New LIFE


「なぁ、お前あんなところで何してたの。」

『ヴェネチアを探検してて、気が付いたらあそこにいたんだよね。』

「何言ってやがんだぁ…ここはヴェネチアじゃねえぞぉ!」

『ですよね。路地裏歩いてたら車を見付けたのでオカシイと思ったんですよね。
…ところで、私は何処に向かってるんですか。ヴェネチア? 送ってくれるの? ありがとう。』

「送るわけねーだろうがクソガキぃ!」

「ししっ 送るとしたら冥土へ送ってやるよ。」


ですって、皆さん。
どうやら私が乗せられてるこの高級車は、これから冥土へと向かうそうです。
…冥土って天国かな、地獄かな?






〜 New LIFE 〜





キキッと車が止まったのは、大きなお屋敷の前。てゆうかお城? 街から離れてどんどん森の中を進んでいると思ったら…まさかこんなところにこんなのが建っていようとは。隠れ家かよ。


『写真撮ってもいい?』

「ししっ 首が転がってもいいならいいぜ。」

『やめて、殺すなら睡眠薬とか麻酔でグッスリ寝てる時に殺して。』

「くだらねぇこと喋ってねぇでとっとと歩けぇ!」


私達を追い抜いてズカズカと先を行ったのは、確かスクアーロさん。髪の毛がそこらの女子よりも長い銀髪サラサラヘアーな持ち主。後ろ姿からしたら"優しい王子"だと思ってしまいそうだが、正面から見て更に声を聞けば『そっちかよ』みたいな。


『ダミ声だし…目付き悪いからちょっと怖いな、あの人。』

「うっせーだけだろ。それに目付き悪い奴なら中にたくさんいんぜ?」

『ベル君は? 前髪長くて見えないけど、お目目クリクリぱっちり系? それともスクアーロさん系?』

「オレは王子系。
つーか君付けやめろよ、気色悪ぃ。」


彼の名はベルフェゴール、略してベル。
歳が近そうだから話し掛けやすい。でも危なそうな奴。例えばこの目が見えない長ったらしい前髪に、このティアラ。何を考えてるのか分かりゃしない。
それに…何よりも物騒だ。


『いだっ、ちょ、人の二の腕をナイフでつつくの止めてくれない? 血が出たじゃん。』

「止めねぇよ、だってオレ王子だもん。」

『仮に本当にアンタみたいなのが一国の王子だったら世も末だわ。痛いっ!!』


そんなやり取りをしつつも、たどり着いたところは大きな部屋。談話室…というかリビングみたい。豪華なシャンデリア、豪華なソファー、豪華なテーブル、そして豪華なオカマ。


「あらまぁまぁまぁ! あなたがヒナタちゃんね!? 可愛いじゃな〜い!」

『ありがとうございますぅ、お姉さんもカッコキレイですね。』

「カッコキレイ? 何かしらそれ?」

『カッコよくてキレイって意味です。』

「いやだぁ〜 もう、お上手ねぇ〜!」


彼というべきか、彼女というべきか…
取り敢えずそのオカマはルっスーリアというらしい。サングラスでモヒカンっぽい髪型でマッチョでオカマで何を目指してるのか分からないけど、オカマに悪いやつはいない。きっとルッスーリアさんは良い人だ。

その後はしばらく…
ルッスーリアさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ベルと3人で今日あったことを話した。「不思議ねぇ」なんてルッスーリアさんは言って、ベルは「本当かよ」って信じてなくて。
でもまぁ…ベル達に頼んでヴェネチアに帰れば何とかなるだろうと思ってた。どうやら私を殺すつもりは今のところなさそうだし。

けれどー


「う"お"おぉぉい! てめぇ何者だぁ!?」

『っ!?』

「どうしたのスクちゃん!」

「…何か分かっ……何だこれ。」


扉を吹き飛ばす勢いでやって来たスクアーロさんは、私の喉元に剣を突き付けた。ガチャンと落ちたコーヒーカップは割れ、静けさが部屋を支配する。聞こえるのは…ベルがスクアーロの持ってきた書類を捲るペラペラという音。


「吉村ヒナタ…お前の情報が一切ねぇって。」

『…え…?』

「てめぇの持ってたパスポートや運転免許証、保険証…全て調べさせて貰ったが、見付からなかった。どういうことか説明してもらうぞぉ。」


つまり、私は今"存在しない"人間ということか? そんな私を彼は疑っているということか?
これは…疑いを晴らさないと確実に酷い死に方をするパターンじゃないか。最悪拷問をされる可能性もある。

それは嫌なので、慌てて私は全てを話した。

プライバシーもくそもない。親戚の名前から住所、電話番号、私の通っていた学校、お友達、SNSのアカウント…自分を証明できそうなものを全て打ち明けた。

そして最終的に分かったことはー


「君の家族も友達も、君が存在していた証もここには1つもない。でも確かに嘘はついてない。…となると考えられるのは、君は迷いこんだんじゃないかな。」

『迷い、こんだ…』

「パラレルワールドとか異次元とか異世界とか、そういうの。」

『なるほど。確かに…それならヴェネチアから見知らぬ土地にいたのも納得できるかもしれない。したくもないけれど。』


私はどうやら、似てるけど微妙に違う世界へ来たそうです。


  

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