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避けるったら避ける!

※モブ公安主

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「悪い、苗字。これ任せてもいいか」

キーボードを叩いていた手を止め、机にバサリと置かれた資料へ視線を移す。

『えぇ大丈夫です。…会議までに、ですね』
「あぁ、A室16時に40だ。頼む」
『はい。』

用件を告げて颯爽と去って行く降谷さんの背中を見送り、チラっと、壁にかかる時計を確認する。現在14時55分…渡された資料を項目ごとに纏め、コピーをとり、16時にA室へ40部持ってこいとのお達しだ。…鬼だ。パラパラとめくるといくつか出てくる黄色い付箋に、"グラフ化"と書かれている。降谷さんんんっ!

降谷さんの任せてもいいか、のお願い事に、ここ最近慣れてきたとはいえ、毎回めちゃくちゃ必死にやらないと終わらないギリギリの仕事量ばかりだ。




やっとこさ資料を纏めてグラフ化まで終わらせ、現在15時40分!コピーしてホチキスで留めてA室ね。ううんよし行ける!大丈夫。そう、私、やれば出来る子!


会議中にスクリーンへ映すなり説明するなり諸々対応出来るよう、印刷前に資料ファイルを降谷さんのノーパソに送信しておいた。あとは出来上がった冊子にミスが無いか最終チェックして持っていくだけとなった。壁を見ると15時55分。完璧じゃん。

「苗字さぁん、お疲れ様ですっ!私が持って行って行きますよっ」

ほわほわとどこか抜けた雰囲気を持つこの子は、本当にいろいろ抜けているこの物語のヒロイン、白乃天使ちゃん。

悪魔と書いてデビルと読む、キラキラネームとやらをテレビで見たことあるが、この子はそのまま、しろのてんしちゃん。すごいよね、フルネームから圧倒的ヒロイン感。

本来なら他の業務もあるため、お願いしたいところ。だが、この世界に転生する前、ーーつまりこことは違う世界で生きていた頃に読んでた私は知っている。

…この世界のヒロインである白乃が、あらゆるハプニングを起こしまくるハチャメチャストーリーである事を。読むのは楽しかったんだ読むのは。けれど実際にされるのはまた違う話でして、えぇ。今まで何度かハチャメチャになる前に阻止したが、ヒロインは次から次へハプニングを呼び込むのだ。

このまま資料をもたせると、途中で先輩女性に連れていかれその後資料ごと水浸しだったか。…それは困る。私の評価に響く。

お願いします、と適当なコピー紙を渡して白乃が行ったところで自分も立ち上がりA室へ急ぐ。


ーーーー

A室の扉を静かに開くと、各部署の報告が終わり落ち着いた所だったのか「では、」と降谷さんが立ち上がった。その際一瞬目があったので頷き、資料を配りはじめる。

「ーー以前お話させて頂いた件について、今からお配りする資料をご確認ください。…まず、資料1ページ目にあるグラフ、こちらがーー」

無事資料を配り終えて安堵する。とりあえず1つ目の任務完了だ。資料が間に合わずに私の評価が下がることも、降谷さんに赤っ恥を欠かせることも回避できた。…本当によかった。

と安堵するのはまだ早い。
音を立てないよう気をつけ、足早にA室を出て隣の給湯室へ向かう。そこにはやはり白乃と先輩女性。

普段からミスの続く白乃に対し、自分たちがいかに誇りを持って仕事に臨んでいるか、白乃にはもっと自覚を持って行動してほしいというお説教中だ。

いわゆる愛の鞭なのだが、お説教を受けている白乃は怒られ慣れていないのだろう、涙目だ。

この後、熱量のあるお説教に後ずさって転んだ結果、足元のバケツに引っかかり、自ら水を被り悲鳴をあげることになる。

さらには悲鳴を聞いて駆けつけた会議中の上司達から、企画課内でいじめか、と勘違いされ信頼度が下がる、なんてことになるのだ。やめてくれ。

なんとかこの流れを回避するためバケツを避けておき、先輩女性の側へ移動する。

「あら苗字じゃないどうしたの」
「苗字さん…?」

気づいた先輩に声をかけられ、同じく気づいた白乃はキョトンとしている。

『…お恥ずかしいんですが、先ほど白乃に渡した書類に、記載漏れを思い出したので引き取りに来ました』
「えっ!」
「ふふっ、あなたもそんなミスするのね」
『えぇ、久々にやってしまいました』

嘘も方便。資料を受け取り、いくらか穏やかになったその場を背に企画課への道を進む。ふぅ、ハプニングイベント1つ回避だ。

ーーー

自席に戻り、書類を渡される前の自分の案件に戻る。ここまでは今日のうちにとノルマを決めてひたすらキーボードを叩いているとしばらくして、廊下が少し騒がしくなった。

その原因はすぐ分かる。

「ーー白乃。さすがに鈍臭いにもほどがあるぞ」
「あっはっは、でも今回のは笑ったわ」
「んもう、先輩方〜っ!笑わないでぇっ!」

扉が開いて入ってきたのは、濡れている髪はそのままに、洋服の左右をぎゅっと握り顔を真っ赤にした白乃と、大笑いしている先輩女性、そして呆れたように笑う降谷さん。

…バケツ避けたはずだが、水浸しハプニングは回避できなかったのか。でも穏やかな2人の表情から、会議中では無かったのだろうと察する。良かった。

降谷さんはハンカチを取り出し、白乃の頭を拭いてあげている。

その光景に、今回もなんとか平和に乗り切れたなと実感する。


ひと通り白乃の頭を拭ってあげた後、そのまま自席に戻りカバンを手にした降谷さんはこちらに向かってきた。

「お疲れ苗字、資料助かった。お礼に飯でも奢る『いえ、お気持ちだけで…』いくぞ」

お願い事もそうだがこのやり取りに拒否権なんてない。なんだかんだ頑張った後には毎回ご褒美をくれるので、飴と鞭の使い方が本当に上手い人だ。

「ご飯ですかぁ?私も行きたいですっ!」
「無理だ」
「どうしてですか?」

白乃が、皆んなで行きましょうよぉ!というが降谷さんは譲らない。

『私は構わないですよ?』
「…俺が構う」

少しむすっとした顔でこちらを見るが、すぐに視線を白乃へ戻した

「いつまで経っても疎いこいつが、俺の気持ちに気づくまで、使える時間は全て苗字にやることにしてる」

ちょっとざわつく周囲と、きゃあっ!それって!と頬を染めて降谷さんと私を交互に見る白乃。

ん?それって…いやいやないないない!

「いくぞ、苗字」
『え?えぇ?待ってください降谷さんどういうことです?』

降谷さんはふっと笑い、私の手を取った。迷うことなく、机に掛けていた私のバックを掴み、企画課を出ると足を止めて振り返った。

「つまりそういうことだ」

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フラグを折っていたら
新たなフラグが建設されたようです。

『ぇええええぇっ!!?』
「うるさいぞ名前」
『あ、はい。…っ!!!?』
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