「はいはい、おやつですよっと」
「! …?」

カランカランと扉から出された、皿に乗った角砂糖。ふざけるなと言いたかったが、牡丹はどうやら違うところに反応しているらしかった。看守を見つめ、首を傾げている。

「…だれ?」
「お? ああ…」

いつもの看守と同じ目、同じ声。だがその雰囲気はまるで別物だ。

「どうも、看守ですよーはじめまして」

牡丹は看守が五人いることを知らなったか。

「…かんしゅ…? ちがう…」
「わかるんだ。すごいな牡丹ちゃん」

口笛を吹きマジックハンドで牡丹を指す。…こいつは、五人の中でも特に気に食わない野郎だ。

「看守は五人いるんだよー」
「ごにん?」
「うん、珍しい五つ子なんです」
「…へぇー」

何となくで相槌を打つ牡丹。わかってないようだが、特に支障もないから別にいい。

「で、おやつを持ってきたんだけど。食べないの?」
「けーきがいいー」
「…贅沢だね。囚人ってことを忘れないでよね」

ほら食べな、と角砂糖をつつく看守。牡丹はそれを見て、

「…きれねんこー…」

こちらに助けを求めてきた。

「………」

そろそろ糖分の補給もしたいと思っていたところだ。丁度良い。

ぱたんと雑誌を閉じて立ち上がるのと、マジックハンドが伸びるのはほぼ同時だった。

「わ!?」

牡丹がマジックハンドに捕まり、看守に引き寄せられた。

「No.04、君がそれを食べたら牡丹ちゃんを解放してあげるよー」
「…死にたいか」
「いやー最強最悪の死刑囚の唯一で最大の弱点ぽいから、日頃のお返しにと思って」

扉越しでも分かるほどに底意地の悪い笑みを浮かべている。マジックハンドは牡丹の細い首を掴んでいて離れそうにない。

「きれねんこーすぱなちょうだい」
「は!?」
「………」

何とも緊張感のない声が響いた。

「…ああ」

看守が動揺している間にスパナを投げてやると、牡丹は目にも止まらぬ早業でマジックハンドを解体した。

ばらばらと落ちる部品が地に着くよりも速く、牡丹を片腕で抱いて扉ごと看守に拳を打ち付けた。耳障りな轟音と共に、扉と看守が壁にぶち当たる。

「…っ!!」

悲鳴すら出さず看守は気絶した。

「きれねんこ、すごーい…」

抜けた扉を見て牡丹がそんなことを呟いたが、さっきのスパナ捌きには俺も同じ感想だ。


―――


「かんしゅ、ありがとー!」
「はい、どういたしまして」

さっきの看守は引き下げられ、出てきたのはいつもの看守だった。幸せそうにケーキを頬張る牡丹を見て小さくため息を吐きながら、自らの口にもケーキを運ぶ。

「…似ても似つかない兄弟だな」
「性格まで似たら気持ち悪いだろ。…牡丹、怪我は?」
「してない! だいじょうぶ!」
「そうか、なら良かった」
「………」
「…睨むなよ、言いたい事はわかる」

「きれねんこ、はい」
「…ん」

はい、と差し出された一口大のケーキを食べる。

「あいつも悪いが、あんまボロボロにされると人手が足りなくなるからちょっと押さえろ」
「知るか」

扉の向こうから盛大なため息。牡丹を人質にされておとなしくできると思っているのならこいつはおかしい。

「ごちそうさまでした! おいしい!」
「…良かったな」

無邪気に笑う牡丹に、俺も看守もほぼ同時にため息を吐いた。

20150306















―――
アトガキ

公式では五つ子とも五人いるとも書いてなかった気がします
リンチの時間に五人いるので勝手に五人にしてます
そして五つ子です

看守1→いつもの看守、面倒見が良い
看守2→未定
看守3→今回気絶した、随一の屑
看守4→未定
看守5→未定

今のところこんな感じです

最後の二人のため息は牡丹が無事でよかった、みたいな感じのものです

牡丹がスパナ捌きすごいのはプーチン譲り

ありがとうございました
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