Chest out
「疲れてなんてないもんね!!」
ゴチン
「あたぁっ!」
ゴチン…それは頭突きの音。
選手交替を命じられて悔しがってる大柴先輩が、柄本君に頭突きした音だ。
痛そう…
ちなみに頭突きした大柴先輩は、もっと出たかったチクショウと嘆きながらベンチへ戻ってきた。
…日頃あまり練習サボって体力つけないからだよ。
『チカちゃん…残り時間あと何分?』
「12分…まだ0対0。」
蟻明のラフプレーで、なかなか点を入れられない。
でも柄本君が入ったから…点を取れるかもしれない。彼はよく走るし、彼がいると周りも釣られてよく走るようになる。
なにより、柄本君みたいに走り回る人、きっと蟻明は苦手だろう。
「風間だ! いけぇっ!」
ガガン
「あーっ惜しい!」
「あ…柄本ー!! ねじ込めーー!!」
君下先輩が風間へパス、そして風間がゴールにシュートするも…それはゴールポストに当たってしまった。そのこぼれ球をなんと…あの柄本君がヘディングで入れようとしている。
思わずベンチにいる皆も席を立ち、それを見守るが…
「…柄本?」
「つくし!」
『…もしかして、頭を蹴られた…?』
またも蟻明に邪魔されて、ゴールならず。
それはいいのだが…問題は、柄本君が起き上がらないこと。審判がかけよって、一時試合を中断。担架に乗せられて、柄本君は運ばれて行く。
…かと思いきや、
ドサッ
「おい、落とすなよ」
「や…コイツが…」
「さっさと運べよ」
担架から落ちた柄本君…
否、柄本君が自ら降りたんだ。
頭をうって動けないのに、「まだできる」って、降りようとしたんだ。
「ちっ 早く出ろよ、うっぜぇな。
途中出場で途中交代? 何しに来たんだよ。
完全に聖蹟のお荷物じゃねぇか。
なぁ?」
「ははっ! 確かに。」
「そんな事言ってやんなよ〜!」
それなのに、蟻明の奴等はラフプレーだけでなく柄本君を笑い者にしている。
『(あんのクソ坊主頭…なんて生意気な!)』
「…水樹」
「分かってます」
監督に名を呼ばれた水樹キャプテンが、横を通り過ぎる。向かったのは柄本君のところで、倒れている柄本君を軽々と抱き上げた。
「よくやった、柄本。後は任せろ。」
『…お、お姫様抱っこ…!』
「…アンタは何羨ましそうに見てんのよ!」
『痛いよチカちゃん!』
ドヨドヨとざわめく会場。「よくもうちの部員を笑ってくれたな」と言いながら試合に出る準備をする水樹キャプテンに、蟻明は顔を青くする。
「17番アウト、7番入ります!」
「5分で終わらせてやる。」
「水樹! 無理はするなよ!」
「合点承知之助」
『…試合に出られて嬉しそうですね。』
「……分かってるのかアイツは……」
「あの人キャプテンなのに言うことが少しズレてますよね。広辞苑読め。」
フィールドにウキウキしながら入っていった水樹キャプテン。残り時間は7分で0対0。ずっと攻めてる聖蹟としては、延長を避けたいものだ。
「風間、おまえはもう目立つな。パスくれ。」
「ラジャ」
それって、水樹キャプテンが暴れたいだけだよね。あの臼井先輩も顔をひきつらせてるぞ。
「君下、今日もシュルルって頼む。」
「だからわかんねぇって、それ。」
「水樹ー!」
君下先輩は…口ではそう言いつつも、もう慣れてるな。てゆぅか灰原先輩ってば、水樹キャプテンが出るから嬉しそうだな。
「さぁ、柄本の弔い合戦だ!」
「「いや 死んでねぇから。」」
臼井先輩と灰原先輩に突っ込まれてる…
流石キャプテンだ。
そこからは圧巻だった。
キャプテンひとりに対して、マークは3人。
しかし、1人の隙をついて猛ダッシュ。慌てて3人が全員でキャプテンを止めにかかるが…その3人を引き摺ってでも前進する。
そしてー
「君下からパスが出るぞ!」
「高い! 水樹は囮だ、風間が中央に来てるぞ!」
「…あっ、いやー
水樹が跳んでる!?」
「あれ? ボール少し低いか」
空高く飛んだボール…
誰もがそれに届かないと思ったのに、あろうことかキャプテンは驚異のジャンプ力でヘディングシュートを決めた。
そして、結果は聖蹟の勝利。
明日の決勝に進められるんだ。嬉しいけど、今は次に行われる試合のためにも早く退出しなければならない。皆で片付けをし、出る準備をしていれば…聞こえてきた会話。
「…くそっ 聖蹟に負けたわけじゃねぇからな。
お前だ、水樹。お前ひとりさえ居なければ…」
「……足が死んでたよ。」
「なに!?」
「どっかのチビがバカみたいに走り回ったせいで、お前達の足は終盤完全に死んでたよ。」
蟻明にそう言い放ったキャプテンの言葉は、近くにいた柄本君にも聞こえたようで…
「胸を張れ、柄本。
聖蹟サッカー部はいつでも胸を張るんだ。」
「ギャ…ギャブデン……」
『…感動泣きしてるところ悪いけど、さっさと涙と鼻水拭いて出ようか。』
タオルを渡して出る準備。
今日はこのまま解散! …といきたいところだけれど、この後いったん学校に戻らなきゃならない。
明日の決勝戦に向けて、作戦会議だ。
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