この手に掴んだ幸せを(ぬら孫) | ナノ

▽ 大きくなりました

かつて人は妖怪を畏れた
その妖怪の先頭に立ち 百鬼夜行を率いる男
人々はその者を妖怪の総大将ー
あるいはこう呼んだ
魑魅魍魎の主、ぬらりひょんとー


「お嬢、朝ですよ。起きてください。」

『……んぅー、もう朝かー……』


毛倡妓に起こされて、嫌々起きる。遅寝遅起な私には学校がある日は辛い。


『ふぁ〜…』


朝一番にすることは、洗面所でうがいをして顔を洗うことだ。うがいをせずに、寝起きで食べ物とか水を飲んだら体に悪いらしい。だから朝一のうがいは大切だ。


『ん?』


部屋に戻る途中、庭からリクオの笑え声が聞こえた。


『朝から元気だねぇ、何してんだろう。』


声のする方へ向かうとあら不思議。雪女がぶら下がっている。いや、正確に言えば、木にロープで吊り下げられている。あれはリクオの仕業だな。


「あいつ、どこまで探しに…」

「あ!何じゃ雪女その格好は!」

「おろして〜」

「誰がこんなことを…!」


吊り下げられた雪女を降ろしに、青と黒が親切にも駆け寄るがー


「「いっ!?」」


リクオの第二の罠、落とし穴にまんまと引っ掻かって真っ逆さまに落ちる。


「なんじゃあああああああああ」

「おちるおちる」

「ま・・・またやられたああああああ」


お前ら学習能力ねぇなーなんて内心思っていれば、そこにリクオが笑いながら小妖怪たちと現れる。
大きくなったもんだ。もう小3だ。ちなみに私は小5。2回目の小学校なのであまり真面目な生徒ではない。


「あっ…やっぱり若様が!」

「お前ら〜!」

「ま、待ちなさい若っ…」


リクオと小妖怪たちを叱る二人に対して、リクオらは楽しそうに逃げる。


「! お姉ちゃんだ、おはよう!」

『おはようリクオ。』

「お姉ちゃん見て!雪女と青と黒をゲットしたよ!」

『凄い凄い!でも雪女は女の子だからあんまり酷い事しちゃダメよ?』


そう朝の挨拶を交わしていれば、


「おっ、朝からやってんな〜リクオ。」


叱るべき所をむしろ褒める親馬鹿鯉伴が現れる。


『お父さん、青と黒を引き上げてやってよ。私は雪女降ろすためにハサミ持ってくるから。』

「しゃーねーなー…」

無駄に長い頭を掻きながら、ダルそうに歩いて行くお父さんを見送った。お父さんも甘いなぁ…本当の戦いはここからなのに。


『……リクオ』

「なに?」

『落とし穴はね、落とす為だけの穴じゃないの。
落ちた者に逃げ場を与えずに、更なる嫌がらせをする為のものよ。お姉ちゃんを見ていなさい。』


そう言って、勢い良くスタートダッシュ!
そして途中で地面を蹴りあげ、足を前に突き出す。着陸地点は、青と黒を助けようとしているお父さんの背中だ。


「うおっ!?」


ゲシッと綺麗に私の飛び蹴りが決まれば、後は雪崩のように落とし穴に落ちる3人。
だが…


『まだまだぁ!納豆ちゃん!四時の方向に納豆大量発射!!』

「へっ!?へ、へい!!」


急に名を呼ばれた挙句に命令され、訳もわからず言う通りにする納豆小僧。ドバヌメっ!と出てきたのは納豆の滝。
勿論、飛んで行く先は…


「「「ぎゃ・・・ぎゃあああああああ!!!」」」


落とし穴の中にいる3人である。
青と黒はまだともかく、鯉伴に納豆を噴射した事実に気付いた納豆小僧は青ざめている。巻き込んでごめんね納豆ちゃん。
そして3人の悲鳴をBGMに雪女を降ろし、キラキラと目を輝かせているリクオのところへ戻る。


「お姉ちゃん凄い!僕お父さんを罠にはめれたことなんて一度もないのに!」

『ふふん、相手が警戒していない時に狙うのがポイントよ』

「そっかー!
そういえば僕、おじいちゃんとこの後ラーメン食べに行くんだった!お姉ちゃんも行く!?」

『朝からラーメンはキツイなー。また今度ね!』

「そっかー、分かった!」


走り去るリクオを見送り、庭へと視線を移せば…


『なんだ…青と黒、もう出られたんだ。』


視線の先には、何とか這い出た二人の姿がある。
可哀想なことに納豆と泥まみれである。
ーあれ、オカシイゾ。


『…お父さんがいない?』


…非っ常〜に、嫌な予感がする。


「よう、鯉菜…息災かい?」


後ろから声がする。
奴だ、納豆泥まみれで納豆臭い野郎に違いない。
ギギギギ…とロボットのようにゆっく〜り後ろを見る。そして見て後悔。笑ってるけど目が笑ってない。


『…あっは☆ とんだ災難だったね!鯉さん!』

「くくく…そうだなぁ、何でだろうなぁ…!」


ガッシリと頭を掴まれる。ちょ、痛い。破裂する。トマトのようにグッチュグチュになる!


「覚悟はできてんだろうなぁ!鯉菜さんよぉ…!!」

『ひっ…いやぁあああ!!!』


(『お父さんの長い頭からたくさんの納豆が糸で落ちていく様を見て、まるでレスキュー隊のロープ降りみたいだったと思ったのは私の胸の内に秘めておこう…。』)




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