ノックもなく扉が開き、キルが顔を出した。こいつがノックもなく扉を開ける時は仕事か急ぎの用と相場が決まっている。

「キレ、書類は」
「…机に置いてある」
「ん、ありがとう」

ここまでは、いつも通りだった。

「!」

突然の殺気を感じ、二人同時に構える。それとほぼ大差無いタイミングで窓ガラスから塊が飛び込んできた。

ガラスの割れる音と共に転がって立ち上がったのは、

「子ども?」

マスクで顔を半分以上隠し、上半身はほぼ包帯で覆われた長い金髪のガキ。そいつは俺とキルネンコを見比べ、俺の方へと突っ込んで来た。

「…いい度胸だ」
「………」

丸く大きな目は真っ直ぐ俺を見据え、感情を写していなかった。

ガキの持っている獲物は、確か日本刀というんだったな。

「わっ、こっちもか!」

傍観していたキルネンコに、音も無く現れた黒髪のガキが襲いかかった。

振りかぶったところ、がら空きの腹を蹴り飛ばして様子を見る。

「………」

普通に起き上がってきた。肋骨が折れてもおかしくないんだが。

「キレ! 二人とも女の子だ! そんな手荒な…」
「…俺が死ぬのとガキが怪我するの、どっちがいい」
「キレが死ぬなら怪我の方がいいけど、その前提は間違ってる」
「…命狙われてんのに悠長だな」

避けた瞬間、背中合わせだったキルも避けたらしい。金髪の刀と黒髪の短剣が交錯した。

…黒髪の短剣、あれに触れたら無事では済まなそうだ。

「火傷じゃ済まないな」
「あれはちょっとやばい」

黒髪の持つ短剣は、刃の方が発熱しているようで、赤く鈍く光っている。触れたらまず焼け爛れるだろう。

「おとなしく帰ってもらおうか」
「…そう上手くいくか」

ほぼ同時に走り出し、金髪の手首を狙って手刀を下ろした。多分骨が折れただろう。落ちた日本刀を踏みつけて、窓の方へガキを蹴り飛ばした。割れて解放されていた窓から、ガキはあっけなく落ちていった。

続いて、黒髪の方も窓から放り出される。

「………」

日本刀を拾い上げながら、窓から様子を見るキルの言葉を待つ。

「…行ったみたいだ。足速いな」
「ボス!! どうしましたか!」
「丁度いいところに来た」
「…片付けを」
「はい!」

部屋は酷い有り様だった。まず窓ガラスの破片がそこら辺に散らばっている。ソファからは中身が飛び出して、壁はボロボロだ。

部屋を出て、特に行く当ても無く廊下を歩き出す。

「あの二人、ちょっと前に現れた包帯の殺し屋じゃないかな」
「…ガキだったぞ」
「子どもって言っても、そんなに小さいわけじゃなかったけどね。結構強かった」
「…そうだな…血の匂いだ」

ガキの置いて行った日本刀には、血の匂いが染み付いていた。見た目からして、余程使い込んでいる。

「報酬さえ積めばどんな奴でも殺すって話」
「…ガキに報酬か」
「いや、交渉と報酬の受け取りは白髪混じりの男がやるらしい。何かその時のセリフが、"君たちの思う、この子たちの美しさに見合う分だけの報酬を出してくれればいい"だとか」
「…詳しいな」
「気味悪いおじさんだよね」
「…そういえば、ここは三階だ」
「今? 遅いよ」
「………」
「普通に無事だったみたいけど」
「面倒だな」

随分丈夫な体か、もしくは高い身体能力を持っているか…どちらにしろ厄介だ。

「それにしても、殺し屋なんてしばらくだったな。珍しいね」
「…殺し屋自身も依頼の完遂が出来ないからな。身の程知らずか」

俺たち二人は凡人じゃまず殺せない。それをわかっていて尚けしかけたなら、相当身の程知らずといっていいだろう。

「もしくはその男がけしかけたかも」
「…?」
「この子達の美しさに見合う、なんてかなりの自信があるんだろ。父親か、手塩にかけて育てたかな」
「…悪趣味だ」
「相手が悪かったね」
「美しさと強さに関係があるか」
「ああ、それはあれじゃないかな。強い程美しいってやつ。実際美しいっていう可能性もあるけど」

俺達は強いけど美しさとは程遠いねーなんて笑いながら、キルは俺の手から日本刀を取った。

「うわ、軽い」
「?」
「日本刀ってもっと重いんだけど。あの子用かな」
「…可能性はあるか」
「あるね。細い腕で思いっきり振り回してたからおかしいと思ったんだ」
「………」
「取り返しに来るかな」

当ても無く歩いて、辿り着いたのはお決まりのスニーカー保管庫。

「…寝る」
「ここで?」
「…片付けが終わるまで」
「ああ、そうか。おやすみ」

靴磨き用にと置いたソファに凭れ、ものの数秒もかからず眠りについた。


―――


「れにんぐらーど! きゃっち!」
「ゲコ」
「ないすきゃっ…あー! だめー!」

牡丹の声で目が覚めた。向かいのベッドでは、コマネチがレニングラードに飲まれているところだ。

「あ、きれねんこ! おきた」
「…ああ」

俺を見つめる、丸く大きな目。

夢の中のものと酷く重なったそれは、似ても似つかない生気を宿している。

「…牡丹」
「はい!」

膝の上に牡丹を座らせ、指通りのいい髪を何度も梳く。あの頃より随分成長したな…なんて思いながら、牡丹の目を見つめた。

「きれねんこ?」
「…そんな事もあるんだな」
「…?」

事実は小説よりもなんとやら、とはよく言ったものだ。

「…牡丹、俺が消えたらどうする」

ぽつりと、そんな事を呟いた。牡丹は驚いて顔を上げ、泣きそうな顔をする。

「いや!!」

飛びつく、なんて生温く、頭突きの勢いで抱きついて来た。

「いっしょ! やくそく!」

ん!! と涙目になりながら小さな小指を目の前に出して来た。指切りというやつか。

「…わかった。約束だ」

その小指に自分の指を絡めると、牡丹は必死に、拙い言葉で指切りの唄に似たものを唄いながら指切りをした。

似たもの、というのは、牡丹の歌詞がうろ覚えだからだ。

「ぜったい!!」
「…わかった」

今にも泣きそうな牡丹の頭を撫で、安心しろ、と呟くと牡丹は好き! と言って笑った。

20150302















―――
アトガキ

トイレの時間書けないのでこれで代替…させてください。

キレがいつもより喋っている気がします

おやつの時間よりもこっちの方が早く書きあがってます

趣味詰め込みすぎて申し訳ないです…

ありがとうございました


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