体育の時間
二泊三日の合宿も終わり、
いつもの日常がまた始まった。
ーと、思われたが…
「新しいマネージャーです。」
「1年の生方千加子です。よろしく。」
今日はいつもとは少し違った。
きっかけは、本日の2限の体育にある。
「男子はサッカー、女子はテニスだ!」
先生がそう指示するも、女子の視線は男子達に釘付け。中でも視線を集めているのは、柄本君だ。
「風間君はサッカー部なの知ってたけど…」
「うちの部って強いんでしょ?」
「かなり上手いのかな?」
「当たり前じゃん! 楽しみ〜」
学校のジャージを忘れたのか…聖蹟サッカー部独特の黒ジャージを着ているため、物凄く目立っている。
しかも、こんな時に限り風間は遅刻で不在。
柄本君の保護者的存在である風間がいたなら、きっと「オレもサッカー部のジャージを着よう」とか言ってくれていたかもしれないのに。
「この…くそがあ!
調子にのってンなよ、柄本ぉ…
チャラチャラ遊んでるだけの部に入ったぐらいでよぉ…!」
『(ムカッ…)…ねぇ、柄本君と競り合ってるの、誰か分かる?』
「え? 柔道部の吉田くんのこと?」
『吉田って言うのか…』
近くにいた女の子曰く、柄本君に何故か難癖つけている男は吉田というらしい。
喜べ吉田、貴様は要注意人物にリスト入りだ。
…まぁ、別にどうこうするわけじゃないけれど。
強豪サッカー部所属のか弱そうな柄本君
VS.
柔道部所属でがたいのいい吉田。
サッカーはチーム戦なのに、ボールの奪い合いで最早一騎打ちとなっている二人の戦い。
両者どちらも譲らずだった中ー、
「負けんなバカ柄本ぉ!!」
『…あの子って…』
大きな声で柄本君を応援したのは、生方さん。
よく柄本君をパシっているので、自然と顔と苗字を覚えちゃった人だ。
『(珍しいな…あの子が柄本君を応援するなんて)』
ヘェーと見守っていれば、柄本君が遂に吉田からボールを奪う。奪った直後、直ぐに転けて台無しだったけど…
相変わらず、根性がある。
そんなこんなで体育は終わり、風間も遅れて学校にやって来た。
私はと言えば、柄本君が体育の時につくった掠り傷を処置している。
…え? 保健室に行かせろよって?
『行け』って言っても「このくらい大丈夫だよ」と言って言うこと聞かないのだから、仕方がない。
「聞いたぜ、つくしー。
まーた生方にパン買いに行かされたんだって?」
「いやっ あの でも 風間君…」
「ダメダメ、あいつは胸の栄養が頭にいってるタイプだぜ。ねっ、咲ちゃん?」
『私の胸を見て同意を求めるな変態。
…って、あ。御愁傷様、風間。』
「ん? …いててててて!!」
「なんて程度の低い会話してんのよ…」
ぎゅううう〜ッと生方さんに耳を引っ張られる風間に合掌。ついで、柄本君の傷の手当ても終わったのでその場を去ろうとした。
けれどー、
「ねぇ。咲さんがサッカー部のマネージャーやってるって噂聞いたんだけど…本当?」
『…本当よ。あくまで手芸部との兼業だけれど。』
「…話、聞かせてくれる?」
いつもツンケンしてて恐そうな雰囲気を醸し出してる彼女が…、口を尖らせながら、恥ずかしそうにそうお願いしてきた。
…そうだ。
普段大人ぶってるけど、彼女もまだ、高校生なんだ。
『フフッ …いいよ、何から話す?』
「!」
「えっ」
「わぁ…!」
『…ぇ、なに?』
吃驚したような生方さんと風間、そして何故か頬を染めている柄本君。君達、その反応は何なんだ。
「咲ちゃんが笑った…」
『…普段そんなに笑ってないかな…』
「いえ…その、えっと、部活の時は笑ってるけど…」
「教室で笑ってるのは、私、初めて見たわ。」
『…あぁ…そういえば、そうかも。』
言われて初めて気づいたなぁ…。
ふむふむと1人納得し、そのあと、生方さんと話をした。話の内容はマネージャーの仕事内容についてで、生方さんがマネージャーをやろうか悩んでるのが直ぐにうかがえた。
…あ、これは良い機会かもしれない。
『…よかったらマネージャー、一緒にやらない?』
「……やる。」
『決まりね。よろしく、生方…えーっと…』
「千加子。生方千加子。」
『千加子ちゃん…。チカちゃんって呼んでも?』
「いいよ。じゃあ私も、紫苑って呼ばせてもらうから。」
『うん! よろしく!』
マネージャー仲間が増えるチャンス。
仲の良い女友達を作るチャンス。
マネージャーの仕事が少し楽になるチャンス。
手芸部の活動を少し増やせるチャンス。
…下2つの理由が不純だという文句は受け付けないぞ。それに何より、彼女の強い性格がサッカー部にどう影響を与えるのかを考えるだけで…
『(…面白そうっ!)』
ワクワクする。笑みを隠すだけで必死なくらいだ。
ーこうして、
聖蹟サッカー部に新しいマネージャーが加わったのである。
prev /
next
[
back to top ]