準決勝

一次トーナメントが終わり、早くも二次トーナメントが始まった。
今日の相手は蟻明。
蟻明に勝てば、決勝へと進めるんだ。
そんな大事な試合がもうすぐ始まろうというのに…


「準決勝だ。
勝てば決勝、優勝すれば7度目のインターハイ。いつも通り聖蹟のサッカーをするだけだ。気持ちで負けるなよ。
ここにいる全員で勝つ…以上。」

「せんせー
バカ柄本が、まだトイレから戻ってきてませーん。」

『だいぶ経つのに。道に迷ってるのかな?』

「"だいぶ経つ"ってことは…咲、お前柄本がいないのを知ってたんだな?」

『………んっ?』


円陣の中に、柄本君はいない。
実際、トイレに行くと言ってだいぶ経つ。本当は円陣する前に監督に言おうと思ってたのだけど、チカちゃんによってそれは成し遂げられず。敢えて円陣をやった後に報告するという…イタズラ。企んだのはあくまでチカちゃんだ。私はそれにノリノリでのっただけ。
しかし、そんな言い訳は通用しなかった。


『…んー、トイレってこっちだっけ?』


"柄本を拾ってこい"という監督の命のもと、トイレ散策の旅に出た私。仮にトイレを見つけたとしても、どうやって私は柄君に声をかければいいのだろうか…。

中身は一回り上のおばちゃんだし、普通に男子トイレ入ってもいいかな。
…え、だめ?
じゃあ致し方なし。トイレ付近にいる男を捕まえて柄本君を呼び出してもらおう。

そんな事を真剣に考えていたからか。
曲がり角でドンッと誰かにぶつかった。


「あ、悪ぃ。」

『痛〜っ…だ、大丈夫、です。
こちらこそぶつかってスミマセン。』

「鼻うったのか!? 血は出て…
…アレ、どっかで見たことある…」

『えっ?』


ぶつかった人は背の高い男性で、体つきがいい。
胸板か腹筋にぶつかった私の鼻が悲鳴をあげているくらいだ。
…てゆうか、どっかで会ったっけ? 記憶にない。


「うーーーーん………」

『あ、あの…
申し訳ないんですが、17番の背番号を着た聖蹟の柄本つくしを見か…』

「…あぁっ!! 分かった!!
聖蹟のマネージャーの1人だ!!」

『あ、あの…』


ポンっと拳で掌を叩き、1人満足気に納得する変わった男。それより君は誰なんですか、そして柄本君を見かけませんでしたでしょうか。


「オレは桜木高校の犬童かおる。通称かおるちゃんだ。つくしなら見てねぇぜ。」

『えーっと…じゃあ、かおるちゃん?』

「おう。そっちは? 何て呼べばいい。」

『咲紫苑です。好きに呼ん…』

「じゃあ紫苑で。よろしくな!」


かおるちゃん…何だか明るくて元気な人だ。ニコニコしてて何だか楽しそう。それに自分で自分のこと"かおるちゃん"って言ってるところがまた可愛い。


『…て、あぁ! 忘れてた!
私、探し人がいるので失礼しますっ!』

「あぁ…そういやオレも蹴治を探してるんだった。
じゃあな、紫苑!
それと、水樹に"楽しみに待ってる"って伝えといてくれ。」

『はいっ!
……ん? 水樹キャプテンに…?』


おやと思って振り返るも、そこにはもう誰もおらず。水樹キャプテンとかおるちゃんって知り合いなのかなぁ…なんて、疑問に思いつつも散策を開始すれば、トイレ発見。
ついでに言うと、
柄本君、水樹キャプテン、監督も発見。


「…遅いぞ咲。何でわざわざ遠回りして来た?」

『…え? いや…そんな近道があることに気が付かなくて…。』


柄本君は監督に拳骨を、私は監督にパーで頭を叩かれた。おかしいな…柄本君を迎えに来てちょっと遅れただけなのに、何で私も一緒に怒られてるんだ? デジャヴ。前もこんなことあったよね、原因は風間だったけど。

そんなトラブルが起きながらも、試合の開始時間は刻々と迫る。皆揃ったことだし、ようやくグラウンドに出たわけだが…準決勝なだけあり声援が凄い。蟻明コールと聖蹟コールで会場は既に盛り上がっている。

そして私達マネージャーと控えの選手はベンチでスタンバイなぅ。今回いつもと違う点といえば、その中には水樹キャプテンもいることだ。


ガタガタガタガタ

「み、水樹キャプテン、足が震えてますよ」

「うるせい」

「す、すみません!」


この通り…
二次トーナメントのメンバー入りは果たしたものの、体力温存と怪我のため、今回はベンチ側なのだ。そしてそれに不満な彼は超不機嫌な顔で貧乏揺すりをしている。


『…あっ、そういえば水樹キャプテンに伝言を預かってました。』

「オレに?」

『"楽しみに待ってる" by かおるちゃん』

ガタガタガタガタガタガタガタガタ

『うるせい』

「…………」


かおるちゃんと聞いて、先程の倍速で貧乏揺すりを始めた水樹キャプテン。そんな彼の頭を、メガホンでパコッと叩いてやれば静かになった。
やるじゃないか、君も私も。


「…咲」

『はい?』

「犬童とは話すな。馬鹿がうつる。」

『…んー…はい。』


失礼ながら…
私の馬鹿カテゴリーの中には水樹キャプテンも堂々と入ってるんですよ!?
…そんなこと、一応先輩だしキャプテンだから言わないけどね。でも心の中ではそう返しておいた。だって『はい』って返したら、ふんって鼻の穴膨らまして満足気なんだよ、この人。幼稚園児かアンタは。可愛いぞ。

しかし、
肝心の試合内容はと言えば…雲行きが怪しい。


『……蟻明ってなんか…ズルくない?』

「さっきから暴力的…
ファウルをとってでも聖蹟の攻撃を防ごうって魂胆じゃない?」


蟻明は、相手の選手を怪我させてでも勝利を獲るつもりなのだろう。さっきから選手…特に風間を重点的に狙っている。
ほら。また風間が転ばされた。

そんな情勢を見て、監督は指示を出す…


「柄本、出番だ」

「…はいっ!」


選手交替の時間だ。





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