わりとすぐに車は目的地に着いた。
車から降ろされた頃にはすっかり日は沈み、あたりは真っ暗だった。バタン!と大きな音を立てて閉まった車の扉の音が妙にあたりに響く。

その音に反応してか、どこかでバササッ!と鳥が飛び立った音がした。それにびくりと肩を震わせる。ここは、一体どこなんだ。何か人気のない、陰鬱とした雰囲気は感じるけれど。


「……途中、車をつけてきているタクシーがおりましたので撒いてきました。なので、到着が少し遅れましたことをお詫び申し上げます……」



「そうか。まあ、いい。運転ご苦労さま」


そう言っていかつい見た目とは反して丁寧な言葉を発する運転手は赤坂くんの使用人か何かだろうか。それだけ言うと運転手はさっさと車の中に戻ってしまった。
それを見届けた赤坂くんは「さ、行こうか。」とそれだけ言って歩き出す。私はまさかこんな場所で1人取り残されてはたまらない、と仕方なくその後をついていく。それにしても、さっきの運転手が言っていたつけてきたタクシー、とは何だったのだろう。まるで映画みたいだ。


「……ね、ねえ。ここどこ?これから何するの…?」

「大丈夫だって。何も怖がることないさ。何たって君は超能力者なんだからね。特別な力を持ってる、君は無敵さ」

「……」


あくまで私の力を過信する赤坂くんにどこか痛々しさを感じた。まるで、自分自身に言い聞かせるような言葉は、何かに縋りたい追い込まれた人間の言葉のように思えた。まるで、宗教に盲信的になる人間のように。


そうしてしばらく人気のない森のような場所を歩くと、そこにはじわ、と冷たい汗が滲むような、鬱屈とした霊気を感じる建物があった。

それを見た瞬間、思わず身震いする。壁は薄汚れ、ガラスはところどころ割られ、荒れ果てたそこ。そこには明らかにこの世の者じゃないやつらが、うじゃうじゃと集まっている気配がした。5月も末頃の夜とはいえ、普段では考えられない冷たい空気が肌をなでる。

そこは、恐らく廃病院だった。



「……ま、まさかここに……」



「ナマエ!!!」


私が小さな声で訊ねようとしたところ、逆に大きな声で名前を呼ばれて驚いたようにその方向を見る。
すると、そこにはこちらに駆け寄るハルとアンナの姿があった。思わず目を見開くと必死に走ってきた2人はガバッ!!と私に抱きついた。私も2人が無事だったことに安心して少し涙が滲む。


「……ごめん!!ごめんね……!!!私たちのせいで、ナマエまで、こんなことに巻き込まれて……!!!」

「ううん、私のせいだよ。怖い思いさせて、ほんとにごめん……もう、大丈夫だからね」


何度も謝って涙を流すハルとアンナに、なんとか安心させようと背中をさすりなだめる。そんな様子をみていた赤坂くんとふいに目が合った。

2人にこんな思いをさせて、本当に許さない。そんな気持ちが再び表情に出て赤坂くんを睨みつける。するとおどけたように笑って言って見せた。


「まぁた怖い顔しちゃって〜。大丈夫だって、彼女たちにはちゃんと頼もしい護衛をつけてたからさ」


そう言った赤坂くんの言葉に闇の中から新たに男が4人ほど現れた。

見るからにいかつい奴や、軟派そうな男。色々いるけどみんな一様に言えるのはどいつもこいつもタチが悪そうな奴だということ。2人に触れる手に力がこもる。


「……ハル、アンナ……こいつらに何もされなかった?」

「オイオイ人聞き悪ィこと言うなァこの女〜〜」

「俺たちはか弱いカワイイ女の子を守ってあげてただけだぜ〜〜??むしろ感謝されるべきだよなああ???」

「なァオイ、んなシケたツラで睨んでんじゃねえよ。ぶち犯すぞ」


「っ、」


睨みつける私の表情が気に食わなかったのか、男たちは下品な言葉を吐きながら近づいてくるとグイッッ!!と私の制服の胸ぐらを掴みあげ、至近距離で威嚇してくる。

殴られるかもしれない。でも、こんな奴らにビビってへこへこ気前のいい言葉ばっか並べるなんて御免だ。そう思った私はガン飛ばすのを止めなかった。誰かが聞いたら馬鹿だって呆れるかもしれない。でも、私だって大切な親友を危険な目に合わされて、怒ってるんだ。ここで易々引き下がる訳にはいかない。

そんな私にひとつ舌打ちをした男が拳を振りかざす。背後では必死に止めにかかるハルとアンナの声。私は覚悟してぎゅっ!と目を瞑った。けれど、



「……オイ。彼女と、彼女の大切な人には手ぇ出すな。言ったよな?お前らは俺の言うことだけ聞けって」



いつまで経ってもおとずれない痛みにそっと目を開くと、男の拳を背後で止める赤坂くんの姿があった。私は予想外のことに驚いて今度は閉じていた目を大きく見開いてしまう。

それに、赤坂くんが言ったのはさっき私とした約束の言葉。彼は以外にもその言葉を覚えていて、更にそれを守ろうとしている。

本当によくわからない奴だ。けれど、とにかく助かった。呆然とする私を慌ててハルとアンナが男から引き離し、口々に心配の言葉をかける。


「……チッ!!てめえなんざこの仕事が終わりゃあボッコボコにしてやる。金さえもらえりゃ、てめえなんざ……」

「……」


吐き捨てるように言った男は睨みを聞かせながら男たちの方へ戻る。とりあえず、騒ぎが収まったところで問題は目の前の廃病院だ。

再びおとずれた沈黙に不穏な風の音だけがあたりに響く。



「……じゃあ、一息ついたところでこれから肝試しを始めようと思いまーーーす!!!ドンドンパフパフーー!
!」


「……」


「……ケッ、」


「……」

「あれー!?みんなテンション低いよ!?もっと盛り上がっていこーー!!おーーー!!!」

「……」



1人だけハイテンションでそう言う赤坂くんにこいつ友達いないだろうな……と思う。
みんなが白けた視線を向ける中、しかし当の赤坂くんは真面目だ。真剣に、この廃病院で肝試しを実行しようとしている。その事実にごくりと生唾を飲む。そんなことをすれば、絶対にヤバイことが起きるに決まってる。例え私が除霊できるとしても、あの病院の雰囲気は……


「……赤坂くん。真剣に言うけどやめた方がいい。あの病院は本物の心霊スポットだ。面白半分で入ったら大変なことになる」

「何言ってんの?そんなのミョウジさんがいれば平気だろ?あの時みたいに俺にすごいもの見せてよ!!できるだろ!?」

「……」

「な、なんの話してんのナマエ……私たち肝試しに行くの?あそこ、そんなにヤバイ心霊スポットなの……?」

「オイオイ、幽霊だ心霊スポットだんなのあるワケねーだろーが!!グダグダ言ってねーでさっさと済ましちまおーぜ」



みんな口々に好き勝手なことを言ってはさっさと病院の方へ向かっていってしまう。私はいまいち説得し切れない自分にヤキモキすると共に、本当に肝試しに行って除霊するとして、ハルやアンナの前で超能力を使うことになることを考えた。

今まで明かさなければと思いつつ隠してきた能力。それがこんな形で2人にバレてしまう。そんなジレンマを抱えつつも、男たちは自分勝手にさっさと病院の中へと入ってしまう。

あんな奴らでも、見殺しにはできない。でも、みんなを危険に晒すこともできない……。



「……さあ、どうする?」



そんな私の心中を知ってるかのように悪魔の選択を迫る赤坂くん。そんなの、私がYESと答えること前提の質問じゃあないか、とやっぱり彼のことを睨む。けれど、そんなことをしても現状は変わらないし、誰かが助けに来てくれることもない。

私はまたちらりとポケットの中のスマホに目を移したけど、すぐに視線を眼前の廃病院へと移した。



「……わかった。行くよ」



そう言った私に赤坂くんはとても爽やかな笑みを浮かべて、満足そうに頷いた。

私がやるしかないんだ。2人を守るには、私がやるしか。そう自分に言い聞かせるように心の中で決意して、一歩病院の方へ踏み出した。



















中に入ると外とは比べ物にならないほどの霊気を感じる。正直、今すぐ帰りたい。そう思うくらいにはヤバい雰囲気がひしひしと感じられた。

それなのに隣を嬉々として歩く赤坂くんにげんなりする。幽霊なんて信じねえ!とのたまっていた男たちですら、中に入った途端みな黙り込んでしまったというのに。それくらい、中は異様な雰囲気が立ち込めていた。



「なあ、なんかいる?」



能天気な問いかけに少し口をつぐむ。しかしすぐに怪訝そうな顔を向ける赤坂くんをはじめとした、ハルやアンナや男たちの視線に、「いや、」とだけ返した。

そんな私の答えにほっとしたようなハルとアンナにひきかえ、つまらなそうな赤坂くん。しかし、この中に私以外に霊感のある人間がいなくて本当に良かったと思う。


先頭に私、その隣に赤坂くん。周囲に男たちが適当に散らばっていて、背後には隠れるようにしてハルとアンナが歩いている。

私たちは赤坂くんに手渡された懐中電灯を片手に正面玄関から入って、右手奥にある階段へと歩を進めていた。

建物は外観から見て5階建てのようで、とりあえず1階から5階まで、上って降りて何もなければ赤坂くんも諦めるだろう。そう思って私たちは今、1階の廊下を歩いている。


けれど、もうすでに。



「……」



こつ、こつ、と数人分の足音がしんと静まり返った院内にこだまする。まだ夜の7時すぎだというのにあたりは深夜のようにとっぷりと暗闇で、そのせいか五感が妙に冴え渡る。

腐った天井から滴る雨漏りの音や、割れたガラス窓の向こうから聞こえる不穏な風の音。鼻をつく消毒液のにおい。肌を撫でる陰鬱とした湿った空気。それらがダイレクトに刺激となって私たちの恐怖心を煽った。


そんな中、ちらちらと照らす懐中電灯の明かりの先、そこにはうようよと闇にひしめくこの世のものではない者たち。平静を装っているが、通り過ぎる目と鼻の先、じっと私たちの横顔を観察する幽霊たちの群れがそこかしこに存在する。

見たところ低級な霊らしいが、それでもその数軽く数十体はいる。まだ、1階だけで。ごくりと生唾を飲み込む。



「つまんねー」



零感の人ほど心強く、恐ろしいものはない。

堂々と大きな声でそう言った赤坂くんにギョッとするも、しかしそれでも幽霊たちは襲ってくることはなかった。それにホッとするも、明らかな疑問を覚える。

外にいてまであれほど感じた強い霊気。それは中に入っても続いているが、それなのに何故こいつらは何も仕掛けてこないんだ?ただ、数が多いから邪気を感じていたのかだけなのか、それとも……


そんなことを考えつつ一先ず1階の端にたどり着いたので階段を上る。その先の踊り場にいる幽霊に注意しながら。

こうしているとさながらお化け屋敷に来た高校生男女のグループのようだが、そんな軽い気持ちで訪れて良い場所ではないことはたしかだ。

背後を歩くハルが不安感からから、ぎゅっ、と私のブレザーの裾を握った。



「……オイ、あれ……」



2階へ上がると、男の内の1人が呟くように言った。そして、懐中電灯で正面を照らし、その先を指さす。そこには、まるで囚人を収監する刑務所のような、太く頑丈そうな鉄格子が口を開けて私たちを待ち構えていた。

その不気味な様子に思わず足がすくむ。


「な、なにあれ……なんでこんなとこに鉄格子があるの……!?ここ、病院だよね……!?」


その異様な雰囲気に怯えたようにアンナが言う。しかし、その気持ちはここにいる誰もが同じだった。ただ一人、赤坂くんを除いては。
彼は私たちの疑問を解決するために、その問いに答える。


「ここは昔病院だった。それは間違いないよ。でも、ただの病院じゃあない。精神病院だったんだ。この鉄格子は患者が脱走するのを防ぐために各階に設置されている」


「……」


そんな赤坂くんの淡々とした説明を受けて、ハルとアンナは更に怯えた顔をする。

たしかに、普通の病院、ときいただけでも不気味な感じがするのに、精神病院と聞けば尚更なのは当然かもしれない。
その実、さきほどから幽霊たちの中には同じ場所を何度も行ったり来たりと歩き回ったり、自分の手に噛み付いたり、髪を掻きむしったりと奇怪な行動をする者たちがたくさんいた。

きっと彼らはここで亡くなった患者さんなのだろう。赤坂くんの説明に納得する。



「……行こう。」



しかし、だからと言ってここで立ち止まっていては終わらない。

そう言った私に赤坂くんも頷いて、私たちは再び立ち止まっていた足を動かした。


幽霊たちは本当に至るところにいた。ロビーの椅子の上、個室のベッドの上、ナースステーション。しかしそのどれもがうろうろとあたりをうろつくか、私たちをじっと見つめるだけで何も危害は加えてこない。
そうして、何も起こらないまま私たちは最上階である5階へとたどり着いていた。


「……なぁ〜〜んだよ!!結局何も起こらねーじゃねえか!!ビビってソンしたぜ!!」

「オイ赤坂!なんもなかったからって金払うの渋るなよ〜〜??そん時はただじゃあおかねーからなぁ」

「……わかってるよ、ちゃんと払うよ」


さすがに5階にまで来れば、何も起こらないこととこの病院の雰囲気にも慣れてしまったのか、気の抜けたように入る前のテンションを取り戻す男たち。反対に、期待通りにことが進まず少し怒ったような、不機嫌そうな表情を見せる赤坂くん。

けれど、私は何か不穏なものを感じていた。この階には、今までと違う何かが潜んでいる。そう、私の第六感が訴える。



「いよぉ〜〜っし!!せっかくだから記念撮影しよーぜ!!ほい、3、2、1……!!」



「ダメだ!!撮っちゃ……!!!」






カシャッッ!!



そう、私の叫び声と共に、スマホの撮影音とフラッシュが炊かれた、その時。


ベゴンッッッッ!!!!


まるで10tトラックが何かに衝突したかのように、けたたましい音が暗闇に鳴り響いた。目を見開いた私たちが音のした方を見ると、そこにはしっかりと錠のされた立派な鉄格子が、無残にひしゃげ今にも扉が開きそうな状態にあることを懐中電灯の明かりが照らし出した。

それを確認すると同時に、あたりに悲鳴が響き渡る。




「きゃああああああああああああ!?!?!?!?」




アンナの上げた悲鳴と共にさきほどまで余裕ぶっておどけていた男たちも悲鳴を上げて一目散に階段をかけ降りる。じり、と一歩その場から退いたところで、暗闇から音の正体が姿を現す。


「っな、なんだよ、これ……っっ!?」


あんなに嬉々としていた、赤坂くんの表情が一気に凍る。背後では声も出ずにハルとアンナが小さく息をのんで小刻みに震えているのが制服越しに伝わった。

まるで闇に同化してたように、ずもも、と少しずつその片鱗を現したそれは、もはや幽霊とも呼べぬ、魔物のような怪物だった。黒く大きな体には無数の目があり、それらはみな一様に私たちの方を見て獲物を捉えたような眼をしている。おどろおどろしい、その姿。

それを見た瞬間に、自分と相手のと力量を悟る。



「……にげ、て。今すぐ逃げて!!!早く!!!走って!!!!」



乾いて張り付いた唇を割り開いて、ようやく喉から絞り出した言葉。

それを聞いた3人は固まってこちらを見上げる。ようやく自分の過ちに気づいたらしい赤坂くん。怯え、不安そうなアンナ、そして、私の言葉に戸惑うハル。


「でも!!!」


「いいから!!早く!!!」



私の言葉に反発したアンナだったけど、気迫に押されたのか少しの間を置いて小さく頷いたあと不安そうな表情で踵を返す。そんなハルとアンナの手をとって階段を駆け下りようとする赤坂くん。

恐らく、あと2、3回体当たりすればこの鉄格子は破られる。そう目算していた私だったが、その時は予想よりも早く訪れて。


ガッシャアアアアアン!!!!


「!!」


3人の背中を見送ったほんの隙に、背後で鉄格子がぶち破られる音。派手な衝撃音と砂ぼこりに瞬時に振り向くと、目の鼻の先に真っ黒い異形の姿。思わず目の前がくらりと霞む。けれど。


「……っ、!!!!」



私がやらなきゃ、誰がみんなを守るの。


その気持ちだけが私を動かした。恐怖ですくむ足と手を動かして、なんとかパワーを放つ。どうか、これで、なんとか除霊できたら。

そう、渾身の力を込めて放った超能力。けれど、それはいとも簡単に跳ね返されてその反動で私の体は後方に吹っ飛ぶ。


「ぐっ!!」

「ナマエ!!!」


ここは階段。背後は何も無い。そうなれば当然吹っ飛ばされた体は足場をなくして階段を転げ落ちる。段差に体を打ち付けるたびにう、とかぐ、とか声にならないカエルの潰れたような音が腹から上がるも、なんとか頭だけは守らなければと地面に叩きつけられる前に念動力で受身を取った。

頭を打って意識がなくなれば、もうみんなを守ることができない。それだけは避けないと。ただひたすらそう思って、きっと後ほどあざだらけになるだろう打ち身の体をなんとか起こした。

これ、骨とか折れてないよな。



「……私は、大丈夫だから……お願い早く逃げて……じゃないとみんな、」



さすがに階段から落ちれば逃げようとしていた足も止まる。さっきまでは私の後方にいた3人を今では階段の上に見上げる形になる。すると、私の超能力を弾き飛ばしてやや大人しくなっていた悪霊が、再びこちらに襲いかかるように飛びかかった。今一番階段の上部にいるのはハルと、そしてアンナ……。



「危ないッッッ!!!!」



背後に迫っていた悪霊の存在に気づいた2人は驚きと恐怖に大きく目を見開いて固まる。その瞬間、私はもう2人に能力がバレるだとか、そんなことは考える余裕もなく、咄嗟に念動力で3人の体を掴んで私の背後に移動させていた。空中に浮いた体が、トッ、と再び地面に足をつく。


「っ、なに、今の」


「これが、超能力……」



再び目にした超能力に呆けたように目を丸くする赤坂くんと、何が起こったか理解していないハルとアンナ。

3人がいた場所は今は悪霊の手によってその段差部分に大きなクレーターをこさえてしまっている。


「……今のでわかったでしょ。あいつをなんとかできるとすれば、それは私だけ。お願いだから逃げて……もう2度と、大切な人をなくしたくない」



そう切実に訴える私の言葉など嘲笑うように、目標が外れていきり立った悪霊が突進してくる。それに、なんとかバリアを張って耐えるも、足は少しずつだが後方に押され、踏ん張っている足はきっとローファーがすり減っている。

そんな私を見てハルとアンナは覚悟を決めたように頷くと、それでも少し不安そうな面影を残して踵を返した。赤坂くんも、屈んで何かを拾っていたようだが同じく頷いて2人のあとに続く。


「待っててナマエ。絶対、絶対助けを呼んでくるから!!それまで耐えて。絶対に、絶対にだよ!!!」


泣きそうな表情と声でそう告げたハルの言葉に頷いて、走り去っていった背中を見送るとタイミングを見計らってバリアを切る。そしてなだれ込むように4階のフロアへと走り込み、身を隠し、これからの算段を練ることにした。

バリアが解かれたと同時に私に噛み付かんばかりに突進してきた悪霊を翻るスカートスレスレの距離ですんでで交した。やっぱり、面白半分で肝試しなんかやるもんじゃない。全国の怖いもの知らずのパリピに切実にそう伝えたいと思いつつ、私は4階のロビーをひた走った。





prev | index | next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -