先週末の台風は結局、西日本を目前に北東へ逸れてゆき、大きな被害も出ることなく10月に入り穏やかな秋晴れが続いていた。ただ、そんな天気をよそにナマエたち学生の心情は曇っている。何故なら来週に控えた中間考査のために現在は絶賛テスト期間中。例によって時間短縮という形で部活動を許可されているバレー部だったが、再来週の代表決定戦を目前にした今思う存分バレーをできないストレスと、大嫌いな勉強と、そして急激な天気の移り変わりにより宮侑はどこか鬱屈とした表情をしていた。


「へっ!!!ぶしぇいっ!!!シャアイ!!!」


「うわ、すっごいくしゃみ」

「何や侑、風邪か。休まんで平気なん」


部活終わり、体育館に響き渡った盛大なくしゃみに部員たちはそちらを振り向く。ナマエも床に散らばったボールを拾いながらそれとなく視線を移した。

あれから冷戦が続いていた宮兄弟の喧嘩は結局、コンディションを整えるために宮治は今回の代表決定戦はスタメンから外れる、という形で幕を閉じた。ただ、悪態をつきつつも侑が納得したのはその欠場が春高へ向けたコンディションの調整という、自分たちが勝つことを何一つ疑わない治の意思を確認したからだった。


心配する銀島をよそに「バレーせんと悪化する!!」と豪語する侑。それに「アホは風邪ひかん言うしな」と真顔で煽る治にああ!?と侑が噛みつく光景はいつも通りでナマエはほっとするとともに小さく笑う。そしてそのままボールカゴを倉庫へ戻そうと歩き出した時だった。彼らのよく知るあの正論パンチが淡々と放たれる。


「帰れや。体調管理できてへん事を褒めんな。」


「………」

「冷たっ」

「風邪ひいてまう」


「(うわあ……)」


颯爽と現れた主将、北信介はそのたった二言で少なくとも部員二人に盛大なメンタル的ダメージを食らわせることに成功した。「バレー愛や!」と盛り上がった銀島はとばっちりや……、と気まずそうな顔で目を逸らし、注意された侑は体調の悪さも相まってか普段よりふて腐れたような顔をする。
結局ぐだぐだたとやるやらないを揉めていたようだが、本当に中間考査、そして代表決定戦を控えた今悪化してはまずいと、主将の言うことは尤もなので侑は大人しく早退することにした。その後ろ姿をぼんやり見つめる角名が言う。


「……ま、明日誕生日だしね、双子」

「えっ?…そうなん?」

「先月からやたら触れ回ってたじゃん。まあ毎年のことだけど。誕生日に風邪とかサイアクだから今日は帰ってよかったんじゃないの」


「……フーン。」


そう角名に言われてナマエはそういえばここ最近双子は……特に侑はなにかそわそわしていたなと思う。治に至っては更衣室のロッカーに謎のお菓子の名前がびっしり書かれたリストが貼ってあったけど、あれはプレゼントに寄越せとのことだったのか……とナマエは合点がいく。
今はテスト期間で部活は通常の半分に短縮で、侑は少し体調が悪そう、そして明日は誕生日らしい。


「………」


プレゼント、買いに行ったってもいいかな、とナマエは誰に言い訳するでもないのに心の中でこっそり思う。そんなナマエの横顔を見ながら角名はちょっと面白そうな顔をした。










「えっ、今日侑休みなん…!」




次の日の放課後。姿の見えない双子の片割れにナマエが訊ねると、治と銀島がおん、と二人目を合わせて頷いた。どうやら昨日帰ってから熱が出たらしく、今朝は大事をとって欠席したそうだ。それに「アチャーー」と無表情ながら言う角名と、そっか…と心なしか残念そうなナマエを治は見やる。
けれどそこで思い出したようにカバンを漁ったナマエは、ひとつ綺麗に包装された小さな袋を治に渡した。


「治くん、はい。誕生日おめでとう!」

「おっ!!まじか!!覚えとってくれたん」


「昨日スナが教えてくれてん」


「感謝しろよ」

「スナサイコー。スナマジ大感謝」

「顔やろ」


部室前。真顔でクラスメイトへの感謝を告げる治に銀島が突っ込む。それにあはは、と笑っていると開けていい?と治。それにナマエが頷くのを確認すると治が中から取り出したのは某スポーツブランドのバレーソックスだった。そのブランド好きかと思って……靴下なら何足あっても困らんし……と視線を逸らしながら言うナマエは気に入ってくれるだろうか、と一抹の不安を抱えているようだった。それに治は珍しく屈託のない笑顔で「おおきに。めっちゃ嬉しい」と笑った。


「侑と色違いやねん。治くんが黒で侑が白」

「知りたくなかった情報」


「じゃあ侑のも持ってきてんの?」


「う、うん……でもまた出てきたら渡すよ」


「フーーーン。」


「………」



部室棟。他の部活の生徒たちがじわじわと着替えに集まり出すところ、大きな部活カバンを抱えて廊下の隅でそんな会話をするバレー部たちはやや邪魔者を見る目を向けられる。そこにひとつ間延びした返事を返した角名と治の視線が合う。その意図を察せない銀島は一人笑顔で疑問符を浮かべる。ナマエはといえばそろそろ着替えないと主将が来たらどやされる……と恐ろしい人物の登場を危惧して周りを見回していた。


「せっかくパイぶつけてやろうと思ってたのにね」

「えっそうなん!?」

「ほんま誕生日までスベっとんなアイツは」

「ほな部活終わりに侑ん家行ってぶつけたろや!」

「鬼か」

「やめろ俺がオカンにしばかれる」


「でもいいじゃん、コンビニでなんか買ってって見舞い行こうよ」


わざとらしく視線を合わせた二人の会話はそんな意外な終着点を見せる。それに意図せずとも貢献してくれた銀島もええな!!と楽しそうに笑っている。それを聞いたナマエはえっ……とひとつ声を漏らしたが侑の家、と想像して断る気にはなれなかった。そんな曖昧な態度をとるナマエをいいことに「ほな決まりーー。部活終わり下駄箱前集合。」と話は早々に切り上げられた。


そんな部室前に溜まる二年組の元についに我らが主将が顔を出し、「何しとんお前ら。早よ着替え。」と相変わらずの淡々とした言葉とともに彼らを中へ引っ張り込む。そして残ったナマエにもミョウジも早よしいや、と言い残して男子バレーボール部更衣室の扉は閉められた。

ナマエはそんな急く気持ちの中、こっそり部活前に一言だけ、『大丈夫?』とラインを送った。すると意外にもすぐに既読はつき『もうムリ…』と某バレーボール協会のキャラクターが倒れているスタンプを送ってきたもので、あ、これは大丈夫だなとナマエは悟る。そのまま適当ながんばれ、と励ましているスタンプを送った後、ナマエも急いで着替えに向かうのだった。








スマホの時計を見ると時刻は18時前だった。そろそろみんな帰る頃やな、と侑は思う。夕方頃に熱を測った時はすっかり平熱で、それでも寝ろ。休め。という主将の幻覚がちらついて侑はしぶしぶ一日中ベッドの上でバレーの試合動画や、たまにペット動画などを流し見ていた。テスト期間で思う存分バレーができないストレスに加えて、一日中ベッドでごろつくのは自分の性分に合っていない、と侑は苛々する。もちろん、能動的な休日の二度寝なんかは最高なのだが、なんでも誰かに強制されるものは向いていない、と侑は思う。


ふと動画を閉じてラインを開けば既読をつけたままのナマエからのスタンプが表示される。特別返す必要もないと放置したが、何か適当な返事をしてもよかったか、と侑は考えた。そしたらやり取り続いたかもしれん、と。バレーができない苛々、誕生日に風邪をひくという情けなさ、そしてパートで家を空けている母親も相まって一人の空間が妙に寂しく思えた。

侑はスマホを投げ捨ててごろんとベッドに横になる。そこには普段仰いでいる部屋の天井は無く、代わりにいつも自分が寝ているベッドの底が見える。侑が風邪をひいたため一時的に寝る場所を入れ替えているのだが、その閉鎖的な圧迫感が余計に侑の気持ちを曇らせた。



「オーーーイ入んぞーーーええもん連れて来たったでーーー」



と、そこへ。急にどんどんどん、と一応ノックというか、ドアを殴るような音が聞こえてきて侑はびくりとする。んやねん、帰って来とったんかい、と片割れの帰宅に侑はじとりとした目を扉に向けつつそれでも内心一人の退屈さから解放される、と喜んだ。しかし扉を開けた先の光景は、侑を喜ばせる以上に驚きに目を見開かせることとなる。


「侑ーー!!いけるか!!見舞い来たったでーー!!」

「へえ、意外とキレイにしてるんだ」


「お前ちゃんと飯食うたんか?オカンが今朝作ってってくれた卵粥。」


「……っな、……何しとんお前ら………!!!」



「……お邪魔してます」


開いた扉からあれよあれよと雪崩れ込んできたのは見知ったバレー部の二年組。それに侑が驚きに目を見開いていると、でかい三人の後ろから一人の女がおずおずと顔を出して侑はさらに驚愕の顔をする。思わず反射的に寝そべっていたベッドから体を起こした。


「っ、な………お前、」


「見舞い兼誕生日パーティーってことでコンビニ三件ハシゴして来てんで!!プレミアムロールケーキもあるしセブンのチーズケーキとみたらし団子……ファミマのとろけるプリンもあるで!!」


「治と二人で食べなよ。俺の誕生日には三倍返しでいいからさ」


「なに優しさに見せてさらっと性格悪いこと言うとんねん」


侑は目の前で展開される怒涛の会話についていけず、部屋の中央、ローテーブルにどさりと置かれたそれぞれ異なるコンビニの三つの袋をぼんやりと見やる。そんな侑にずい、とベッドの二段目に手をかけて覗き込んだ治は「オーーイ生きてっか」と淡々とした視線を向けるものだから呆けていた侑ははっと我に帰り噛みつく。


「おう!!ピンピンしとるわ!!」


「そおか。やって、みんな」


「そらよかったわ!!ちゃんと食ってはよ寝てまたバレーしよや!!」


「むしろコイツはバレーないとしぬからね」


「ほんなら茶ァでも入れてきたるかーーな、スナ」

「そだね」

「おっ!!ウイイレあるやん!!あとでみんなでしよや!!」


「ちょっといいから行くよ銀」


そんな一応心配してくれていたらしい仲間に侑は照れくさい気持ち故にいつもの如く素直じゃない反応をしてしまう。そんな侑の生態を知り尽くしたメンバーははいはい、と受け流しては治はお茶を入れてくる、と部屋を後にしようとした。そんな治に今日は珍しく手伝う素振りを見せる角名。そしてテレビボードの下に某サッカーゲームを発見し、テンションの上がる銀島の首根っこを掴んでなんとか部屋から連れ出した。


台風一過。という風に、しんとした部屋に残されたのはベッドの上の侑と、そして少し気まずそうに立ち尽くすナマエの二人だけだった。さすがにこれはアイツらの……もとい治と角名の差し金だろうことは侑にもわかっていた。それに侑は正直めっちゃありがとう、と思う反面、唐突なことにどう立ち回れば良いのか迷う。


「………え、えっと………風邪……熱はないん?」


「え、あ、おう。もうなんもない。明日は学校行けるしバレーできる」


「よかった」



ぎこちなく会話をスタートさせたのはナマエの方だった。それに一瞬動揺しつつもいつも通り流れに乗る侑。そして大丈夫だ、と返した侑にナマエはほっと心底嬉しそうな笑顔を見せてそっと立ち尽くしていた膝を折った。そしてベッドの側、侑の座る斜め下あたりに座って背を預ける。


「誕生日やのに、災難やな。中間テストもあるのに」

「うっ!!その名前を出さんといてくれ……」

「大丈夫。今日の授業バッチリノートとってきたから明日一緒に見よ」

「神かお前………!!!」


「………あとな、誕生日プレゼントも持って来たんやけど……」


「えっっ」



続く会話はいつの間にかいつも通りのものへと落ち着いていた。ただ、眼下に見えるナマエの横顔が、普段はじっくり見下ろすこともないつむじが、触れられそうな距離にある髪が、侑の視線を捕らえて離さなかった。そんな彼女が普段自分が生活しているこの部屋にいることが侑は信じられず、どこかぼんやりと他人事のようにナマエが紡ぐ言葉を聞いていた侑だったが、そう言ってごそごそとカバンからプレゼントを取り出すナマエの動作に侑は驚きの声を上げる。

プレゼント。散々今日が誕生日だと触れ回っていた宮兄弟だが、それでもナマエがそれを知っていてくれたことが侑は嬉しかった。そして取り出された小さなラッピングの袋を、ナマエはおずおずと差し出す。


「治くんと色違いやねんけどな。バレーソックス。侑が好きやて言うてたスポーツブランドの」

「……おう。サムとお揃いて情報はいらんかったけど……おおきに。めっちゃ嬉しい」


「うん。あともう一つあるんやけど……」


当然といえば当然かもしれないが、ナマエが同じように治にもプレゼントを渡していたこと、そしてそれが自分のと色違いであることに侑は若干複雑な感情を抱いたが、それでもナマエが自分のために選んでくれ、何より誕生日を祝ってくれてプレゼントまでくれた事実が侑は堪らなく嬉しかった。珍しく素直にお礼の言葉を告げる侑にナマエはほっと胸を撫で下ろしつつ、追撃と言わんばかりにその流れでもう一つのプレゼントも取り出す。

それは某CDショップチェーン店のロゴが羅列されたラッピング袋で、ナマエに許可をもらい侑が開けると出てきたのは一枚のミニアルバム。そのアーティストと、そのパッケージに侑は見覚えがあった。手にしたCDを見つめる侑にナマエが言葉を続ける。


「前に、侑が好きやって言ってたアーティストの……新譜出る言うてたやん?」

「……ああ、」

「前聴かせてくれた時いい曲やな思て、侑よお通学とか試合の前も音楽聞いてるし、リラックスになるかなって……」


まるで言い訳をするように段々と早くなる口調はナマエの中の恥ずかしさや、緊張を表しているようで。そんなナマエの真っ赤な顔を正面に見つつ、侑はああ、たしかにあったな、と考える。侑いつもなに聴いてんの、と訊ねたナマエに片耳イヤホンを貸してやった侑とナマエの間に同じ曲が流れたこと。しかしそれはたった一回切りのことで、自分がこのアーティストを好きだと言ったことも、ナマエに曲名を教えたことも、侑の中では流れる日常の一部に過ぎなかったものだ。そんな些細な出来事を覚えていて、それをずっと大事にしていたであろうナマエを思うと侑は堪らなくなった。


「誕生日おめでとう、侑」


「……ありがとー」

「……うん。(素直、かわいい)」


「………なあ、こっち、来てくれん?」


お礼を言ってCDを大事にしまった侑は嬉しそうな笑顔を浮かべるナマエにそう、そっと上目遣いで訊ねた。そんな侑のお願いに、ナマエは頭に隕石が激突したような大きな衝撃を受ける。風邪のせいか、はたまた誕生日を祝ってもらった嬉しさか、その両方か。今日は特別素直な侑に母性本能をくすぐられていたナマエはそんな破壊力ある侑の仕草に混乱し、そして固まった。


なんだ。なんなんだこいつ。ほんとにあのパワハラセッターなのか。そう疑心暗鬼になりつつも、まさかこんな捨てられた大型犬みたいな目を向けてくる侑に断れるはずもなく、ナマエは気づけば「イイヨ……」と返事をしていた。そうして少し緊張しながらもよっ、とベッドの柵を超えて侑の隣へ腰を下ろす。しかし二人の間には微妙な距離が横たわっていて、加えて二段ベッドの閉塞感が余計にお互いの気配や息遣いを感じさせるようでナマエはドキドキした。


「二段ベッド、かわいいな。秘密基地みたいで昔めっちゃ憧れた」

「そおか?狭いし、誰かさんはうっさいし、色々不便やぞ」

「兄弟やとそんなもんかー」


ベッドの天井を見上げて言うナマエに嫌そうな顔で返す侑。色々、のところはあえて言わないでおこうと思いながらもそんなことはええねん、と侑はそっとシーツの上に手を伸ばす。半分体重をかけた先、ナマエの右手が同じようにシーツの上に皺を作っていた。お互い緊張を誤魔化すようにぽつぽつと続いていた会話は徐々に少なくなっていき、侑の指先がナマエのそれに触れた頃には完全な無音となっていた。


「………」

「………(ど、どうしようしにそう)」



真っ赤な顔で縮こまるように体育座りをするナマエの視線はずっと下を向いていて侑と合わない。けれど探るように指先に触れ、そうして絡めてくる侑の熱い手の体温に導かれるようにナマエもきゅ、とその手を握ってしまう。そんな態度とは裏腹のナマエの反応が堪らなくかわいく、そして扇情的で侑は体の内がどんどん熱くなっていくのを感じた。

加えて膝を立てたナマエの制服のスカートの裾からちらちらと危うげに覗くやわらかそうな、真っ白の内ももに視線が吸い込まれて、もう俺どうしたらええねん、と侑は頭を抱えたくなる思いだった。そして今日ばかりは自分の片割れと、そしてそのクラスメイトにありがとうと心からの感謝の念を抱いた。
そうして絡めた手、ぐ、とまたあのインハイ最後の日の夜のようにナマエの体を自分の方へ引き寄せた侑はやっぱり少し眉間に皺を寄せた不機嫌そうな、けれどどこか真剣な顔でナマエに訊ねる。その瞳はまるでナマエの見たことのないような色をしていて、ぼうっと熱に浮かされてそして愛しい気持ちに満ちたような眼差し。



「………嫌やったら、殴れや」


「…………嫌じゃ、ない」


したい、と真っ赤な顔で小さく呟いたナマエに侑は息がとまるような思いだった。そうしてナマエが自分も侑と同じような目をしてるんだろうか、とぼんやり考えたところで、噛み付くようなキスが降ってきた。初めて触れた彼の唇は熱く、キスってこんな感じなんや、とナマエは考える。それ以上に侑の優しい気持ちが伝わってくるようで、触れる体温も、息遣いも、心地いい侑のにおいに満ちたこのベッドの上も、ナマエには幸福で仕方なかった。


そうして何度か口づけを交わすうちに、ふと侑の下心が顔を出す。少し目を開けた侑がナマエの反応を確認するようにその唇の間にぬるりとひとつ熱い舌を差し込んだ。


「!?っ、ん……」

「………」

「……ふ、……」


途端に驚いたナマエの肩がびくりと震える。覚えのないざらざらとした得体の知れない生き物のような感触にどくどくと心臓の音が早くなり、同時に口づけもどんどん深くなる。慌てたナマエが苦しそうに侑の胸を軽く叩くその手をいなしつつ、侑は興奮のままに体重をかけてナマエの体を押し倒した。

軽く力を込めただけで簡単に組み伏せてしまえる体の脆弱さと、切羽詰まったように真っ赤な顔で見上げるナマエの表情に侑は体が熱くなり、息が荒くなるのを感じる。寝転んだシーツの上にまだ残る侑のぬるい体温をナマエはブラウスの背中に感じる。そんなシーツの上に乱れたナマエの髪をそっと撫でて見下ろす侑の熱に浮かされたような瞳に逃げられないのだ、とナマエは知る。


「………あんま煽んなや」

「えっ……」


かわいすぎんねん、と侑が余裕なくほんの小さくひとりごちた言葉はまさか普段の彼からは想像もできないような台詞でナマエは困惑すると同時に恥ずかしさに堪らなくなる。そうしてそのまま降ってきた侑の影にぎゅっと目を瞑ればもう一度キスをされて、侑の指先がナマエの制服のリボンに伸びーー



「オーーーイ入んぞーーー。やましいことあるなら待ったるから早よ証拠隠滅せえやーーー。じゅーーきゅーーはーーち」



「!?!?ちょ、待てや!!10秒カウントは無謀やろ!?!?」



そこにナイスタイミングで聞こえてきたのは治の大声で。それにびくう!!!と慌てて飛び起きた二人。一人は半ばすっ転ぶようにベッドを這い出て、一人は頭から布団を被った。ややあって開かれた扉に、なんとも言えない空気が漂う中、角名のにやにやした視線がナマエに注がれ、治はじとっとした目で布団にくるまる片割れを見る。


「お!?ど、どうしたんや侑!!具合悪なったんか!?」

「………うっさいほっとけや銀……」

「どーでもええけどそこ俺の布団やからな。忘れんなよ」

「おっ!?なんや、ナマエはえらい顔赤いやん!!侑の風邪移ったか!?!?」

「銀はほんと全方位容赦ないよね」


「………」


そんな幼なじみの容赦ない突っ込みを受けて真っ赤な顔で固まるナマエと、ツム起きてこんのやったらみんなで食ってまおーー、と運んできた麦茶の乗ったトレイをローテーブルに置いてしれっと言う治。それにいいね、と悪ノリする角名とさすがに何も言えない侑。そんなナマエがしっかりみんなとコンビニスイーツを堪能したのち、銀島の言った通りまんまと侑の風邪をもらってしまい主将に厳しい目を向けられるのはまた後日の話。


01082021



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