焦凍と勝己と出久と
「起きろ、牡丹」
「んー…」
「朝だぞ」
「ふあぁー」
「…はやく起きねぇと置いてくぞ」
「いやー!」

ば、と起き上がった。単純で扱いやすくて結構。

「顔洗ってこい」
「はーい!」

ばたばたと部屋を出ていく牡丹を見送ってから、ベッドをなおす。

今日は緑谷と爆豪と遊ぶ約束をしている…らしい。気に食わないが、本人が楽しみにしているから仕方なく、だ。

「かみといて!」
「ブラシ」
「はい!」

洗面所に向かえば、髪をとかしてもらう準備万端の牡丹が椅子に座って待っていた。牡丹からブラシを受け取り、特に寝癖も見当たらない髪にブラシを通す。

「なにして遊ぶんだ?」
「とりあえずげんじょうほうこく」
「…うん」

それは遊びじゃねぇ、という言葉を飲み込んで、牡丹の言葉を待つ。

「あそびといっても、わたしはなかみはこうこうせい! こうこうせいらしいあそびをする」
「たとえば?」
「そうだなあ…こせいおーけーのおにごっこなんか、たのしそう」
「訓練か?」
「わたしもひーろーになる! れんしゅうは、おこたってはいけない!」

楽しそうって言ってる時点で訓練じゃないよな。遊びだよな。そして高校生は鬼ごっこしないんじゃないのか。

難しい言葉を使いながらも、中身は幼い。

「出来たぞ」
「わーみつあみだ! さすがしょうと! ありがとう!」

いわゆるおさげ。三つ編みを握り込んではにかむ牡丹の前髪に、うさぴよのピンをつける。

「朝飯食ったら行くぞ」
「はい!」

良い返事だな、と小さな頭を撫でた。

―――

「…いずく、ちいさいな?」
「な、なんかぼくもちいさくなっちゃって…」
「なんで牡丹と半分野郎が一緒に登場してんだ」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」

爆豪が連れて来たのは小さくなった緑谷で。しかも爆豪が緑谷を肩に担いで登場ときた。

訳が分からない。

「ちいせぇと歩数合わねぇから担いでやったんだよ、それくらい分かれや」
「…いや、そこじゃねぇよ」
「は?」
「なんで緑谷も小さくなってんだ」
「知るかボケ」
「…会話が出来ないな」
「あぁ!? んだとコラ!!」
「こら! けんかするな!」
「ってぇ!!」
「!」

頭の上から氷塊が落ちてきた。俺は間一髪で溶かせたが、爆豪はもろに頭で受けた。

「何しやがる牡丹!!」
「ふたりがけんかすると、いずくがこまる!」
「…悪かった」
「おろおろしてんじゃねぇよ!」
「…かつき、あんまりいずくをいじめるとおこるぞ」
「…っ、」

幼い牡丹でも、爆豪には効くらしい。むしろこの姿だから余計にきいているのか。どっちにしろ、こいつと話すのは疲れる。

「いずく、もうだいじょうぶ」
「ご、ごめんね…」
「あやまらない! いずくわるくない!」
「ほんとは、かっちゃんやさしいんだよ」
「しってるよ! いまちょっといらいらしてる」
「クソガキが…」
「やめろ爆豪」

ガキはどっちだ。

「もとにもどるほうほうわかんなかった! いずくは?」
「ぼ、ぼくもわかんなかったんだ…ごめん」
「うん! しかたない! しょうと、げんじょうほうこくおしまい!」
「お疲れ」

撫でてーと言われたので撫でる。爆豪と緑谷がなんでこっち見てるのか全然わかんねぇ。

「じたいはあっかしたな!」
「…こいつチビなのに」
「ばかにするなかつき! ちしきはそのままだ」
「誰がバカだクソチビ牡丹」
「ちびといわれようとまけない! わたしはこうこうせいにもどるんだ!」
「多分この話の中じゃ戻れねぇぞ」
「とどろきくんそういうのは…やめておいてあげたほうが…」
「なんで緑谷は中身そのままなんだ」

なんで牡丹は頭(の中)も体も小さくなったのに緑谷は見た目だけなんだ。色々と雑だ。

「まあいいや、おにごっこしよう」
「いいのか」
「じゃんけんでまけたらおに!」

律儀に手を出す男三人。なんだかんだで三人とも牡丹に付き合っている。

「じゃーんけん…」

「ほい!」

「………」

「瞬殺で捕まえてやらぁ、てめぇらさっさと逃げやがれ!!」
「きゃー!」

まさかの爆豪一人負けだった。パキパキと骨を鳴らし手から爆発音をさせながら子どもを追いかける爆豪は、何も知らない人から見れば通報されてもおかしくない。

「緑谷、お前一人でいけるか」
「うん、だいじょうぶだよ」
「そうか、なら俺は」

ひょい、と牡丹を抱き上げた。

「牡丹を連れて逃げる」
「う、うん…がんばって」
「あ、このこうえんないだけだからな! あとこせいつかってもいいよ! けがはしないように!」
「わかったよ! 牡丹もがんばってね」
「いずくもー!」

多分緑谷はすぐに捕まって、鬼の方で本気出すだろうな、となんとなく思った。ただの遊びだが、爆豪に捕まるのは癪だ。

「牡丹、どうする」
「そうだなー、たぶんかつきはいまいずくをおいかけてる!」
「だろうな」
「どうしようかな! どっちさきにとめたほうがいい?」
「…緑谷だな」

爆豪を利用した上で二人を捕まえる、あいつが考えそうだろうか。読めない奴は先に捕まえておいた方がいい。

「しょうとあんしんして! しょうとがおにになるときは、わたしにつかまるときだから!」
「わかった」
「あ、かつききたよー! いらっしゃーい!」

抱き上げられている牡丹には俺の肩越しに背後が見えている。こいつどこでそんな挑発覚えてくるんだ。

「えーいみずばくだん! くらえ!」
「待ちやがれ半分野郎!! 牡丹連れて逃げてんじゃねぇ!!」
「知るか」

ぱしゃんぱしゃんと破裂する音が聞こえる。顔に水が当たってるんだろう。地味に鬱陶しいやつだな。

「しょうと! かつきういてるからじめんいみない!」
「じゃあ好きに使え」
「わかった!」

後ろを凍らせながら走ってたが、爆豪は走ってないようだ。流石に何度も同じ手にはかからないか。

広範囲を凍らせておいて、牡丹の個性の足しにする。

「うざってぇんだよクソが!!」
「牡丹にいいようにやられてんな」
「黙れ半分野郎!」

あ、やばい。そろそろ追いつかれそうだ。よく考えれば爆破と普通の足なら俺は不利だ。

「牡丹、頭下げろ」
「ん―――ふぁ!?」
「!?」

木の枝をくぐろうとしたとき。ぱ、と腕の重さが消えた。

牡丹が腕からいなくなった。

「…ごめん、しょうと」
「…やられた」
「つかまっちゃったー」

緑谷が枝の上に隠れていたとは…

木の枝に足でぶら下がった緑谷に、牡丹がぶら下がっている。結構な高さで、普通に危ない。

「ごめん…ここからかんがえてなかった…!!」
「わ、おちるおちる!」
「牡丹!」

ずる、と嫌な音を立てて二人の手が滑る。

「―――! しょうと!」
「…あ、ありがとう」
「…緑谷」
「ご、ごめんなさい!」
「しょうとありがとう!」

間一髪で落ちてきた二人を受け止めた。ぎゅうぅ、と牡丹に抱きつかれて、自動的に俺も捕まったことになる。

「デクてめぇ、いねぇと思ったら…」
「かつき! おわったよ!」
「は」
「わたしはいずくにつかまった! わたしは、しょうとをふほんいながらつかまえた!」

おつかれさま! と爆豪の膝を叩く牡丹。

「いずくにおどろいた! かたぬけてない?」
「だいじょうぶだよ、ありがとう」
「ならよかった! ―――わ!」

ひょい、と爆豪が牡丹を抱き上げる。それを阻止しようと、牡丹の体を引き寄せる。

「牡丹に触んな」
「いたたた」
「うるせーよなんで半分野郎が良くて俺がダメなんだ」
「黙れ牡丹は俺のだ」
「ものじゃねぇよ手ェ離せ」
「わ、わたしがさけるのと、ふたりがなかなおりするのどっちがはやいかなー!! さけるー!」

ぱ、と同時に手を離してしまった。やばい、落とす…!

…と思ったが、牡丹は水をクッションにして着地した。

「いずく、いまどうしてるの」
「へあ!?」

今の引っ張りあいなんか無かったかのように緑谷に話しかける牡丹。

「かつきにいじめられてない?」
「だいじょうぶだよ!」
「んーそうか…」

んーと唸ったままで、袖を引っ張られた。抱き上げて欲しいときに、牡丹はよくこれをする。

ついでに言うと眠いってことだ。

牡丹を抱き上げ、背中をぽんぽんと叩く。多分もうすぐ寝るだろう。

「俺たちは帰る」
「はあ?」
「緑谷、お前ははやく元に戻れ」
「努力するよ…!」
「じゃあな」
「うん! 牡丹、ばいばい」
「ん、ばいばーい…」

後ろから爆豪が引き止める声が聞こえたが、緑谷に止められていた。牡丹が寝ると気付けばあいつも大人しくなるだろう。

「ぷりん…」
「そうだな」

完全に眠りに落ちる前の一言は、それだった。

まだ冷蔵庫に一つあったっけな。

20150129















―――
アトガキ

小さい子と焦凍にして欲しいことをのんびり書いていくだけのシリーズ

登場人物は3人までが限界だと痛感しました
必ず一人空気になっている感が拭えない

何故かとばっちりで出久まで小さく

まとめると、
出久→見た目は子ども頭脳は大人(高校生)
牡丹→見た目も頭脳も子ども
こうなります

勝己と出久の口調が違ってたらごめんなさい

焦凍と勝己で牡丹の取り合いしてほしいと常々思っていました
勝己は常に牡丹を抱っこできる焦凍が気に食わない
牡丹は何にも考えてない

勝己と牡丹の話はまた本編で

あと出久と焦凍がメタ発言してます苦手な人はごめんなさい

拍手ありがとうございました
文章の糧にさせて頂きます


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