M-01  [ 28/72 ]



骸殻化の一件の後、セレナは体調不良により数日仕事を休んでいたが、もうすっかり体調も良くなった為に昨日から仕事に復帰していた。

表向きには任務先での負傷と言うことで、出社してみれば同僚達も心配してくれていた。
しかし仕事は溜まっており、急ぎの仕事を消化するだけでも2日かかってしまった。

「あー、疲れた……」

溜まっていた書類の最後の一つに判を押すと、セレナはその場で座ったまま大きく伸びをした。

「お疲れ。大丈夫?病み上がりでしょ?」

同僚が通り様セレナの後ろに立ち、肩を揉んでくれる。

「あー気持ち良い……ありがとう。もうすっかり良くなったから」
「戦闘エージェント兼任ってほんと大変よね……無理しないでね」
「うん、気を付けるね」

言葉だけでも、心配してくれる仲間の存在はありがたい。

「でもさ、そんなにハイペースで片付ける必要無かったんじゃないの?いくら急ぎだからってあと2、3日待たせたって文句は言われないでしょ?
向こうも戦闘エージェント関わってるし事情は分かりそうなものだけど」

同僚が口を尖らせて言う。確かに彼女の言うことは正しかった。

任務での負傷と言うことは周りは皆知っていたし、本人は不本意だがそもそもセレナに文句を言える社員は少ない。
セレナはそれに苦笑いを返しながら、オフィスの壁に貼られているカレンダーに目をやった。

「どうしても外したくない予定があって」

するとセレナにつられてカレンダーを見ていた同僚は、狐につままれたような顔でセレナの顔を見る。

「えっ、何。彼氏?」
「えぇっ!?違うよ!」

その言葉に驚いたセレナは、オフィスに響き渡る大きな声を出してしまい注目を浴びることになってしまった。
セレナは周りの社員達に愛想笑いを返すと、今度は小声で同僚に言い返す。

「何でそうなるの!」
「だってすごい楽しみにしてまーすって顔してたよ?
それで必死に仕事片付けちゃうなんて」
「そ、そんなんじゃないし!」
「ほんとにー?
なーんだ、ようやく箱入りのお嬢様にもその時が来たのかと思ったのに……」

必死で否定され、同僚は心底つまらないという顔をする。
セレナはそれを恨めしそうに見た。

「その予定だって仕事だからね。ちょっと遠出するってだけで」
「何、また戦闘エージェントの仕事?」
「そう。魔物の討伐」
「えー、次から次へと大変ねぇ。
気をつけてね、また怪我して休まれちゃったら寂しいんだから」
「大丈夫、他のエージェントも一緒だから」

同僚の言葉に自分を待ってくれている人が身近にいると再認識し、セレナは嬉しくなる。
ふと同僚は何かを思い出したように手を叩いた。

「もしかして、例の銀髪の新人エージェント?」
「え?まあ、そうだけど」
「なるほどねぇ〜」

セレナが不思議そうな顔で見てくるのをにやけ顔で見返した同僚は、当たらずしも遠からずじゃないの?と心の中だけで言うことにした。


Milla character episode 目指せ一番!


ルドガー達との待ち合わせ場所であるトリグラフ中央駅へ、セレナが小走りでやってくる。
既にルドガー、エルとルル、ミラ、ジュードと意外にもミュゼがそこで待っていた。

「お待たせ。ってミュゼもいる!」
「あらあら、ダメだったかしら?」
「そんなことないよ。珍しいメンバーだったから」

ミュゼはふわりと宙に浮かんだままセレナの周りを回ると、うふふと笑った。

「久しぶりに雪を見たくなったから」
「ミラのスープの件が気になるみたい」

しかしジュードが横から小声で、本当の理由を教えてくれたのだった。
恐らく耳の良いミュゼには聞こえているが、知らないふりをしていた。

ルドガーとエルがセレナに歩み寄って来る。

「仕事、大丈夫だったのか?」
「うん。ちゃんと片付けてきたよ」
「セレナ、えらい!」
「クマ、やっつけにいかなきゃだからね」

「あなた達の一番の目的は観光でしょ」
「ミラのスープだって楽しみだよ?」
「また、調子のいい事を……」

エルからの賛辞に答えていると、ミラが腰に手を当てながら言った。
しかしセレナは気に留めずミラに微笑む。
そうすれば、ミラは照れ隠しに悪態をつくのを知っているからだ。

セレナは、ミラのこの可愛らしい性格を気に入っていた。

一見わかりにくいようでとてもわかりやすい。
基本は冷静で大人っぽいのに意地っ張りで子供っぽい部分もある。
特にエルと言い合いをしている姿などは少女のそれだ。
しかしいざ戦いになれば凛々しく剣を振るい、仲間を叱咤する。
そのギャップに、最初は驚かされたものだ。

(ルドガーが惹かれるのも分かるなあ)

そして最近セレナは気付いたのだ。

今回の目的であるスープの件や、エルを間に挟んだまるで夫婦喧嘩のようなやり取り。
ルドガーは基本的には優しいのだがミラには強く出ることもあり、他の仲間に対する態度とは違うように感じたのだ。

そしてそれは、恐らくルドガーがミラに対して友人や仲間以上の感情を抱いているからに他ならないと確信している。

対するミラも何だかんだ言ってルドガーを頼りにしているし、もしかすると二人は想いあっているのかも知れないとも考えていた。
しかしいつもそのことを考え出すと、セレナはいたたまれない気持ちになってしまい、思考を中断してしまうのだった。

(ミラはいつか、正史世界のミラが帰ってきたらどうなってしまうんだろう)

その日はいつかやってくるだろう。
この世界のミラ=マクスウェルは、精霊の主として本来ならば精霊界を治めているらしいということをジュード達から聞いていた。
彼女がいなくなったままでは精霊界は成り立たなくなるであろう。

しかし、その日がきたら今ここにいるミラは?

セレナはレイアから奇妙な話を聞いていた。
分史世界から正史世界に連れてきてしまったルルが、正史世界のルルの前で消えてしまったということを。

(ミラはどうなる?そんなことになったらルドガーは……)

そのことを考えると、胸が締め付けられるように苦しくなった。

しかしセレナはそのいたたまれない気持ち……胸を締め付けられるような苦しみの、もう一つの理由にまだ気付いていない。



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ルドガーと分史ミラとエルの3人組、本当に好きなんですよね。



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