17番目

『…え…笠原先輩はベンチ入りしないんですか』

「……正直かなり悩んだが…な。」

『そう、ですか…』


今日は、インターハイ予選のメンバー発表の日だ。
57人中たった17人を選ぶ。あらゆる場面を想定して、最強の17人が選ばれる日。
選ばれなかった者は辛いだろう…
特に、笠原先輩のように、インターハイを最後に部をやめる人にとっては。


『お祖母さんの介護で転校するんですよね…』

「…あぁ…最後に出させてやりたいのは山々なんだが…。それより咲、さっき言ったこと、もしもの時は頼むぞ。」

『了解です。』


監督と話しながら、予選メンバー発表が行われる部屋へと向かう。チカちゃんと半分こにしてるのに…いつも運ぶユニフォームが、今日は物凄く重く感じた。


「…全員集まってるな。名前を呼ばれた者はユニフォームを取りに来るように。
ーなお、今回は水樹には外れてもらった。足の状態が万全ではないと判断してだ。」

「ガーン…聞いてない…」

『…今初めて言いましたからね。』


ショックを受けている水樹キャプテンを無視し、1番から順に名前を読み上げていく監督。
GKの猪原先輩から始まって、いつもの面子が呼ばれていく。キャプテン不在の7番には1年の風間が呼ばれた。
そして遂にー、


「次で最後だな。
17番 1年FW 柄本つくし。」


まだサッカー歴約2ヶ月なのに、柄本君は選ばれた。その事に、他の1年生は勿論、風間まで驚いている。


「ええええっ!? ぼ、僕!?
お…おかしいです! だ、だって、僕この中で1番下手で…ここにはもっとふさわしい人がたくさん…!!」

「さっきも言った筈だ。あらゆる場面を想定して最強の17人を選んだ。他に理由はない。」


柄本君は喜ぶどころか凄くショックを受けている。
まぁ…あれだけ笠原先輩のシュート練習を手伝ってたし、笠原先輩を慕っていたからな。これが最後の大会になる笠原先輩を差し置いて、自分が選ばれたことに負い目を感じているのだろう。
あまりの動揺に、なかなかユニフォームを取りに来ない。


『…ショック受けてますね、やっぱり。』

「あぁ…頼む。」

『はい。』


チカちゃんが持っていた17番のユニフォームを受け取り、それを柄本君の元へと持っていく。
あとは、先生に言われていた通りにするだけだ。


「…あ……」

『…柄本君。君は選ばれなかった者の代表でもあるんだから、あまり自分を卑下するようなことを言うな。』

「で、でもっ…」

『監督も意地悪で君を選んだんじゃない。君を見込んで選んだんだから。』


真っ青な顔をした柄本君にユニフォームを渡して、小声でそれを伝える。
これでも柄本君がウジウジするようなら…うーん、チカちゃんを派遣してみるかなぁ。チカちゃんならお尻をひっぱたいてくれそうだもの。

色々と考えている間にも、話は終わり、解散。
柄本君はやはり未だショックを受けているようで終いには泣いてるし…


『…柄も、…!
…行こっか、チカちゃん。』

「…ん」


でも、もう大丈夫そうだ。
風間が柄本君を諭しているから。
きっともう大丈夫だろう。

案の定…
しばらくしてグラウンドに行ってみると、笠原先輩と柄本君がシュート練習している姿があった。
今までは柄本君がボールを投げて、それを笠原先輩が蹴っていたけれど…
今日からはそれの逆。
笠原先輩のもと、柄本君がシュートの練習をする姿が度々見られるのであった。



(『…何とかなって良かったわ。ね、チカちゃん』)
(「…本っ当、愚直だわ。バカ柄本は。」)
(『愚直…か。難しい言葉知ってるね。』)





prev / next
[ back to top ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -