変わった我が家


『ちょっと、何でお母さん起こしてくれなかったの!?』
「残念、お母さんはちゃあんと菜也ちゃんを起こしました! 起こしたけど『あと3分…』って言ったのはそっちでしょ?」
『そうだけど〜! もう遅刻しちゃう!』
「菜也、朝ご飯食べないならお父さんが貰っていい?」
『…食べるからダメ。』


おはようございます!
中学生活が始まったばかりの奴良菜也です!! 学校は並盛中学校と言って、京都の外れに位置しています。

『…んぐっ、ひっへひはーふ!!』
「早食いチャンピオンも驚きの速さで食い終わったな。いってらっしゃい。」
「いってらっしゃい、気を付けてね!
…つぅかアンタは早く食べて会社に行きなさいよ。」
「…サボっちゃダメ?」
「私と別れたいならどうぞ?」
「…うぃっす、今日も稼いできやす!」

後ろで聞こえる声は…母・奴良鯉菜と父・奴良達也。お母さんはあんな事言ってるけど、実際は別れる気もないし、なんやかんやで二人とも仲がいい夫婦である。

『あれっ、ちょ、何で3の口が付いてきてんの!?
駄目だよ、帰って帰って!』

しょぼん顔をして来た道を戻るのは…3の口という小さい人型の妖怪。
私の家系は所謂〈普通〉とはかけ離れており、簡単に言えば…任侠一家である。しかも世間一般で言うヤクザとは違っており、妖怪の任侠一家だ。

『…ふぅ…
こっちに引っ越してもう4年かぁ。早いなぁ…』

私達は元々東京の浮世絵町に住んでいたのだが、お父さんの仕事で京都に転勤が決まった為…こうして3人で仲良くここに暮らしている。
いや、3人ではない。
3の口を筆頭に小妖怪がいくらか着いてきたため、結構賑やかである。

『…私もいつかは組を引き継ぐのかな?』

先程言った通り、我が家はヤクザ者。
奴良組を本家にして、牛鬼組や狒々組など…たくさんの傘下がいる。今奴良組を率いているのは3代目のリクオ叔父さんで、次期4代目はその息子の凍夜兄ちゃんになるだろう。

『うちは確か…藤組だっけ。』

京都に移ることになったお母さんは「じゃあついでに奴良組を大きくしてくるわ」と言って、アッサリ自分の組を立ててしまった。今まで奴良組の一員にして3代目補佐であったお母さんが、だ。

藤組という組をつくって、少人数の小妖怪と共に京都に向かうー
これを聞いた時のお爺ちゃんとひい爺ちゃん達の反応は凄かった。

『「木の棒と布の服でLv.100の魔王がいる城に向かうものだ」って…現代的な例えをしたことにビックリしたなぁ。』

どうやら京都には古くからの強い妖怪や妖を滅する陰陽師があちこちにいるらしい。しかし、「知り合いっつうか一時は共闘した仲だし、大丈夫っしょ!!」というお母さんのお気楽な言葉に、お爺ちゃん達は「これはもう何を言っても無駄だ」とギヴアップしたと言う…。


『…あっちゃー…間に合わなかった。』

ハァハァと途切れる息を整えながら、目の前にある門を見る。この並盛中学校は風紀が厳しく、抜き打ちで身だしなみや持ち物をチェックするのは勿論…チャイムが鳴ったら学校の正門が閉められる。そして閉められた門の近くには、リーゼント頭の風紀委員がそびえ立つのが毎日の日課なのだ。
遅刻をすれば、反省文3枚もしくは風紀委員によってボコ殴り。それが嫌ならば、遅刻をしないようにするか…
もしくはー

『…てれれれってれー。
こんな時は、必殺・明鏡止水〜(ダミ声)!』

姿を見えないようにして、門を超えるしかない。

『この業って本当便利だねー。』

ーそう、
妖怪任侠一家の娘であるから想像はついたかもしれないが…私にも実は妖怪の血が流れている。
その妖怪とは〈妖怪の総大将〉〈魑魅魍魎の主〉と呼ばれたぬらりひょんである。

『…8分の1しか継いでないけど、案外業を使えるもんだね〜!』

曾祖父にあたるぬらりひょんは、〈絶世の美女〉と謳われた人間の珱姫と夫婦になったそうだ。その2人から産まれたのが、半妖の奴良鯉伴…私の祖父だ。そしてお爺ちゃんはこれまた人間と結婚したため、クオーターの母・奴良鯉菜と叔父・奴良リクオが産まれたのである。

『お母さんは人間であるお父さんと結婚したから、私は8分の1だけ妖怪でしょ?
一方の凍夜兄ちゃんは…リクオ叔父さんが雪女である氷麗さんと結婚したから…あれ?』

…計算が…あやふやだ!
凍夜兄ちゃんは結局8分の5が妖怪で、8分の3が人間…で合ってるのかな!?
眠くてぼーっとする頭を一生懸命働かせつつも、教室へと向かう。徐々に近づく教室からは…担任の先生の声。どうやらもう朝の会が始まっているようだ。



(『…またもや明鏡止水の出番ですなぁ。』)

- 3 -


[*前] | [次#]

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -