「牡丹」
「はい!」
カレンダーを見て、そういえば、と思い出して牡丹を呼ぶ。
特にイベントに興味は無いが、いつもと違う牡丹を見る口実にできるなら積極的に利用していくべきだろう。
「ここに座れ」
「ん? なにする?」
「ちょっとな」
「きょうはでかけるひだった?」
「いや、特にない」
「?」
「?」が頭に浮かぶ牡丹を置いておき、その癖のない髪に櫛を通す。
特に出掛ける用も無かったが、これが終わったら買い物にでも行くか。
「かみさわられるのすきー」
「そうなのか」
「なんかねむくなる」
「初耳だ」
「そうだっけ?」
よく撫でてーとか髪といてーとか言われるが、そういうことか。
「しょうとのかみはねぇ、さらさら」
「そうか?」
「うん、きれいなあかいいなぁ」
「牡丹も綺麗な髪だ」
括っても癖のつかない、するすると流れる銀色の髪。腰まで伸びているのに傷みもない。
「痛くないか?」
「だいじょうぶ!」
「ん、出来た」
「わー! えーと、ついんてーる?」
「ああ」
ふるふる、と首を振って揺れる二つ括りを楽しむ牡丹。やってみて正解だった。
「ツインテールの日らしい」
「へぇー! さいきんはいろんなひがあるな!」
「そうだな」
うさぴよのヘアゴムが牡丹の可愛さを引き立てている。
「買い物にでも行くか」
「うん!」
「晩飯は何がいい」
「んーおむらいす! しょうとのふらいぱんさばき!」
「わかった」
用意を済ませて、牡丹に靴を履かせて。小さな手を握ってスーパーへと向かった。
―――
「おやつは!? なんこ!?」
「二つ」
「はーい! ちょっといってきます!」
「あ、おい」
止める暇も無く売り場へ行ってしまった。どこぞの男に連れ去られるんじゃないかとか考えるが、あいつの場合個性があれだからいいかという思いもある。どうせすぐ追いかけるというのもあるが。
いつものことだ。
―――
「おやつーおやつー…あ、」
牡丹はどうやら上の方の菓子に目を付けたようで、んーと背伸びをする。が、取れない。
「うーん…」
焦凍はいない。個性は使わない。台もない。
取れない。
「あれ? かつき?」
「…ちび牡丹」
そこでよく知る人物に出会った。勝己は辺りを少し見回して、牡丹に近づいた。ツインテールをしっかり観察してから、口を開く。
「あの半分野郎はいねぇのか」
「しょうとはいまおむらいすのざいりょうをかってる!」
「ちっ」
「なんでしたうち?」
大きな目で勝己を見上げる牡丹は、勝己が葛藤の真っ只中ということを知らない。
「かつき、たのみがあるんだ」
「…んだよ」
「あそこにおおきなくっきーがある! あれをとりたいから、ちょっとだきあげてほしい」
「なんでくっそ重いガキ抱えなきゃなんねーんだよ」
「…そうか、ならいいよ」
「…っ、」
思い切り落ち込んで俯く幼い牡丹は勝己には効果覿面だった。
「しょうとにたのむ…わっ!?」
「あーークソっ!! ほら取れよ」
がっと掴んでぐわ、と上へ。乱暴に抱き上げられたことのない牡丹は心底驚いた。
「び、びっくりした…!! かつき、おんなのこをだきあげるときは、もうすこしやさしくするべき…!!」
「…よくわかんねぇな」
「おとこのちからはかつきがおもっているよりずっとつよいぞ」
「早く取れよ」
目当ての場所まで近づけてやって、掴もうとしたところで遠ざけて空振り。これを二回。
「かつきのいじわる!! おろして!」
「ばーか誰が降ろすか」
「じゃあはやくとらせて!」
「おら」
好きなだけ遊んで、やっと目当ての菓子を取らせた。牡丹は大きく息をついて、クッキーの箱を抱き込む。
「ありがとうかつき、たすかった!」
「あんま食うと横にでかくなんぞ」
「だいじょうぶ、うごくから。かつきはおせっかいだな…わあ!」
後ろからふわ、と抱き上げられて、振り返れば焦凍だった。
しっかりと抱きとめられて、二人は睨み合う。
「…爆豪、牡丹に何かしてねぇだろうな」
「あぁ? どうだろうな」
「お、おやつがとれなかったからてつだってもらったんだ! ほら!」
ぐい、と手にあるクッキーの箱を見せる牡丹。焦凍は渋々納得し、睨むのをやめた。
「かっちゃん! ここにいたの…あれ、牡丹?」
「いずく!」
通路に姿を現したのは、まだ小さいままの出久だった。
「緑谷、爆豪の面倒はちゃんと見てろ」
「え!?」
「逆だろうが何言ってやがんだ!」
「牡丹、帰るぞ」
「いずく、かつき、ばいばい! かつきありがとう!」
背後から勝己の声と出久の止める声。
二人はそれを聞きながら、スーパーを後にした。
―――
「しょうと、はたたてよう」
「好きなの持ってこい」
出来上がったオムライスに、ケチャップをかける。我ながら上出来だと思った。
「きょうは…ひのまる!」
「いつもだろ」
「しょうとはあめりかん」
「ん」
言いながら、爪楊枝の国旗をオムライスに立てる牡丹。
旗は牡丹の自作だ。旗の星の数が異様に多い。
「よし! たべていい?」
「いいぞ」
「いただきます!」
「いただきます」
大きくオムライスを掬い、小さな口いっぱいに頬張る。そんな姿を見せられると作り甲斐もあるな。
「…そうだ」
「?」
「その髪、似合ってる」
まだ言ってなかった、と頭を撫でながら呟けば、牡丹は本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう!」
20150205
―――
アトガキ
そういえばそんな日があったなあと思いつくままに
日は過ぎてますが…
出久と勝己をいつかちゃんと書きたい
ゆるゆる連載もう一個やりたい…
延々と会話が続くような…ネタが欲しい…