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深夜1時

お風呂上がりに無性にアイスが食べたくなったので、寝巻きにダウンを着込んで家から数分のコンビニまで歩いた。

「あっ」
「ん?あぁ…こんばんは名前さん」
「こんばんは安室さん」

コンビニに着いてアイスコーナーを物色しているとき、ふと顔を上げるといきつけの喫茶店店員である安室さんが商品を手にとっている姿が見えた。へぇ、安室さんも缶コーヒー飲むんだ。

「こんな夜中に外出なんて関心しませんねぇ」
「ふふっ安室さんったら心配性だなぁ。そっからそこまでなので大丈夫ですよ?ほらっあそこですから」

そう言ってコンビニの窓から見える範囲にあるマンションを指さすと安室さんの眉間に皺がよった。

「…そうやって男性に自宅を簡単に教えるのもよくないですよ?」
「私だってちゃんと相手くらい考えますよー。よく知ってる安室さんだから安心できますし」
「…ほぉ」

「それより安室さん、今日はスーツなんですね。なんていうか…いつもよりキリッとしてて格好良いです」

安室さんの格好といえば、ぱっと思い浮かぶのはハイネックのニットにポアロのエプロン姿なので、グレースーツに身を包む安室さんはなんだか新鮮。
いつもの姿も素敵だがスーツ姿の安室さんもしっくりくる。やっぱりイケメンさんにはどんな格好でも似合うってことか。

「あぁ…ここ数日は探偵業の方だったもので」
「なるほどー、こんな遅くまで大変ですね」
「いえいえ、好きでやっていることなので」

お喋りしながらアイスを手にとってレジに向かうと、安室さんも目的のものは近くにあったのか、さっとカゴに入れて隣のレジに向かった。

一緒にコンビニを出たところで、それじゃあまたと別れようとすると腕を引かれた。

「先ほど流れで言いそびれたんですが…」
「?どうしたんです?」
「最近引越しをしまして」
「はぁ」
「それが先ほど名前さんが指さされたあのマンションなんですよね」
「へっ」
「なので送ります」

にっこり笑い腰に手を回されたかと思えば車の側に誘導された。安室さんは、さぁ乗ってくださいと助手席の扉を開き私が乗るのを待っているので、ここまできて断るのもなんだしせっかくの好意に甘えて乗せてもらうことにした。

「そんな偶然あるんですね」
「僕もびっくりです。これもなにかの縁ですし何か困ったことがあれば僕を頼ってくださいね」
「それってどちらかというと、引っ越してきたばかりの安室さんに私が言うセリフだとおもいますけど…」

運転をする安室さんの横顔を何気なく見つめていると、うっすら隈ができているように見えた。スーツも少しくたびれているようだし、やっぱり探偵業って忙しいのかな。

「まぁまぁ、今回のように遅くに出かけるときは声を掛けていただければお送りしますよ?」
「そんな程度で安室さんを呼べるわけないじゃないですか!」
「ははっ」

他愛もない話をしている間にマンションに到着し、地下の駐車場に車を止めてエレベーターへ乗り込んだ。

何回ですか?と聞く安室さんに「7階です」と返すと7階のボタンが光り扉が閉まった。

「えっ安室さん階数まで一緒なんです?」
「えぇ僕も7階なんです…ひょっとしたらお隣さんかもしれないですねぇ」
「ははっまさか!そんな偶然あったら少女漫画の域ですよ」
「ふふっそうですね」

チンと音が鳴り扉が開いた。私の部屋は角部屋の710号室なので、この中央エレベーターから右手奥に行く必要があるが、安室さんは自然な流れで右手に進んでいくのでこれはもしかしたらもしかする?とだんだん確信に近い予感がしてきた。

「僕はここなんですが…」
「少女漫画でしたね。いやびっくりです。きゅんきゅんラブストーリーでも始まるの?なんなの??…っあぁすみませんあまりにびっくりして」
「ふふっいいえ、あなたのそういうところ好きですよ」
「すっ…安室さんっ!好きだなんてそう軽々言っちゃダメですよ!安室さんはイケメンさんなんです!とってもかっこいいんです!女性は簡単に勘違いしちゃうんですからね!」

両肩を掴んで、いかに安室さんが素敵で、ポアロではどれだけ女性の視線を集めているのか伝えたが、当の本人は真剣に語る私を見てふふっと笑うと、肩を掴んでいた私の手をとり両手で優しく包み込んだ。

「名前さんは勘違いしてくれないんですか?」
「え?」
「僕はあなたとなら、その"きゅんきゅんラブストーリー"もいいなと思いますよ」

最後に甘い笑みを浮かべて私の額にキスを落とすと「それでまた、おやすみなさい名前さん」と言って部屋に入っていった。

「へっ?…っええええ!!?」


部屋に入ってからもしばらくぼうっとしていたのか、買ったアイスはすっかり溶けきってしまった。
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