この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 泣き虫

「「「エイエイオー!!」」」


どうもどうも。こんばんは。
ただいま23時を過ぎた所です。
先程…竜二率いる花開院達が先に葵城へと向かいました。天海の封印をなんとか解ける術を見出したらしい! 凄いね!! 私は少し話を聴いてたけど全く分かんなかったぜ!!

まぁそんな訳で…
「子の刻に葵城へ来い」と竜二が言い残して行った為、今目の前では決起集会が行われています。皆さん武器を片手にさっきからエイエイオーと叫んでるなう!
ちなみに私は夜の姿でそれを傍観してます。
え? 一緒にやれって…? うーん…男だらけだからちょっと入りづらいッス!!


「リクオ…鯉菜…ちょっといい?」


盛り上がってる中、急にそう言って現れたのは私たちの母である若菜さん。


『お母さん?』

「みなさん、ちょっと…
2人をお借りしますねー」

「おおい!!どこ行くんだよ!?
やめっ…手ぇつかむなって!!」


私とリクオの手を掴み、グイグイと台所の方へと向かうお母さん。
着いたところは台所と繋がってる小さな居間で、そこには既にお父さんが座っていた。


「よぅ、お2人さん」

「2人ともそこ座ってて♪」


お母さんの言葉に、リクオと顔を見合わせながらも取り敢えず座る。
私とリクオは隣同士で座り、リクオの目の前にはお父さんが座っている。お母さんは…台所でお茶を入れているようだ。


「…いよいよだな」

「お、おぅ…何だよ改まって」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか。
鯉菜みたいに肩の力抜けよ」

「…姉貴はただの考えなしだからだろ」

『は?』

「お茶はーいった♪ おまたせー」


湯を沸かすシュオオ…という音をBGMに3人で話していれば、お茶を持って私の前に座るお母さん。
そして…お茶を4人分の湯呑みに入れて、各自の手前に置く。


「フフ…こーして夜と改まって話すのは初めてかも?
なんだか緊張するわねー」

『…そうは見えないけど、ねぇ?』

「あぁ…見えんな」


お母さんの言葉に、リクオと苦笑いして返せば小さな笑いが沸き起こる。
その笑いが自然と止んだところで、お父さんがゆっくりと口を開いた。


「リクオ、鯉菜ー
お前たちをここに呼び出したのは他でもない…
半妖の里のことを話そうと思ってな…」

「半妖の…里?」

「お父さんと結婚する時、そこに2人で行ったことがあるの。
…人と妖が結ばれるってことを、そして…これがオレの理想の世界なんだって…言いたかったのよね?」

「…ハハッ、やっぱ若菜にはバレるなぁ…。
…リクオ、鯉菜…そこはな…ちゃんと人と妖が共存する社会なんだ…」


いつもの不敵な笑みではなくー
本当に、心から嬉しそうな笑みを浮かべるお父さん。
きっとお父さんの目には…人と妖が一緒に暮らしてる世界が今見えているのだろう。


「…そこって…オレらも行けんの…?」

「あぁ」

「そこの里にいる人は…幸せなのか…?」

「そうだな…色んな人がいるが、里のみんなは温かく迎えてくれたし、笑ってたぜ」

「だって…みんな好きでくっついてるんだもん!
幸せに決まってるわ…」

『…ッ』


にっこりと笑うお母さんとお父さんに、何故か次第に目頭が熱くなる。
あぁ、お父さんは今…お母さんの隣にちゃんといるんだなぁ…
そう思うと、あの時お父さんをちゃんと助けられて良かったと心底思う。


「リクオも鯉菜も真面目だから、
昔っからお母さん達のいうことよく聞く子だから…言うね!
リクオ、鯉菜…好きよ
大好き…死なないでね」

「……母さん…オレの戦う男も…半妖なんだぜ。
オレと同じなんだ…そいつはその血を使い、人と妖…両方の上に立とうとしている。
母さん…親父…
オレ…終わったらその半妖の里に行ってみるよ。
親父が母さんに見せたかった景色を…この目で見たいんだ…
…姉貴ももちろん行くだ…ろ……
……何泣いてんだよ…姉貴」


こちらを見てギョギョっとするリクオ。
お母さんの隣にお父さんがいることが…凄く嬉しいんだから仕方ないでしょ!!


『泣いてないし! 私も半妖の里に行くし!!』


慌てて袖で涙をゴシゴシ拭くも、時既に遅し…号泣してんじゃねーかと突っ込まれる。


「姉貴って…案外泣き虫だよな。
…じゃ、そろそろ行くわ。姉貴、行くぞ」


立ち上がるリクオに、
私も次いで立とうとすればー


「あ…鯉菜はまだここにいて?
まだ話すことがあるから!」

『? わかった、じゃあ先に行っててリクオ』

「…おう」


先に「いってくるぜ!!」と氷麗と共に去るリクオ。やっぱ氷麗外でこっそり聴いてたんかいと内心ツッコミながらも、3人で2人の後ろ姿を見送る。
そして2人の姿が見えなくなった頃…


「鯉菜ちゃん、
前世のこと…お父さんから聴いたわ」


ハッとしてお母さんを見れば、ぎゅっと抱き締められる。
…暖かくて、優しい…温もりだ。


「話してくれて…ありがとう。
お母さんね、話聴いてて思ったの! 貴方が私達の子に産まれてきてくれたのは、神様からのプレゼントだって!!」

『神様…からの…? どうして…?』


あんな醜い過去があるのに…性格が歪んでいた私が来たのに…


「家族が大事だったんでしょう?
だから…家族を守る為に、自分を犠牲にして秘密を黙ってたのでしょう?
そんな強い貴方だから、神様は私達の元に贈ってくれたのね…
やんちゃで活発なリクオを、昔から鯉菜はよく守ってくれたわ。
鯉伴さんだって…貴方がいなかったら、今頃ここに居なかったかもしれない!
鯉菜…私達の子に産まれてきてありがとう
貴方は…強くて優しい、私達の自慢の娘よ」

『お母…さん…!』


優しさは…時に残酷だ。
こんなにも心を乱すんだからー
胸が熱くて苦しい。


「鯉菜…
オレは乙女に刺された時…正直〈オレは許されてなかったんだ〉って…諦めそうになった。
だがなぁ…あの時お前が居たから、オレは直ぐに生きようと思えたんだ。
乙女との過去から…ようやく歩き進めたのはお前がいたからだぜ?
だから今度は…お前さんの番だ! 前に進め!」


私に目線を合わせ、力強い目でそう訴えるお父さん。一方、頑張ってね!と笑顔で背中を押すお母さん。そんな2人を見て、この家に生まれて本当に良かったと心から思う。


『…ぅん…!
お母さん、お父さん…ありがとう!!
行ってきます!!』

「行ってらっしゃい!」

「存分に暴れて来な!!」


2人に見送られるのを背に感じながら、振り返る事なく走る。
向かう場所は決起集会が行われていた庭…


葵城出撃時刻である子の刻まであとー20分。




(『今頃竜二やゆら達は頑張ってんだろうな…
ーあぁ!!ゆらのロン毛姿まだ見てねぇ!!』)




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