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友達?それ以上?

ポアロにきて何時ものようにカウンターに座り、安室さんとお喋りしつつコーヒーとアップルパイを食べた。

しばらくしてそろそろ帰ろうと席を立とうとすると、おもむろに安室さんが口を開いた。

「ーー前に、興味を持たれてたケーキがありましたよね。」
『?…あぁ!テレビで紹介されていた1日20個限定のスペシャルケーキですね?』

有名なパティシエの作るケーキらしいのだが、新鮮なフルーツが零れ落ちそうなほどたっぷりのっていて、とってもおいしそうなのだと、つい先日話したばかりだった。

「えぇ、…探偵業の貰い物ではありますが、実は3つほどそのケーキを頂きまして、僕だけじゃ消化しきれないので、よろしければ貰ってくれませんか?」
『え!良いんですか!?ありがたく頂きます!食べたかったけど、ここからじゃ遠いし諦めてたんです!』

嬉しいなぁと頬が緩むのを抑えられない。

「ありがとうございます。ただ、持ってくるのを忘れてしまったので、この後僕の家に取りに来てください。もうシフト終わりますのでお送りしますね。少しだけ待ってていてください」

『えっ…?』

あっ待って!という言葉が届く前に、にっこりと笑ってカウンター裏に引っ込む安室さんの背中を見送った。

僕の、家…?

ーーーーー
ーー

「名前さん、どうぞ上がってください。」
『いえいえ!そんなっ!うぅ受け取ったら帰りますから!』

男性の家など入ったことなんてないので玄関にいる今でさえドキドキしているのに上がれるわけがない。

「そんな寂しいこと言わないでください。…僕がもう少し名前さんと一緒にいたいんです。ダメですか?」

眉を下げて悲しそうに見てくる。そんな悲しそうな目で見つめられて断れる人がいるわけないじゃないか。

『…ええっと、じゃあ…少しだけ』

おじゃましますと告げると、はいどうぞ、と笑顔に戻る安室さん。え、なに、今の悲しげな表情は演技だったの?

ではこちらへ、と案内してくれる安室さんに続きリビングへ進むと、2人がけのふっかふかのソファへ案内される。

「飲み物お持ちしますね。」

『あ、ありがとうございます。』

安室さんがカウンターへ引っ込んだので、何とは無しにぐるりと部屋を見渡す。モノクロで統一されたシンプルな部屋だが、家具の1つひとつが品の良い物ものばかりでセンスの良さが垣間見える。このソファだってふっかふかだもん…絶対汚さないようにしなくちゃ。


「どうぞ」
『ありがとうございます、頂きます』

安室さんも自分の分のコーヒーを持って隣に座った。…なんだかちょっぴり距離が近い気がするが、安室さんの態度はいつもと変わらない。…これが普通の距離なんだと無理やり自分を納得させて、平常心、平常心、と心の中で唱える。

出されたコーヒーをズズッと音を立てて飲むと、ホッとするいつもの味。ん?いつもの味?

『ポアロで飲むのと同じ…?』

「はい、僕も好きな味なので、ポアロで豆を購入させて貰いました」
『そうなんですね!…いつも思ってたんですが、安室さんの入れる珈琲好きです。…優しい味がします。』
「ふふっそうですか。ありがとうございます。」
『なんで笑うんです?変なこと言いました?』

特に変なことを言ったつもりはないが、何が引っかかったのだろうか。

「いいえ、とっても嬉しいです。ただ…僕の入れる珈琲だけでなく、僕自身も好きになってくれないかな、と思いまして。」

ふぇっ!?、っあっぶない。汚さないと決意したソファに危うくコーヒーをこぼすところだった。手元に移っていた視線を安室さんに戻す。

「僕は名前さんを諦める予定は全くないので、安心して落ちてくださいね」

そう言って優しく微笑む安室さん。

『うぅうう慣れていないのでからかわないでください。』
「からかってない…本心だ」

本心だ、という安室さんはいつもより真剣な顔に見える。

『どうして…そこまで…』
「うん」
『その…思ってくださるんですか?』
「ふふどうしてか…気になりますか?」
『…ええ。』

「そうですねぇ…きっかけは名前さんが初めてポアロにいらっしゃった日です。言葉にするのはやはり少し恥ずかしいですが、運命だと思いました。気づいたらあなたに見惚れていた。」

『っ…』

「あなたに…愛されたいと思いました。あなたの笑顔を近くで見ていたい、あなたと…共に生きたいとそう思いました。」

安室さんの告白に頬が赤くなっているだろうことはわかる。だがしかし安室さんの表情に嘘ではないことが伝わって来て平常心でなんていられない

「…ふふっ照れちゃいましたか?」
『っそりゃあもちろん!』
「僕もです」
『っそうは見えません。』
「ははっ…そりゃあ好きな人にかっこ悪い姿は見せたくないものだろう?」
『あ、あむ…ろさん?』

いつもとは違う少し砕けた口調にどきりとした。そして安室さんは何か言いたげに口を開いたもののそれが音になることはなく口を閉じた。と同時にいつもの優しい笑顔を浮かべた安室さんに戻った。

「…そうですねぇ。僕にはまだ打ち明けられない秘密があります。ですがこの気持ちに嘘偽りはありません。」

「ねぇ、名前さん」
『…はい』
「その秘密を打ち明けられる日が来たら、…僕の話を聞いてくれますか?」

真剣な眼差しにこくりと頷いた。とても大きな秘密なのだろうと、私には察するしかないが。…その日が来たら、彼の話を受け止めたいとそう思った。

「ふふっありがとうございます。…勝手だと分かっていますが、あなたには僕の全てを知って欲しい…いつになるか約束は出来ないけれど…全てを打ち明けられるその時まで、待っていてくれませんか…?」

『安室さんは、ずるいです』

待ちます以外の言葉なんて、出そうにないが、受け取るつもりないだろうに。

「ふふっそうですね。僕はずるい男です。…名前さんを手放さないためならずるくもなる」

優しい安室さんの言葉の端々から見え隠れするいつもとは違う男らしさに、その日はずっとドキドキさせられた。

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