「事の発端は約一週間前。ぶどうヶ丘大学、文学部、三年の女子生徒が行方不明になったことだった。」


「初めは家出扱い、大学生にもなればまあ珍しいことでもない、ただ、この一週間でだ。最初の女子生徒含め5人の行方不明者が出てる。それもぶどうヶ丘大学のみでだ。」


「ニュースでは家出やカルトサークルなんかに引っかかったりだとか、そこまで事件性のある報道の仕方はしてないけどよ、仮に“ぶどうヶ丘大学のみ”で5人だとして、他の関連づけてねえ事件も同一犯の可能性あるよなあ」


「仗助くんはやっぱり事件だと思ってるんだね。それも、吉良吉影のようなスタンド使いの。」


「…まあ、確固たる証拠があるわけではないけどよぉ…。年齢も学部もバラバラ。悩み事や、事件に巻き込まれる要素もない…、血痕や争った形跡もない。部屋はこないだまで生活していた様子で、ある日忽然と姿を消した…。ですよね、ナマエさん。」



「うん。行方不明の生徒と親しい子や、顧問の先生に聞いたりしたけど、ある子の部屋にはその晩炊く予定だった米が炊飯器にセットされてたようだよ。普通しないよねえ、もし家出や自殺を考えてたら」



みんなが口々に情報を提示し合う。ナマエさんなんかは、この事件の発端であるぶどうヶ丘大学に通っているらしい。



「実は俺、この事件を聞いてから承太郎さんに連絡したんす。んで、アンジェロの時のように親父にこの町を念写してもらいました。そのFAXがさっき届いたんですが…。」



承太郎さん、親父、念写。また新たなワードがたくさん出てきて混乱するけど、どうやら仗助くんが見せたその紙は犯人への重要な手がかりらしい。みんなしてそれを覗き込む。するとそこには、一面が中央で白と黒に分かれたポラロイド写真が印刷されていた。



「どういう意味すかね、これ…」


「…スタンドかあ?アンジェロの時は、奴の顔とスタンドが一緒に写ってたよなあ」


「承太郎さん曰く、ジジイのスタンドエネルギーも年々衰えてきてるそうだ。体調によっても変化するらしい。それが影響してるのかどうからわからねーですが、それにしても、こんな念写は初めて見ると言ってました。」



「………。」





暫く全員でこのポラロイド写真を囲み思案していたけど、思い出したように手のひらを拳でポン、と叩いて、僕に期待の眼差しを向けて行った。


「ねえ、モブくん君超能力者なんだよね。スプーンを曲げるのも、サイコキネシスも、透視能力もあるって言ってたよね?」


「まじかよ羨ましいィィイ!!」


どんな意図があって言ったのかはわからないけど、とにかく億泰くんが羨ましがっていた。その様子を由花子さんやナマエさんが冷たい眼差しで見ている。


「なら、この写真を使って犯人の居場所を突き止めることはできないかな!?なんだっけ、ホラ、ドラマや映画にもなってた……」

「サイコメトリー、ってやつかい、康一くん」

「あっ、そう!それです!サイコメトリー!」


みんなの期待の視線が向けられる。チラリとエクボを見ると、やれやれというジェスチャーをされた。そして僕の代わりに喋りだす。


「あのなあ、サイコメトリーってやつはその物の持ち主の残留思念ってやつから感情や、状況や、居場所なんかを探る訳でだな、そんなコピーした紙っきれ一枚じゃさすがのシゲオもお手上げだぜぇ」


そうなのだ。ドラマや映画の影響で物に触れるとなんでもわかるようなイメージだが、本人の特に思い入れのある物や、強い感情が移ったものでないと読み取れないことがほとんどなのだ。

んだよ、ちぇーー。みんなの(特に億泰くんの)がっかりした反応が痛い。そんな空気の中、またもあっけらかんとした声が響く。



「私、行方不明の子の私物、いくつか持ってる。」



手を上げてそう言ったナマエさんは肩から下げた大きなカバンを床に置いてゴソゴソを中を調べはじめた。邪魔だったのだろう、大きなスケッチブックや絵具などの画材が放り出された。そして最後に出てきたビニール袋。中には小物がいくつかはいっている。それを袋ごと渡された。


「すげえ!なんで持ってんすか」

「行方不明者の一人が私と同じ美術部員だったの。失踪の前日、部室に残って絵を書いてたって言うから…その絵を写真に撮ったり、使ってた筆とかを借りてきたの…。何か役立つかと思って…」


袋を開けると、彼女の言った通り筆が数本と絵具、様々な色が載ったままのパレットが入っていた。それから、その女子生徒が失踪直前まで描いていたという絵の写真を見せてもらった。

僕は袋から一本の筆を取り出して握る。みんなはその様子をじっと見つめた。


「……。」


一本目。何も感じない。二本目、三本目、四本目。絵具。パレット。一つずつ触れていくけれど、どれも女子生徒の残留思念は残っていなかった。


「……すいません、何もわかりません。」


「そっか……。」



「…なあ、この絵、カメリアがないな。」



「カメリア?」


「この絵、女子生徒が直前まで描いていたものなんだよな?絵筆や、パレットにもこのカメリアーーピンク色が残っているのに、絵には一切使われてない。まあ、他の絵に使ってそのまま置いてた可能性もあるが…何か妙じゃないか?」


露伴先生が言って、全員ナマエさんの携帯電話の画面を覗き込む。確かにそこにはコバルト、群青、ターコイズ、などの青とグリーンを基調にした抽象画が描かれている。しかしその中心はどこか不自然にキャンバスの白が残っており、まるで…



「……ここだけ、分離したみたいだ。」



水と油が弾き合うように、混ざり合うことなく、きっぱりと互いを分ける。その絵にはそんな風情があった。


「…うーん、」


「とりあえず、明日もう一度調べてみよう。女子生徒たちの下宿先や、アルバイト先なんかも。モブくんは私と大学内を調べよう。」


「じゃあ僕は由花子さんと聞き込みに行きます。女性がいた方が話しやすいだろうし…。行方不明者の住所とか貰えますか?」

「わかった。露伴先生はーー…エクボと、関連する記事や事件がないか調べてもらえますか?得意ですよね、取材。」


「…なんで僕がこの妙なのと…」

「オイ、ナマエ。俺様は眉間にシワ寄せた気難しそーな男は苦手なんだよ。俺様もシゲオと行くぜ。」


「ダメだよー。君は何か発見した時すぐに知らせに行く役目なんだから。露伴先生のスタンド、遠距離型じゃあないし。」

「…チェッ、わーったよ、」

「フン」


なんだか出会ったばかりの師匠とエクボを見ているようだ。なんとなく露伴先生は師匠と声も似てるし。ナマエさんに先生と呼ばれているところも一緒だ。


「んじゃあ俺は億泰と大学の生徒に話聞いてみますよ。あの大学えらい広いですしね。なんかあったら連絡ください。ミキタカ、お前も来るか?」


「いえ、僕は宇宙船から手掛かりを探してみます。こういう時は視野を広くしないといけませんしね。」


「わかった。じゃあ仗助くんと億泰くんは別館のC棟の方からお願い。私たちは本館から始める。」

「おう。」

「うす。玉美や間田やトニオさんなんかにも声かけてるんで、何かあったら連絡来ると思いますよ。」

「ほんと。助かる。ありがと。」


それぞれの間で話が進んでいく。康一くんと由花子さん、エクボと露伴先生。仗助くんと億泰くん。ミキタカくん。そしてこっちの世界のナマエさんと僕。


「…カメリア、って言うんですね。全部同じピンク色だと思ってました。」

「うん、綺麗な色でしょ。露伴先生がよく好んで使う色なんだ。だから一番に気づいたんじゃないかな?」


「……好きなんですね、」

「…ん?」


「この色。」


「……そうだね。」


みんなが口々に明日の行動計画を立てる中、ナマエさんと僕は携帯電話の中の、小さな画像を見ていた。絵のことはよくわからないけれど、このブルーのキャンバスの中央に、“カメリア”が存在したのなら、それはきっと今にも増して綺麗なのだろう。

僕の世界の彼女はこの色が好きなのだろうか。そういえば訊ねたことがないなと考えて、今隣にいる人に訊ねても本当の答えが返ってくることはないのだと知る。



「…そろそろ日が暮れてきたね、モブくん、泊まるところはあるの?」



ナマエさんの質問に、みんなの視線がそれとなくこちらを向く。そういえば。泊まるところ。全く考えていなかった。というか、家族に連絡も入れてないし、携帯は圏外だし、師匠とナマエさんを驚かせたままだし、夏休みの宿題が終わってなければ、今夜食べるはずのスイカもこの胃に入ることはないのだと今更ながらに思った。


「……ああ、えっと、全く、全然……なにも、考えてませんでした。」



そう言うと、みんな一瞬きょとんとして、それから億泰くんの大きな笑い声が響いた。康一くんもケラケラ笑っている。仗助くんも、オイオイと言いながら肩を軽く叩かれた。


「おま、ほんと考えなしに来たんだな。つーか本当に今気づきましたって顔してたべ。」

「はい。ほんと。今の今気づきました。でも、あの、僕お小遣い月1000円で、バイト代はさっき師匠から貰ったばかりなんですけど、300円で、その、400円しかなくて………」


「ぶふっ、」


「全財産400円で異世界来るってすごい度胸だね!!!」

「呆れを通り越して尊敬するな。」

「近所の亀友デパートの最低賃金は890円だと聞きましたが、それには随分足りない時給のようですが」


「そいうの、なんて言うんだっけ、違法労働?しかも中学生ってバイトできないよね?」


「雇い主訴えた方がいいわよ、あんた」



なんだかすごく笑われて、情ないやら、恥ずかしいやらで。とりあえず霊とか相談所はこちらの世界でもブラック企業認定ということは確かだった。



「んじゃあモブ、今日は俺んとこ来い!露伴先生は仕事があるし、億泰は…まあ、家庭の事情でちょっと難しいかな。康一ん家はねーちゃんいるし、ミキタカは家っつーか宇宙船?誰も見たことねーしな。」


「今150万キロ上空に停めてありますよ。ここに着陸させるにはおよそ三日ほど必要ですが、呼びましょうか?」

「あー、いい。いい。今度で。」


ミキタカくんが腕時計に手を伸ばすのを仗助くんが軽くあしらうように止めていた。あの腕時計で呼ぶのだろうか。宇宙船、って本当にあるのかな。見てみたい気もするけど、みんなどうやらあまり本気にしてないみたい。


「…仗助くん、本当にお邪魔していいの?」

「おう!お袋も構わねーって言うと思うぜ!エクボもな。」

「…どうも、ありがとう…!」

「サンキュー仗助〜」


見た目は大柄で少し強面だけど、頼れる兄貴みたいで、すごく優しい人だ。僕とエクボは仗助くんの好意に甘えて彼の家に泊まることになった。露伴先生の部屋の(ここはおそらくリビング)、大きく開放的な両開きの窓から、本日二回目の夕陽が沈むのが見える。僕がここ、杜王町で過ごす最初の夜が訪れようとしていた。



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