「期末テスト!!!!」



言葉に出してその恐ろしさに机に突っ伏す。なんやねん期末テストて。俺らは目下来月のインハイに向けて追い込み時期やねん。テストなんかしとる場合ちゃうねん。ああ、バレーやりたい。なんで日本人が英語やらなあかんねん。
そんな厭味言を突っ伏したままぶつぶつと連ねる宮侑に「いやこわいこわい!!」と突っ込みを入れるのは同じクラスの銀島結。七月に入って最初の月曜日、来週の期末テストを前にしたテスト期間が始まった。


テスト一週間前になると通常部活動は禁止、しかし大会前など追い込み期間にあたる部活は時間の短縮などの条件をもとに活動を許可されていた。
そんなバレー部もその例外が適用されたひとつで、月曜日以外の平日は活動時間を半分に短縮、土曜日は通常通りだが、自主練の日曜日は完全な休みと言い渡された。ちなみに月曜日は元々休日を指定されていて、ともなれば否が応でも勉強をしなければならない。侑はうなだれた。


「俺はバレーボールで生きてく男やねん……因数分解ができたりとか……外国語話せる必要ないねん………」

「おお!侑はほんまにバレー好きやな!!けど外国語はいるんちゃうか!!世界に進出するんやったら!!」

「北さんみたいな正論パンチやめろや銀………」


飲み干したコーヒー牛乳のパックを握りしめてうなだれる侑は普段、特に最近新人マネージャーへ見せる威圧感な態度とは打って変わってしおらしかった。テストの威力恐るべし。と言うのも昨日の一日練習の際、「インハイ前にやれ赤点やら、補習やら、いらん時間割かんためにもテスト勉強ちゃんとしいや。まあ……普段からやっとったらそない怯えることでもないんやけどな……」と特大級の正論パンチを食らったことも侑に大ダメージを与えるに十分だった。


「ほんなら、今日放課後勉強会するんやけどお前も来るか?あ、まあいけるか聞いてみなわからんけど」


「……勉強会ぃぃ……?そんなん、やれ勉強やあ!言うてグダグダ遊んでまうのがオチやん………」

「いらんなら別にええけど……」

「いります。」

「おう!ほんならナマエにラインしとくわ」

「エッ待って銀島くん今なんて言うた??」


勉強は嫌だが、自分一人でどうにかなる問題でもあるまい。最悪、三年の誰かに勉強見てもらおうかと思っていた侑だったが、同級生に頼れるに越したことはない。そう思い飛びついた勉強会に、目の前の友人は思わぬ女の名前を出すので侑は慌てて制止する。


「それ、あのポンコツど素人マネージャーやない?」

「オイ俺の幼なじみそんなん言うたら怒るぞ」

「…………ごめんて……。」

「ナマエは進学クラスやし侑の苦手な英語も得意やで。スナと三人で図書館でしよや言うててんけど。侑も来るならマクドかどっかに変更しよか」


「エッスナも来んの!?てか俺が混じったらマクドに変更てなんやねん!!」


やって絶対うるさして司書の人に怒られるやつやん、と改めて正論パンチをかます銀島に侑はうぐ、と返す言葉なく詰まる。
それよりも気に食わないのはスナの存在である。目の前でコロッケサンドをかじりながらスマホを開いて幼なじみにメッセージを入れているだろう、銀島につられて侑も自分のそれを覗く。友達リストの中にはスナの名前もあるが、そのアイコンがつい昨日更新されていて、そこにはトスを上げる銀と盛大に空振るマネージャーが写っていた。それが侑はなんとなく気に食わない。


「あ、返事きたで。◯、て看板トリが上げてるスタンプ」

「!!あ、そ……」

「よかったやん。ちゃんとナマエにお礼言いや侑」

「!!!な、ん、………アイツがちゃんと教えれたらな……」

「今日は部活ちゃうねんからキッツイこと言うたらアカンで!!」


「………」


てっきり断られると思っていたところ、意外にもオーケーの返事が出て侑は複雑そうな顔をする。さすがに教えてもらう立場で部活でのようなことを言うつもりはないが、だからと言って大人しく教えを乞うのも礼を言うのもなんだかシャクだ、と考えてしまう。そんなところが片割れにポンコツや、と言われてしまう要因なのだが、性というものなのでどう仕様も無い。

侑はどこか溜飲の下がらない思いで昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いた。放課後、部活以外で初めて会うあの女を前にしてどんな顔をすればいいのか、と答えの出ない問いが頭の中にぼんやり浮かんだ。









「………なんっっっっでお前もおんねん!!!!」




放課後。騒めくファストフード店の一階を通り過ぎて、二階はそれなりに落ち着いた広いスペースが設けられていた。テーブルではちらほらと稲高の制服を着た生徒たちも見られ、みんな考えることは同じだと思う。
そんな店内で初っぱな大声を出す男が一人。それを聞いてやっぱりマックにしてよかった、と角名は思う。遅れて合流した侑は自分の注文した商品の乗ったトレイを抱えてわなわなと震える。侑が意図した視線の先には素知らぬ顔で席に着いている彼の双子の片割れの姿があった。


「ハア?べつにええやろが。スナが勉強会行く言うから俺もいれてー。言うてん。ツムに関係ないやろ」

「なんやねん稲荷崎バレー部二年勢揃いか!!!」

「あ、ほんまやなあ。写真撮っとくか?」

「いらんわ!!!つかなんで俺の席ないねん!!!」


「そりゃボックス席だしでかい男が三人も座ったら席もなくなるよね。どっかから椅子持ってくれば?誕生日席。」


「オイ静かにせえやツム。勉強する前から追い出されるやろが。あとお前のおらん間に写真は撮ったで」


「〜〜〜〜!!!」


たしかに周囲の視線は騒ぐ侑にそれとなく向いている。侑は治の言葉に何も言い返せず、できることは空いたテーブルから椅子を借りてきて座ることだけだった。めでたくもないのに一人テーブル角のお祝い席。加えて自分抜きですでに写真を撮ったという知る必要のない情報にも腹が立つ。


「まあ……ええやん。何人おっても変わらんし!!あ、何買ったん宮侑」

「………テリヤキバーガー」

「それもええなあ。私アップルパイとポテト買った」

「俺チキンナゲット」

「マックフルーリーオレオ。」

「俺ビッグマックセット」

「ちょい待てなんで一人セット頼んでる奴おるねん」


ずごご、とLサイズのジュースを吸いながらしれっと言うのは片割れの治。知ってたけど。けど勉強する前になんでそんな食うねん。何しに来てん。そう思いながらもここは突っ込んだら負けやと一口テリヤキバーガーにかじりつく。ひとまず空気も落ち着いたところで、じゃあ、勉強しましょう……!というナマエの言葉を皮切りに奇妙なメンバーでの勉強会が始まった。







「!!ちょお待て!!なんでこれ不正解やねん!」

「あー…これ他動詞だから…目的語がいる。逆にこっちは自動詞だからなくてもいいよ」

「なんっっっやねん……!!!文脈で察しろやアメリカ人……!!!もうちょい人のこと慮れや………!!!」


「アメリカ人も侑には言われたくないと思う」


「オイ待ってくれナマエ!そもそも自動詞と他動詞ってなんなん!?」

「そこから!?」


波乱を極めるかと思われた勉強会は昨日の主将の発言の効果か、案外着実に進んでいった。今やっている教科は初日にテストがある英語だが、まずは一番最近の小テストの結果を見て苦手を探ろう!ということになり、それぞれ出した答案用紙はなかなかパンチが効いていた。

すさまじい日本語訳の珍解答が飛び出して爆笑が起こったり、そもそも答えの日本語すら間違っていて、「お前日本語もロクにできんのに第二言語とか無謀やで」と煽った治とそれにまんまと乗った侑の口喧嘩が始まったりした。


「あっ!!ちょおスナそれ私のポテトやねんから!!食べすぎ!!」

「いいじゃん心狭いなあ……。てかアップルパイも食べてポテトとか……もうちょい色々気にした方がいいんじゃないの?あ、もう遅いか」


「!?なんやと!?」


「まあまあ……食いたいもん我慢して痩せるより好きなもん食ってブクブク太る方が俺は幸せや思うで!!」


「やから銀のそのフォローに見せかけたオーバーキルなんなん!?泣くで!!」

「あーーなんや頭使こたら腹減ってきたな……。セットのクーポンまだ持っとった?スナ」

「ダブルチーズバーガーセットとかあったと思うけど」

「なんでまたお前はセットいこうとしてんねん!!スナも当然のようにクーポン出すなや!!」


治の本気という名のボケに渾身の突っ込みを繰り広げる侑と、分かっていて悪ノリするスナ。熱意や真面目さが空振りし時にこの場の誰よりもすさまじいオーバーキルを見せる銀島。そんな四人に振り回されながら、それでも初めて会った時、ただただ体も存在も大きく、威圧感しか感じなかった彼らとこんな風に笑い合えるとはナマエは思わなかった。
少しずつ進んでいるんだろうか、どこへ、とは明確に言えないが、何か良い方向へ。そうだといいな、と思いながらナマエはすっかり冷めて、ふやけたポテトをつまみながら相変わらずの兄弟喧嘩を眺めて笑った。


17072021



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