くて、モテるんだろうなあ。」



思ったことを素直に口に出してみれば、仗助くんはきょとんとした後に「くせーこと言うなよ!照れるだろーが」と嫌そうに少し顔を赤くしていた。


「なに、お前モテてーの?」

「はい。そりゃあ。すごく。あ、でも、モテるのは好きな子だけでいいです。」


「お!その意見には俺も同感だぜ。マジに好きな子一人からモテてーよなァ」


「……仗助くん、好きな子いるの?」


「そういうお前はどうなんだよモブ。」



夕飯はカレーだった。仗助くんの、美人で元気なお母さんが食べ盛りだからと皿に山盛り持ってくれた。うちの味とは違うカレーライス。おばさんは「来るのがわかってたらもっといいもの作ったのに」と仗助くんに不満そうな顔を向けていた。それでも、こっちのカレーもとても美味しかった。


「います。高嶺ツボミちゃんって言うんです。小学生からの幼なじみで、すごくかわいい。」


「へえ、どんな子?」

「すごくかわいい。」


「他には?」

「…え?」



そう、ツボミちゃんはすごくかわいい。小さい頃から、すごくかわいいんだ。でも、他にはってなんだ?


「…ええと、……他に?」

「ねーの?」


「…………」



「ま、いーや。俺もいるぜ。好きな女性。」



仗助くんの好きな人。すごく気になる。でも、仗助くんの問いに何も答えが浮かばなかった自分自身がもっと気になる。確かに僕はツボミちゃんが好きで、昔からずっと好きで。彼女は凛として強くて、言動も僕と違ってハッキリしてて。彼女を見てると憧れて、優しくて、楽しい気持ちになる。


「その女性は、最初はなんの変哲もない、ただの知り合いのオネーサンって感じだったんだが、ある時見方が一変した。」


「あるスタンド使いとの戦いの中で、彼女は全身ボロボロになって、手も顔も傷だらけで、それでも自分の信念や、自分の大切な人や、この町を守るために戦った。そんで、戦いが終わった後、駆けつけた俺にこう言ったんだ。」



『ありがとう。君がいるから戦えた。』



そう言うと、彼の背後からはブルーと、ピンクの、どこかダイヤモンドを思わせるシルエットのーースタンド、が顔を出した。スタンドは僕の手のひらにそっと触れると、砕けたアスファルトでボコボコになった傷がみるみるうちに治癒していった。そういえば話に夢中で怪我を治すのを忘れていた。

彼のスタンドは、治す能力。奇しくも、僕の世界のナマエさんとおんなじだ。



「スゲーつえー人だと思ったよ。俺がいたって、もし命を失えばそれは戻ってこない。いつ来るかもわからない仲間を信じて、たった一人で戦ったんだ。極々フツーの、大学生のオネーサンだと思ってたのによ。」


「………。」


「でも、俺が彼女の魅力に気づくのはチコーーッと遅かったってな。ムカツクことに、彼女は俺の大嫌いな男に惹かれてるみてーだ。本人に自覚があんのかわかんねーけどな。」



一通り話終わると仗助くんはベッドに横になった。僕は彼の部屋に布団を借りて敷いている。



「仗助くんでも、片思いとかするんだね」


『あたりめーだろ。まあ、チャンスがあればかっさらってやりますよ。」


「……嫉妬とか、する?」


「もちろん。」


「……自分で自分がわからない時がある。ツボミちゃんを見るのとは違う、彼女を見てると何か、嫉妬や、独占欲や、猜疑心や…。僕の中で蓋をしていた感情が爆発しそうになる。」


「もちろん楽しい気持ちもある。笑ったり、冗談を言ったり、彼女と過ごす時間は心地いい。それって、僕のツボミちゃんに対する気持ちと、どうちがうの…?」


ずっと胸の中に溜まっていた、黒いドロドロと渦巻いた感じをぶちまけた。人に超能力を向けてはいけない。人を傷つけてはいけない。僕の嫉妬や負の感情は時にコントロールできなくなる。心穏やかでない感情には蓋をするべきだ。だから、僕の彼女に、ナマエさんに対する感情もきっとーーよくないもの。


「どっちも同じだろ。憧れも、嫉妬も、同時に存在するもんだ。それが極端な人間がいるってだけでよォ。花を綺麗だと愛でるだけじゃあ物足りないと感じることもあるだろう。嫉妬も、独占欲も、相手を守りたいって気持ちがどこかにあるなら、何も悪くねーんじゃねーか。」


しかめっ面の僕に、呆れた苦笑いで言う仗助くん。「ま、俺もよくわかんねーけど。」とわざと無責任なことを言って布団に潜り込んだ。



「そろそろ電気消すぞー。エクボは?」


「下でテレビ見てる。というか、仗助くんのお母さんを見てる。」


「あんのクソ悪霊…。」


「大丈夫。何もしないと思うよ。すれば僕がすぐに除霊するから」



「ずいぶん頼もしーなァオイ。」




コチコチと時計の針の音が響く。僕も布団に潜って、部屋のあちこちに貼ってある外国の歌手のポスターを見上げた。ぷりんす、と書いてあるんだろうか。なんだか仗助くんに似てる。少し中性的で、魅了的でカッコイイ。でもそんな人も、僕と同じように悩んだりするんだ。


それ以上何も考える暇がないほど、その日はすとんと眠りに落ちた。明日からはいよいよ、連続失踪事件の犯人を探しに行く。



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