この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 苦痛の叫び

「! …先輩…」

「お姉さん……」


宝船が飛び去った後、清十字団と坂本先生がいる部屋に来た。


『…怪我は、ない?』


こちらを見る清十字団にそう問いかければ、大丈夫だとみんな首を縦に振る。
…みんな、目が腫れている…
先生が亡くなったから、
私が先生を殺してしまったから、
随分と泣いたのだろう…。担任ではないものの、皆も先生のことを慕っていたのだから当然だ。


『…許さなくてもいい。軽蔑してもいい。
私のことを…呪ってもいい。
ただ、私事で…皆が大好きだった先生を殺したことについて謝らせて欲しい。
ごめん、…なさい。』

「な…先ぱっ…!」

『リクオは多分、ここには帰って来ない。』

「…え? どうして…」

『怪我が酷いから…治す為にとある場所でしばらくの間眠るの。だから、学校も多分数週間は休むわ…。
…あぁ、そうだ…
今日帰る時は念のため護衛を誰か付けるから。
だから帰る時は適当にそこら辺にいるやつに声掛けてね、それじゃ。』


カナちゃんに清継、巻や鳥居も私の名を呼ぶが…
それを無視して、明鏡止水を使いその場を去る。







『……バッカみたい…っ!』

もしかすると、
奇跡でも起きてるんじゃないかって期待した。

『自分が…殺したくせにっ!!』

死んだと思った坂本先生が実は生きてるんじゃって…
虫がよすぎる妄想して…。

『兄さんにも…何も言えなかった…!』

私の態度が…兄さんを傷付けてた。
本当に些細なすれ違いだったんだ…。

『…何で、…いつも後悔してばかりだ…っ』

こんな自分に…心底嫌気がさす…。





悲しみ、憎しみ、罪悪感、後悔…
色んな感情がどろどろに混ざっていてー
それがどうしようもなく辛くてー
感情が制御できなくてー
…ただただ、気が付けば…地を叩きながら泣き喚いていた。自分の拳を何度も何度も…意味もなく砂利にぶつけた。尖った小石で血が出るのも気に止めずに、一心不乱にやり続け、手には傷が増えていった。


「…いっ…!」


だがー
突如、今までとは違う感触が手に当たる。
そして痛みにもれる声…


『!! お母…さん!?
ご、ごめ…なさいっ! ああっ…今治すからっ!!』


地面と振り下ろされる私の手の間に、お母さんが自らの手を入れたのだ。
勿論その事に気付かなかった私は、そのままお母さんの手に思い切り…自分の手を振り下ろしてしまった。
慌てて治癒で治そうとするも、抱き締められてしまいそれが叶わない。



「…ふふっ、やっと見つけた!
鯉菜は昔から隅っこが好きだもの…元気がない時はいつも塀のどこかの角に隠れてたわね〜」

『お母さ…っ 手が…なおさないと!』

「こんなのヘッチャラよ!
鯉菜ちゃんの苦しみに比べたら…何ともないわ。
…ねぇ、鯉菜
お願いだから…一人で抱え込まないで?
私達家族でしょう?
少しは甘えて、頼って、弱音吐いて、助け求めて…、
喜びも怒りも哀しみも楽しみも…
全部私達に分けてちょうだいよ。」

『…っ………でも…』

「でないと、
お母さんもお父さんも…おじいちゃんも、リクオだって…ここにいる全員、寂しいじゃないの。
自分から…距離を置こうとしないで?
何のための家族か分からないわ。」

『ふっ…ぅう、うあああぁぁぁっ!!』



お母さんのその言葉に、最早私のリミッターは機能しなくなってしまう。
赤子のように、自分の心の声を吐き出すかのように、
ひたすら泣き続けた。



『…坂本先生に…会いだいっ…!!
もう会えないなんて…死ぬなんてやだよぉっ!!
自分がっ…坂本先生を殺じだ自分が憎いっ!!』


坂本先生に会いたい…
坂本先生を殺した自分が憎い…
「もしも」なんて考えても現実は変わらないのに考えてしまう…
もっと考えてたら先生を助ける手段を見つけられたのでは…などなど、胸の内に思ってる事を全て泣きながらぶち撒けた。
私が子供のように泣いている間、お母さんはずっと「うん…」「そうね…」とただ相槌だけうって抱き締めてくれていた。

途中、お父さんやおじいちゃん…奴良組の皆が「何事だ」と覗きこんだような気がするが…
理性もなく泣き続けていた為、この時の事はよく覚えていない……。




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