ミルクティー

「柄本と風間は欠席か…
まぁ、昨日試合があったみたいだしな。二人の分のプリントはちゃんと机の中に入れといてやれよー。」

『(風間はサボり魔だから分かるけど…)』

「(柄本も休み…?)」


朝礼最中、先生のやる気のなさそうなその言葉にハッとした。改めて席を確認すると、確かにそこの席の主がいない。チラッとチカちゃんを見れば、彼女も同じような反応してた。

…どうやら考えてることは一緒のようだ。

そして放課後、


『今日どうする? 一応部活は休みだけど。』

「…私はバカ柄本の家に行ってくる。紫苑は?」

『…風間は…うーん…何処にいるかも分かんないし、いつものサボりかもしれないし…
今日は手芸部の方に行くよ。』

「…そういえばアンタ手芸部だったね。もう辞めたら?」

『意地でも辞めんわ。』


簡単に挨拶をして別れ、私は手芸部の部室へと向かった。先輩達には「お久しぶり」「サッカーの試合、残念だったね」「惜しかったね」と慰められた。
別に私は選手だから…慰められることのほどしてないんだけどなぁ。でも優しい先輩達だ。

他愛ない話をしながら手は各自動かし、それぞれの物を作り続ける。
そして時間というのはあっという間だ…
特に、何かに夢中になっている時は尚更。いつの間にか部活動の終わる時間が迫ってきているのだから。時というのは時々恐ろしく感じる。


「咲さん、送って帰ろうか?」

『ありがとうございます、でも大丈夫です! ちょっとサッカー部にも寄っていきたいですし…』


ペコッとお辞儀してサヨウナラ。
今日はオフの日だから、誰もいないだろうなぁとは思っていたけれど…本当に誰一人いない。
ガランとしたグラウンドを横切って、部室のドアを開ける。そして後悔。


『…クソ汚ぇな、この部屋…!』


ゴキブリがぬくぬくと暮らしててもおかしくないくらいに、物が散乱している。今までマネージャーの仕事が忙しくて見て見ぬフリしてたけど…本当に汚い。なんだこれ、魔窟かよ。


『あ…昨日の作戦…』


ホワイトボードに書いてあったのは、昨日の桜高への対策戦。"絶対勝利""打倒桜高"という文字を見て…昨日の試合終了後の皆を思い出した。


『…消した方がいいよね。……あれ、消えないんですけど。誰だよ油性ペンで書いたの。』


消える筈の文字が消えなくて、ペンを見てみれば油性の文字。


『いや、確かこの上から水性ペンでなぞって消せば…消える筈…なのに、何故水性ペンがない!? バカなの!? 油性だけしかないとかバカなの!?』


水で消えるのかを賢いスマホに聞けば、どうやらアルコール除菌シートやマジ○クリンが効果的らしい。ならば、アルコール除菌シートを買おうと近くのコンビニへ向かった。

誰か来るとは予想だにせず、ただノンビリとコンビニへ行って戻ってきた。
そうしたら…
誰もいない筈の部室から声が聞こえてきたんだ。
中に入らず聞き耳をたてたら、それは風間の声で…


「くそ、誰だ油性で書いたバカは!?
くそっ、消えねぇ!
初めてなんだぞ、こんな気持ちは…ふざけんなっ!
消えろよ! 消え…っ、」


震えていて、やや鼻声気味に言葉を絞り出している。
…だから消そうと思ったのに。
よりによって、風間が来るとは…


「マジで初めてだったんだ…。
この仲間と勝ちたいって思えたのは…、チームを好きになれたのは……っ
すまねぇ…!!」

『(…"すまねぇ"…?)』


…何で風間が謝るんだ?
ゴールに入れられなかった柄本君が罪悪感を胸に謝るのなら分かるけど。何で風間が?


「勝たせてやることが…できなかった…!」

『(…あぁ…そういうこと。)』


成る程、意味が分かった。
けれど…号泣してる時に登場するのも、チカちゃんのように叱咤激励するのも、私にはできない。そもそも自由人な風間が私の話を聞くかな。


『(…仕方ない。除菌シートと、ついでにさっき私のために買ったミルクティーを置いていってあげよう。)』


小さなメモ書きを残して、
それらを部室のドア付近に置いて帰った。ちょっと余計な一言も書いたし、風間が怒るかもしれないけれど…まぁいいや。

名前書いてないし、誰からか分からないだろう。

ーと思ったのが昨日。
今は…


「はい、咲ちゃん。」

『…ミルクティー? 何で?』

「昨日のお返し。」

『! …何で私だと?』

「ミルクティー飲むの、うちの部員じゃ咲ちゃん以外見かけないし。」

『嘘でしょ、こんなに美味しいのに。』


朝の教室で、私の机の上にミルクティーを置いていった風間。聞けば、意地悪な笑みを浮かべて「咲ちゃんて厳しいよね、意外と。」と返された。
あぁ…やっぱ怒らせたかな。いつも余計なこと言ったりやったりして、自己嫌悪に陥るんだよなぁ。


『…不愉快だったらゴメン。でも、』

「別に不愉快じゃないさ。吃驚したけど…なんつーか、確かに、って笑った。」

『笑ったんかい。』

「あと、除菌シート、よく消えたよ。」

『なら良かった。』


その言葉を最後に、風間は「つくしー!」といつもの高いテンションで柄本君の所へ行った。それを眺めながら貰ったミルクティーを開けようとすると、底に小さな紙が貼り付けられてあるではないか。ガサッと中を開けば、"盗み聞きとは趣味が悪いぜ"と書かれてあったので…


『…私の方が先に部室に来てたんだし。』


ポツリと呟いて、その紙をグシャッと握りつぶした。










("「勝たせてやれなかった」というのは、少し傲っているように感じ受けます。「皆と勝てなかった」と泣いてください。
P.S. @ついでに除菌シートでホワイトボードをキレイにしておいてください。Aミルクティーで心休まってください。")

(「こんなことするとしたら、生方か咲ちゃんだよな…。いや、生方だったら直接襲撃怒鳴り散らしてきそうだし…ミルクティーだから咲ちゃんだな。
…つーか泣いてるの見られたのかよ…くそっ。」)





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