▼ No interest in live
『あっ ルッス姉!』
「!
あら…こんなところで何をしてるの?」
『へへへー
この間美味しいって人気の紅茶を買ったの! だからそれを今飲もうと思って…
ルッスは? 飲める?』
「まぁ、ステキじゃなーい!
私もいただこうかしら♪」
吉村ヒナタちゃん…
彼女は一体何者なのかしら。
初めて会った時は何も思わなかったけれど、今では時々違和感を抱いてしまう。例えば、彼女の存在感のなさ。
「それにしても、本当あなたって気配を消すのが上手ねぇ…また分からなかったわ。」
『そうかなぁ…別に気配を消してるつもりはないんだけど。』
気配を消すなんてものじゃなくて、本当に存在感がない。勿論、意地悪で言ってるつもりも決してない。
ただ本当に…まるで元からそこに存在していないかのように、彼女は存在感がないのだ。
それこそ、
「ベルやスクアーロも気が付かないのよ?
案外暗殺の素質があるのかもね〜!」
彼女が物音を立てたり話しかけたりしない限り、私達は彼女の気配を察することができないのである。
〜 No interest in live 〜
最初は気のせいだと思った。
油断していたから、彼女の存在に気が付かなかったのだと。でもそれは悔しいけれど思い違いだった。
「う"おおぉぃ! ぬっと出てくるんじゃねぇ!」
『えっ、言っとくけど私ずっとここにいたよ。それもスクアーロよりも先に。』
「お前存在感薄すぎなんだよ。キッモ。」
『目ぇ隠して自称王子なアンタの方がキメェ。』
「死ね。」
『バリア。』
「あらいやだ! 鍋の蓋がないと思ってたら、あなたが持ってたの!?」
ベルちゃんの投げたナイフを、ヒナタはいつの間にか持っていた鍋の蓋で防ぐ。修業のせいかが出てきてるのか、それとも端から投げられるであろうことを予想して用意してたのか…どちらにせよ、鍋の蓋を防具に使わないで欲しい。
あの鍋、質の良いやつなのよ。
「なぁ。サボテンにされるのと、ワイヤーで首が跳ねるのどっちがいい?」
『うーん…ワイヤーかな。』
「そこは殺さないでって言うところじゃないの?」
『え、マーモンが守ってくれるって?
ありがとう、惚れるわ。』
「守るだなんて一言も言ってないし、君に惚れられても何もメリットがないよ。」
『ん? "ありがとう"って天使な笑顔がご褒美として貰えるよ?』
「ご褒美じゃなくて罰ゲームの間違いじゃね?」
「違いねぇ"」
彼女の存在感の薄さは何に起因しているのだろう?
この世界に彼女のデータがないことと何か関係しているのかしら…それとも、
「ねぇ、ヒナタ。
あなたって"死にたくない"って思わないの?」
『…え?』
「だって、いつも"麻酔して寝てる間に殺して"とか"痛みを感じないように殺して"って言うじゃない。」
生きることにそこまで執着がない…
それが、彼女の存在感のなさの原因だろうか。
『んー…半々かなぁ?
死にたくないような気もするし、死んでもまぁいいやって感じ。だってさ、私はこの世にはいない人間なんでしょう? 死んだら元の世界に帰れるかもしれないし…』
「そうだけど…もし帰れなかったらどうするのよ。そのまま死んじゃうのよ?」
『良いじゃん、別に。どうせ人間なんていつかは死ぬんだし、早いか遅いかの違いでしょ。それにさ…ここで死ぬのも良いと思うんだよね。この世界なら、私が死んでも悲しむ人はいないでしょう? だから、思い残すことなくいつでも死ねる。』
そう言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。
嬉しそうに、屈託のない笑みで。
確かに…この世界に彼女のことを知ってる人は私達以外にはいない。だから悲しむ人もいないと言うのも分かる。
でもそれは、言い換えたら…
「じゃあ元の世界では、あなたが死んで悲しむ人達がいるから、あなたは死なないでいたっていうの?」
『…あはっ まぁ、それもあるよね!』
「それも?」
『普通に人生楽しんでたよ、私なりにね。』
「ふーん…ここが君のいた世界だったら、君は"殺さないで"って言ってたのかい?」
『そうかもねー、多分。』
「つまんねー。そっちの方が殺し甲斐があって楽しかったのに。」
『死にたくない人を殺す方が楽しいとか…ベルってやっぱり性格悪いよね。』
私達は暗殺部隊ヴァリアー。
仲間が死ぬことは勿論、仲間を自らの手で殺すときもあるほど野蛮だという自覚はある。そしてこんな稼業だからこそ、仲間の死に一々狼狽える精神も持ち合わせていない。
だから仮に吉村ヒナタの暗殺命令がくだれば、私達は直ぐに彼女を殺してしまうだろう。
でも…
『お願いだからさ、私を殺すなら痛みで苦しまないように殺してね? この約束破ったら地縛霊となってお前ら全員の枕元に立って夜な夜な怖い夢見させるからな? オネショさせてやっからな?』
「塩まくし。」
「言っとくがオレは霊感なんざねぇぞぉ!」
「術師の僕はそういうの全く怖くないけどね。」
「ヒナタちゃんが来るなら私は毎晩紅茶をお供え物として用意しとくわね!」
『何なの皆。私を死なせねぇとか格好良いことの1つや2つ言えないの?』
あなたは自分が死んでも悲しむ人達はこの世界にいないって言うけれど、その事実は保証しかねない。だって、他の皆はどうか知らないけれど…私はもうあなたがいないと寂しいってきっと思ってしまうから。
「フフッ…ヒナタがここに来て、皆どうでもいい雑談が増えたわよねぇ〜!」
「そうかぁ?」
「仕方がないよ、ヒナタは頭が悪いから難しい話ができないし。」
「そーそー、マーモンの言う通り。」
『つまり会話内容のレベルを下げてまで皆私と話したいってこと? 皆私のことどんだけ好きなの?』
その言葉に皆は勿論、暴言を含めて否定の言葉を吐いている。それでも、ヒナタに向けられるベルちゃんのオリジナルナイフやスクアーロの剣の太刀筋が本気でないのは丸分かり。彼女がそれを避けられるのも鍋の蓋で防ぐことができるのも…それは全部彼らの計らいなのだ。
暗殺を稼業として好き勝手やってる私達が、人に優しくするなんて(仕事じゃない限り)到底無理な話。つまり…これが私達なりの精一杯なやり方なのを、彼女には何となく察して欲しい。
「…と、その前に、
ヒナタちゃん、いい加減鍋を盾にするのやめてくれるかしら?」
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